日本ではオンラインカジノは「真っ黒」 海外業者への国際捜査が必要な事態、“底なし問題”を弁護士が解説

オンラインカジノ問題が止まらない。『M-1グランプリ』を連覇したお笑いコンビ・令和ロマンの高比良くるまら吉本興業のお笑いタレントに続き、他の芸能事務所やスポーツ界からも次々とカジノ利用者が発覚している。問題が底なしの様相を見せる中、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「カジノ業者を日本の法律で摘発できる可能性」を指摘した。

西脇亨輔氏
西脇亨輔氏

元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔氏「毅然とした態度を」

 オンラインカジノ問題が止まらない。『M-1グランプリ』を連覇したお笑いコンビ・令和ロマンの高比良くるまら吉本興業のお笑いタレントに続き、他の芸能事務所やスポーツ界からも次々とカジノ利用者が発覚している。問題が底なしの様相を見せる中、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「カジノ業者を日本の法律で摘発できる可能性」を指摘した。

愛車は世界200台限定のメルセデス…人気女優のクラシックな愛車遍歴(JAF Mate Onlineへ)

 大前提として、オンラインカジノに手を染めた人はその罪にしっかり向き合わなくてはならない。オンラインカジノは我が国では「グレー」ではなく、「真っ黒」な賭博罪。そのホームページには賭けに勝った場合の「出金方法」も宣伝されている。「オンラインゲームの延長だと思った」という言い訳も通用せず、カジノ利用者の責任は重大だ。ただ、一方で腑に落ちない点もある。

 なぜ、カジノ業者は野放しなのか。

「業者は本拠が海外で、その国ではカジノが合法だから摘発できないんでしょ」という声もあるが、それは違うと思う。実は海外で活動する業者でも、日本の刑法で罰することができるはずなのだ。

 我が国の刑法第1条には「この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する」と書かれているが、この「日本国内において罪を犯した」というのは犯罪行為そのものを日本でした場合だけでない。犯罪の「結果」が日本で起きた場合なども、広くこれに含めて日本の刑法を適用する。これが判例の考えだ(学界では「偏在説」と呼ばれる)。

 最近、よく問題となるのが「わいせつ画像の海外からの販売」。日本では「わいせつ罪」にあたるような画像も、国によっては許されている場合があるが、そうした国から日本にわいせつ画像を送ったら、犯罪なのか。この点について東京高裁は2013年、米国から日本向けにわいせつ動画を販売した事件を「日本の刑法で有罪」とした。「客が日本でわいせつ動画をダウンロードしたから、犯罪の一部が日本で起きている」というのがその理由だ。

日本の法律で裁くことは「可能」

 では、オンラインカジノはどうか。

 この点の確定した判断はまだ出ていないが、賭博は1人ではできない。賭けの相手という共犯者がいて初めて賭博罪は成立するので、その片方が日本にいれば、「賭博の一部は日本で行われた」と言えそうだ。また、オンラインカジノという賭博の場が日本国内に現れた以上、日本に賭博場の開張という「結果」が生じている。とすると理屈の上では、海外のオンラインカジノ業者でも、日本を舞台に賭博犯罪をしたとして日本の法律で裁くことができると思う。

「業者の国では合法なのに、日本の法律で口出ししていいのか」という懸念もありそうだが、問題のオンラインカジノ業者は意図的に「日本」をターゲットにしている。あるサイトは「完全日本語対応サポート」をうたって日本向けに盛んに広告を出し、日本のIR法について「このカジノ法案がオンラインカジノに影響することはありません! ご安心ください」という解説もしていた。このように業者が「確信犯」で日本をカジノ事業の標的にしている以上、日本での賭博犯罪を問うても問題ないのではないか。

 一方で、理屈とは別に現実問題として、日本の捜査機関が海外カジノ業者の捜査に動くことはできるのか。業者はタックスヘイブン(租税回避地)である中米・オランダ領キュラソー島などに本拠を置いていて、捜査のメスを入れるには外交上の折衝が必要。ハードルは高そうだ。

 しかし、だからと言って放置していいのか。通信手段が進化し、特殊詐欺など深刻な犯罪の多くが海外から行われるようになった。それなのに「外国だから」と放っておいたら、日本は国際犯罪の「食い物」にされてしまう。

 今回のオンラインカジノ問題は、日本が海外から狙われていることも浮き彫りにした。「総務省がオンラインカジノにアクセスできないようにする『ブロッキング』規制の検討を始めた」とも報じられたが、実現にはまだ時間がかかるだろう。そうした中で犯罪の国際化に対抗するには、外交交渉をしつつ、国際的な捜査や対応を進めることが欠かせないと思う。海外のカジノ業者に「やられっ放し」ではなく、毅然とした態度を示すことも、問題の根本解決には必要なのではないだろうか。

※高比良くるまの「高」の正式表記ははしごだか

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ) 1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください