引きこもり→弾き語り動画で大バズり CMソング話題の新人シンガー「気持ちを歌にする場所が欲しかった」
昨年秋、Amazonプライム広告(アーバンジャングル編)のCMソングに1stシングル『秘密の』が抜てきされて各チャートで好成績を記録し、一躍話題になった新人シンガーのAki(アキ)。新曲『話そうぜ』(『トウ』と両A面)が、現在放送中のテレビ東京系連続ドラマ『晩餐ブルース』(水曜深夜1時)のエンディングテーマに起用されるなど、勢いはさらに増している。そこでENCOUNTはネクストブレイクと期待されるシンガー・ソングライターの素顔に迫った。

話題急上昇のシンガー・ソングライター、Aki テレ東連ドラのEDテーマにも起用
昨年秋、Amazonプライム広告(アーバンジャングル編)のCMソングに1stシングル『秘密の』が抜てきされて各チャートで好成績を記録し、一躍話題になった新人シンガーのAki(アキ)。新曲『話そうぜ』(『トウ』と両A面)が、現在放送中のテレビ東京系連続ドラマ『晩餐ブルース』(水曜深夜1時)のエンディングテーマに起用されるなど、勢いはさらに増している。そこでENCOUNTはネクストブレイクと期待されるシンガー・ソングライターの素顔に迫った。(取材・文=福嶋剛)
ハスキーな声質と独特なビブラートから生まれる美しい響き――。楽曲『秘密の』は当時、「Shazam Top 200 Japan」チャート12日連続1位を記録し、Spotifyの「バイラルトップ50」日本チャートでも1位になるなど注目され、話題急上昇に。今年に入ってからも勢いは止まらず、テレ東系『晩餐ブルース』のエンディングに流れる、書き下ろしの新曲『話そうぜ』は、早くもファンらの関心を引いている。
そんな、一度聴いたら忘れられない歌声の持ち主の幼少期は男勝りの活発な少女だった。4歳から高校までフィギュアスケートを習い、子どもたちに滑り方を教えてあげていた。
「スケートはプロを目指していたわけではなく趣味で続けていました。小さい頃は泥だらけになって外で遊ぶことが大好きで、家ではジブリの映画や『天才てれびくん』(NHK)の歌のコーナーが毎日楽しみでよくテレビの前で歌っていました」
もともと歌うことが好きだったAkiは、小学生になるとアイドルに夢中になった。
「Berryz工房さん、℃-uteさん、Buono!さんが大好きで、ハロープロジェクトのアイドルに憧れていました。勉強は苦手で中学では下から数えた方が早いくらいの成績でしたが、高校受験が近付いてきて、必死に勉強したら何とかクラスの真ん中くらいまで順位を上げられました」
音楽を始めたのは高校に入ってから。軽音部でドラムを叩いていた。
「もともと弾き語りをやりたかったんです。でも、部員の子に『ドラムをやってほしい』と頼まれて、そのままバンド活動を始めました。アニメの『けいおん!』が流行っていた時でよくコピーしていました。3年になってバンド活動が終わり、たまたま家にあったアコースティックギターを独学で覚えて弾き語りを始めました」
誰に憧れていた訳でもなく、ただ自分の思いのままにギターを弾いて歌うのが楽しかったという。
「趣味の延長だったので家でひたすら誰かの曲をコピーしたり、何となくオリジナルを考えて歌っていました。高校最後の1年間を振り返ると今につながるとても濃厚な月日でした」
高校を卒業し、社会人として働き始めたが、ここで大きな挫折を味わうことに。
「周りになじめなくてドロップアウトしてしまい、引きこもりの生活が始まりました。私は嘘がつけないし、いろんなことに気付いてしまい、そのたびに考えすぎてしまう性格で……。社会で上手に生きている人たちと一緒にやっていくことができなくて“強制終了”してしまいました」
彼女の決断は自分に正直に生きてきた証でもあった。そんな時にSNSでの弾き語りを思いつく。
「自分の気持ちを歌にする場所が欲しかったんです。それでTikTokを見つけて、歌を投稿してみたら『私みたいな苦しみを抱えた人はほかにもいるかも』って思ったんです」
するとAkiの歌に共感したコメントが日に日に増えていった。
「初めは200人くらいの視聴者数でしたが、その後も増えて、私と同じ思いを抱えている人がたくさんいると分かりました」
その後、SNSを通じ輪が広がっていく。TikTokを見たプロデューサーの上口浩平氏をはじめ、彼女の現在につながる仲間たちが声をかけ、真っ暗だった彼女の心に光を射し込んだ。
「彼らが私の分厚くて硬い殻を破ってくれました。今もずっと一緒に作っている大切な仲間たちです」
以来、Akiの躍進が始まる。昨年1月にデジタルリリースした1stシングル『秘密の』が、AmazonプライムのCMソングに起用されると、個性的な歌声と内省的な歌詞が話題となり、SNSを中心に「気になるシンガー」と注目を集めることに。本人の予想をはるかに超えた周囲の盛り上がりにネクストブレイクの予感が漂った。もっとも、初めは戸惑ったという。
「CMが流れ始めてから、たくさんの反響をいただきました。もちろんうれしかったですけど、ファンの人たちに『あっち側の世界に行っちゃうんだ』って思われないか不安でした」
あっち側――。有名になることで、これまで支えてくれたファンとの距離感に気をもんだのかもしれない。嘘がつけないAkiの言葉には、大切にしてきたSNSの世界で出会ったファンへの思いが込められている。
「私は自分が抱えている感情を曲にして聴いてくださる方と一緒に消化したいだけなんです。だから誰かを歌で励ましたり、誰かに寄り添うなんてできません。でもCMソングとかドラマのタイアップという何万分の1という出来事が起きて、『もしかしたらもっとたくさんの人に歌を聴いてもらえるかもしれない』って思いました」
そんなAkiの特徴である聴く人の感情を揺らす、独特な歌声はどうやって生まれたのか。
「以前はただ真っすぐに大きな声で歌っていただけでTikTokに投稿を始めてみたら、歌詞と歌い方が全く合っていなかったことに気づいたんです。それから試行錯誤しながら技術より感情を前に出して歌っていくうちに今のスタイルになりました」

新曲『話そうぜ』の歌詞に込めた思い
歌詞は何気ない日常の機微がヒントになっている。
「普段ずっと家にいるので、たまに電車に乗っただけでも新鮮に感じます。その思いを言葉にして、合うメロディーをつけていきます。出来上がった曲は上口さんのアレンジで想像を超えるものに仕上げていただきます。大切にしているのは、私の思いだけじゃなくて聴いてくれた人、それぞれの思いもちゃんと曲に乗せることです」
今年1月にリリースした新曲『話そうぜ』は、ドラマ『晩餐ブルース』のエンディングテーマとして書き下ろした。夢をかなえたものの何かを消耗中なサラリーマンと夢からドロップアウトしたニートの物語。Aki自身、「ドロップアウトした1人なので」と共感するところは多かったようだ。
「この曲は『話そうぜ』という言葉を何度も繰り返し歌っているのですが、私も今まで苦手にしていた『話す』という行為やその気持ちを行動で示す大切さを歌にしました」
ジャケットアートはAki本人の顔を自分で撮影した。嘘偽りのない“素顔”が大きく写し出され、強烈なインパクトを与える。
「ちょっと怖いですよね(笑)。以前はカメラから目をそむけていましたけど、今はしっかりレンズを見て撮るようにしていて『これくらいの気持ち悪さがあってもいいかな』って」
前向きな発言に今の充実感がにじみ出る。自分らしい歩みが花開き、活発だった学生時代の自分が戻ってきた。
「誰かに認めてもらえることを素直にうれしいと思えるようになりました。もっといろんなことに挑戦したいという気持ちも出てきたのでアンテナを大きく広げていろんな世界に飛び込んでみようと思います。『頑張る』という言葉は嫌いですが、今は頑張るしか見当たらないかもしれないです」
ライブにも積極的に挑戦していきたいと熱く語ったAki。これからさらに多くのファンの心をつかんでいくことだろう。
□Aki(アキ) シンガー・ソングライター。TikTokとインスタグラムに投稿した弾き語り動画で人気を博す。動画の総再生回数は500万回超。2024年1月24日、新人発掘プロジェクト「Filter Project」から1stデジタルシングル『秘密の』をリリース。同曲がAmazonプライムCM「アーバンジャングル」編テーマソングに起用される。2025年1月24日、両A面シングル『話そうぜ/トウ』をリリースした。
