「赤いきつね」CM騒動、少数の声を取り上げ架空の炎上演出 専門家はメディアの責任も指摘

東洋水産が販売するカップ麺「マルちゃん 赤いきつね」のアニメCMを巡る騒動に、波紋が広がっている。当該CMを巡っては、一部から「性的だ」「キモイ」と批判する声が上がったものの、これらの批判に否定的な反応も多く、専門家からは本来の炎上とはかけ離れた「非実在型炎上」を疑う声もある。近年頻発するネット炎上の中にはこのような疑問符の付く拡散もあるが、いったい誰が何の目的で炎上を起こしているのか。ネット炎上に詳しい国際大学グローコム客員研究員の小木曽健氏は、一部の炎上対策コンサルタントによる“マッチポンプ”の可能性も指摘している。

マルちゃんの「赤いきつね」と「緑のたぬき」【写真:東洋水産ブランドサイトから】
マルちゃんの「赤いきつね」と「緑のたぬき」【写真:東洋水産ブランドサイトから】

少数の声を取り上げることで、あたかも炎上があったかのような印象を与える

 東洋水産が販売するカップ麺「マルちゃん 赤いきつね」のアニメCMを巡る騒動に、波紋が広がっている。当該CMを巡っては、一部から「性的だ」「キモイ」と批判する声が上がったものの、これらの批判に否定的な反応も多く、専門家からは本来の炎上とはかけ離れた「非実在型炎上」を疑う声もある。近年頻発するネット炎上の中にはこのような疑問符の付く拡散もあるが、いったい誰が何の目的で炎上を起こしているのか。ネット炎上に詳しい国際大学グローコム客員研究員の小木曽健氏は、一部の炎上対策コンサルタントによる“マッチポンプ”の可能性も指摘している。(取材・文=佐藤佑輔)

 話題のCMは今月6日、マルちゃん製造元の東洋水産株式会社が公式SNS上で公開。34秒間のCMでは、若い女性が夜、暗い自室で恋愛ドラマを見て涙を流した後、赤いきつねのカップ麺をすする様子が収められている。うどんやお揚げを食べる女性の口元や、赤く染まった頬がアップで写される演出もある。

 公開から10日後の16日、一部ネット上で突如、一連のCM演出について「何でこんな頬を赤らめた女がクネクネするCM作っちゃうんだよ」「男性視線の広告」といった批判の声が噴出。17日にそれらの声をまとめた記事がYahoo!ニュースに掲載されると、「何が性的なのかサッパリわからない」「これの何が問題なの」「さすがにこれで性的は無理がある」といった反応が殺到した。

 多数の批判が寄せられる本来の炎上に対し、メディアが一部少数の声を取り上げることで、あたかも実際に炎上があったかのような印象を与えてしまう現象は、「非実在型炎上」と呼ばれる。非実在型炎上が起こる背景には、どのような事情があるのだろうか。

 小木曽氏は、炎上をたきつける側の心理について「前提として、根底にはその表現が気に入らないという思いがあるのでしょう。万人に好かれる表現はないので、それ自体はおかしいことではありません。ただ、気に入らないものにいろいろと無理筋な理由をつけて攻撃的なバッシングや誹謗(ひぼう)中傷を繰り返す人たちは、自己肯定感が低く、『自分はやれるんだ』という満たされない思いを抱えていることも多い」と分析する。

 その上で、「アクセス数を稼ぎたいメディアが、そういったノイジーマイノリティー(声高な少数派)の声を利用し拡散する。情報化社会において、人々の関心・注目こそが経済的価値を持つ『アテンション・エコノミー(関心経済)』の原理が働いています」と小木曽氏。批判の声があることを報じること自体は報道の自由で、非難されるべきものではないとしつつも、「少数派と多数派の比率が真逆のような印象を与える内容の場合は、メディアの側にも責任がある」と指摘する。

 さらに、一部では非実在型炎上に乗じて、利益誘導を図る事業者も存在するという。

「炎上対策コンサルタントを名乗る人たちです。ネット炎上を分析して『こういう理由で炎上した』と炎上としてのレッテルを貼り、『もし炎上したくないのなら……』と自分のビジネスに誘導する。まさにマッチポンプですね。もちろん、なかにはちゃんとしたコンサルもいますが、ことさらに炎上事案に乗っかってくる事業者には注意が必要です」

 企業を取り巻く炎上は後を絶たない。それが本来の意味での炎上か、実態のない非実在型炎上なのか。企業はもちろん、消費者の側にも、本質を見抜く目が求められている。

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