北海道も愛車で出張 社内からは「時間の無駄」の声も…神奈川在住のヤリ手経営者が“自動車通勤”にこだわるワケ
勤務先が大都市なら自家用車を所有していても通勤手段は電車という人は多いだろう。渋滞はもちろん、事故や通行止めなど予測できない道路事情はリスクが高いからだ。一方で、車好きの経営者の中には、どんなときでも自らハンドルを握って車で通勤しているというツワモノも……。地球25周分の距離を車で移動したというICVコンサルティング株式会社の今井將一社長に詳しい話を聞いた。

自宅から新宿まで毎日片道1時間半…「すごく使い勝手がいい」と語るワケ
勤務先が大都市なら自家用車を所有していても通勤手段は電車という人は多いだろう。渋滞はもちろん、事故や通行止めなど予測できない道路事情はリスクが高いからだ。一方で、車好きの経営者の中には、どんなときでも自らハンドルを握って車で通勤しているというツワモノも……。地球25周分の距離を車で移動したというICVコンサルティング株式会社の今井將一社長に詳しい話を聞いた。(取材・文=水沼一夫)
「まず第一に、車が好きっていうのは1つありますよね。それだけじゃなくて、公共交通機関ってやっぱり他者依存。これは僕の勝手な考え方ですけど、例えば遅延だったり、止まっちゃいますよっていうことも全部、他者依存なんですけど、車って自分依存なんですよね。自分さえちゃんと気をつけていれば、遅れることはないし、止まることもない。車はすごく使い勝手がいいんですよ」
今井氏の愛車はBMWの7シリーズ、3シリーズの2台。自宅のある神奈川・三浦市から、本社のある東京・新宿まで毎日片道1時間半をかけて通勤している。経営者であれば、運転手をつけてもいいはずだが、「後ろは乗らないので、仮に運転手を雇ったとしても、僕が運転して運転手を後ろにします」ときっぱりだ。
都内だけでなく、遠方への出張も車を使う。
「それこそ昨年、一昨年と札幌出張があったんですけど、そこも車で行きましたし、あとよく行くのは大阪ですね。米子にも業務再委託している会社があって、そちらに打ち合わせ行くこともありますけど、全部車で移動するんです。島根県、鳥取県も1日で行っちゃいますね」
自宅から大阪までは休憩を入れながら片道6時間半かかる。新幹線を使うビジネスパーソンが多い中で、異色の存在だろう。
6年前の創業以来、仕事で新幹線を使ったことは一度もない。乗り物は大好きだが、飛行機も1回きりだ。
唯一のケースについて聞くと、「札幌出張に車で行って、東京にすぐ戻ってこなきゃいけなくて、その東京戻り、札幌また戻りの往復に飛行機を使ったことはありましたね。至急対応しなきゃいけなくて、僕が本社に戻ってきて、印鑑押して、また札幌に戻るみたいな」と、緊急事態だったことを明かした。
社長が常に車で移動することは社内にも知れ渡っている。ただ、時に非効率な車の移動には、役員から「時間の無駄じゃないですか」と声が上がることもあった。
なぜ今井氏はこれほどまで車にこだわるのだろうか。
そこには独自の哲学があった。

新車価格1800万円…愛車は「動く社長室」 驚きの機能が満載
「車運転しているときって1人じゃないですか。ものすごい集中できるんですよね。例えば組織のことであったり、新しい事業もそうですし、子会社を作ろうとか、いろんなアイデアを1人で考えることができる。事務所にいると、ゆっくり考えたいけど、目の前にある仕事に追われていくじゃないですか。だからドライビング中の時間はすごく重要だなって僕は思っています」
車内の快適さは、オフィスにいるときと変わらないと言う。都内への出勤には3シリーズ、出張には7シリーズと使い分けるが、上質なシートが体を包み込み、ハンズフリーの通話によってテキパキと業務をこなしている。静寂性は抜群で、朝の騒々しい満員電車とは無縁だ。今井氏自身、「動く社長室」と表現したように、実際の社長室と遜色ない空間が醸成されている。
しかも、自宅から出るとすぐに、“社長室”に入ることができる。通勤時間をロスするどころか、最大限に有効活用できるというわけだ。
「荷物もたくさん持っていますし、出張になるとキャリーケースも加わってくる。そういう面を考えると、ドアトゥードアで行ける車ってすごく便利なんですよね。荷物もトランクに積んじゃえば重たくないですし、ホテルに着いてもそのまま駐車場に車を停めて荷物を持っていける。新幹線は快適だと思います。ですが、トータルで考えると、やっぱりドアトゥードアで利便性がいい。僕は車のほうが優先かなと思っています」
新車価格1800万円の7シリーズは最新機能が満載で、運転席にはマッサージ機能がついている。ハンドルを握りながら疲労を取り除いてくれる。高速ではオートクルーズが効力を発揮し、「ハンドルにちょんと触ってるだけで、あとは任せていられる。追い越しも、ウインカーピッてやったらちゃんと前後見て自動でしてくれるので、めちゃめちゃ便利ですよ。疲れを検知するとアラートを出してくれるし、すごいなと思います」。長時間の移動も、周囲が心配するほどの影響はないという。
一方で、オンタイムに到着するため、道中は細心の注意を払っている。
「交通情報はちゃんと見ています。湾岸が混んでるのか、第三京浜が混んでるのか、東名が混んでるのかとか。これはナビでも分かりますし、道路の掲示板でも分かるじゃないですか。あとは、自分の経験で判断しています。ナビを見ていても、『いや、このナビちょっとおかしいな。この渋滞の長さを見ると、湾岸だと絶対間に合わないよな』と思えば、別の道を選んだりします」
もちろん、余裕をもって家を出るというのは鉄則だ。
「ものすごく重要な商談のときは、かなり前もって出ます。2時間半前に出ることもありますね。結果、早く着いちゃったっていうケースのほうが多いんですけれども」

20台の愛車遍歴…個人民事再生で「アルファードは持っていかれちゃいました」
過去には思いがけないことで、ヒヤリとしたこともあった。
「1度まずいかもなと思ったことがあって、横横道路(横浜横須賀道路)に乗っているとき、逗子インターの手前で止まっちゃったんですよ。事故でもなんでもなくて、“三浦半島あるある”なんですけど、皇族車両の通過待ちだったんです。葉山御用邸があるじゃないですか。ご休養にいらっしゃるときとか、お帰りになられる際、通行車両を全部止めるんですよね。商談で待ち合わせしてたときだったんですけど、下手すると間に合わないので、場合によっては逗子で降りて横須賀線に乗ろうか……と考えました」
再び道路が動き出し、商談には間に合った。日々の通勤で遅刻をしたことはない。
これまで購入した車は計20台ほど。最初は大学2年生のとき、クラウンを手に入れた。大学は卒業まで8年を要し、その間、シーマ、カローラ、マークII、再びシーマと国産車を乗り継いだ。社会人になるとまずはセルシオ。結婚を機に、ランドクルーザープラド、ランクル80、レガシーツーリングワゴンと車種を変えた。純正ゴールドカラーのレガシーは、「僕が乗った日本車の中で1番いい車かなと思うぐらい」という思い出の1台だ。
子どもが産まれると、スライドドアのアルファードを買ったが、このころ、今井氏は事業に失敗。「僕、個人民事再生したんですよ。もう破産の一歩手前。で、アルファードは持っていかれちゃいました」と悲運をたどる。その後、知人の中古車店に紹介してもらったのがフォルクスワーゲンのニュービートルだった。初めてのドイツ車に今井氏はぞっこんとなった。
家族が増えて、今度はホンダのエリシオンを迎えた。そしてエリシオンプレステージにグレードアップ。「当時ワンボックスでは1番出力の高い車だったんですよ。これは最高に面白い車でした」。子どもが大きくなると、セダンを物色。ドイツ車に好印象を抱いていた今井氏は複数のBMWを挟み、現在の愛車に落ち着いた。7シリーズで初めて新車を買った。
「僕はすごい乗るので、基本新車は買いたくなかったんですね。新車買うと変な話、すぐ10万キロいっちゃいますので、値落ちが半端ないじゃないですか」

オフもドライブでリフレッシュ お気に入りのルートは「景色もすごくいい」
会社は、コールセンター業務の効率化を促進するコンサルティングを柱に複数の事業を展開している。
「例えば、オペレーターが30人なら1日で取れる電話の件数って限られてるじゃないですか。それ以上の電話が入ってきたときにつながりにくいセンターだと、やっぱりエンドのお客様は困っちゃいますよね。なので、そういう体制にならないためにどうすればいいかってことをコンサルしています。コンサルしていると、じゃあ直接運営してくれないかという話も来たりしますので、うちで直接受託運営をして、お客様のご要望に沿うようなセンターを作ってくというのが分かりやすい例だと思います」
意識しているのは、オペレーターの数を増やすのではなく、問い合わせの件数を減らすということだ。
「お客さんは分からないことがあると電話する前にホームページで調べると思うんですよ。で、そのホームページで調べて出てこないから問い合わせをせざるを得ない。なので、そのお問い合わせの内容をちゃんと我々が精査して、これはホームページに載せたほうがいいですよとか、FAQを載せましょうと伝えます。FAQも、テキストで書くだけじゃなくて、テクニカル的なものは動画にしちゃうんですね。それをFAQに載せることによって分かりやすくする。そういった提案をしたり、実際我々が動画制作をして納品したりしています。要は電話の入ってくる件数を徹底的に減らして、無駄なコストをなくす。エンドのお客さんも利便性を高めていく。これを実現する世の中にしませんか、というのが僕らのコンセプトなんです」
業績は好調で、「今年6期目ではありますが、おかげさまで本当に創業した時から無借金黒字経営で、毎年、今のところ前期比倍の増収益できています」。そのベースとなる事業計画のアイデアは、愛車を運転中に生まれ、具現化したことも多い。
そんな今井氏のオフの日のリフレッシュ方法は何か。
言わずもがな、ドライブだ。お気に入りのコースを聞いた。
「日本全国いろんな道に行きますけど、運転して面白いなと思うのが志賀(草津)高原道路ですね。草津温泉から渋峠という峠を越えて、まさに志賀高原のど真ん中を通る道なんですけど、このワインディングを夕方通るのがすごく好きなんですよ。なんでかと言うと、夕方はほぼ車が走ってないんですね。非常にストレスなく走れて景色もすごくいい。ものすごくリフレッシュしながら運転できます」
中学生のときから政治家を志し、自身も県議や市議選に立候補した経験を持つ。また、国政では一時期、元有名議員の秘書を務めていた。人生に紆余曲折がありながらも、ビジネスの道で能力が開花した。
4月には国内4拠点目となる青森・弘前支店をオープンさせる予定だ。
「今後弘前ができてもおそらく車で行くと思います。おそらくじゃないな、間違いないね」と、今井氏は締めくくった。
