フジテレビ「社外の目」は機能するのか 社外取締役は「関係が濃いメンバー」、番組審議会は「出演者が中心」

中居正広氏・フジテレビ問題を巡る混乱は続き、15日放送の同局系『週刊フジテレビ批評』(土曜午前5時30分)では同社番組審議会が中居氏と女性のトラブルに関する同社の対応を審議し、厳しい指摘が相次いだと伝えた。フジテレビ内からもさまざまな声が上がる中、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「今のままで変えられるのか」と疑問を指摘した。

西脇亨輔氏
西脇亨輔氏

元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔氏が指摘

 中居正広氏・フジテレビ問題を巡る混乱は続き、15日放送の同局系『週刊フジテレビ批評』(土曜午前5時30分)では同社番組審議会が中居氏と女性のトラブルに関する同社の対応を審議し、厳しい指摘が相次いだと伝えた。フジテレビ内からもさまざまな声が上がる中、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「今のままで変えられるのか」と疑問を指摘した。

「ひと言で申し上げると全く時代錯誤だ」

 今月12日のフジテレビ「番組審議会」では、元検事総長の但木敬一委員長から同社に厳しい批判が出された。フジメディアホールディングス(FMH)の「社外取締役」も経営刷新小委員会を立ち上げるなど、「社外のお目付け役」による同社改革の動きが次々報じられている。だが、ここで冷静に考えたい。

 今のメンバーのままで、本当にフジテレビを改革できるのか。

 まずは「社外取締役」。7人のFMHの社外取締役のうち、2人は同じフジサンケイグループの産経新聞と文化放送の出身。その他も、フジテレビとともに数々のヒット映画を作ってきた東宝の会長や、FMHの株式関連の「主幹事証券」である大和証券の元社長ら、フジテレビに「お世話になっている」会社の出身者が中心だ。

 2003年から20年以上にわたって社外役員を続けるキッコーマンの茂木友三郎名誉会長は、今月13日に90歳を迎えた。フジテレビの日枝久相談役の3歳年上で、一緒に安倍晋三氏や岸田文雄氏といった時の首相と会食し、新聞の「首相の一日」欄をにぎわせたこともある。そして、安倍内閣で総理秘書官、菅義偉内閣で内閣広報官を務めた元総務官僚の吉田真貴子氏は、菅首相長男からの違法接待問題の渦中に辞職し、FMHなどの役員に迎え入れられた。こうして見るとFMHの社外取締役には経営陣と「関係が濃い」メンバーが多いのではないか。

 米国などでは取締役は「経営の監視が主目的」という考えから、会社から独立した社外取締役がほとんどだ。例えばアップル社では取締役8人のうち、社内出身はティム・クックCEO1人だけ。他は社外の高名な経営者や教育関係者だ。これに対して日本では「取締役」は社員の出世のゴール。重要な経営判断は「社内」の取締役だけで決め、取締役会は社外取締役という「お客様」を迎えた「セレモニー」となっている会社も珍しくない。さらに社外取締役の人選が経営陣の「仲良し」となってしまうと、もう経営への外部の監視は期待できない。果たして、FMHの社外取締役は経営に目を光らせることができていたのか。この先、本当に「忖度なし」で改革を主導できるのか。

 こうした疑念は、今回フジテレビに厳しい指摘をした「番組審議会」の人選にも浮かぶ。

 番組審議機関は放送法が各放送局に設置を義務付けており、学識経験者が独立した立場で、適正な放送のために意見を述べる場となっている。

再生した日本航空などとの違い

 しかし、フジテレビ「番組審議会」の人選は独特だ。但木委員長は元検事総長だが、他のメンバーの多くは同社で見覚えがある。脚本家・井上由美子氏の代表作『きらきらひかる』『白い巨塔』。放送作家・小山薫堂氏の名を世に知らしめた『料理の鉄人』。大相撲解説者・舞の海秀平氏がキャスターを務めた『スーパーニュース』。齋藤孝・明治大学教授が「全力解説委員」の『全力脱力タイムズ』。これらはいずれもフジテレビの番組だ。『めざまし8』や『ワイドナショー』のコメンテーターを務めた国際政治学者の三浦瑠麗氏も、2019年4月から現在まで委員を続けている。

 番組審議会には放送局からも社長や幹部が出席して委員の声を聞くが、経営陣と「深い付き合い」の委員ばかりだと「厳しい指摘」からほど遠い会合になりかねない。ちなみに今回の問題が深刻化する前の昨年最後のフジテレビ番組審議会は『この世界は1ダフル』という同社番組が議題。議事録には「番組から多くの学びを得た」など和やかな発言が並んでいた。

 気心が知れた集まりは心地良い。しかし、それでは痛みを伴う改革は難しい。

 日本航空など多くの企業の再生では、それまでとは全く違う「外部の目」を取り入れたことが成功につながったとされる。これに対してフジテレビからは、これまで関わりがない完全な第三者の声を改革に取り入れるという話はまだ聞こえてこない。しかし、社外役員の陣容をはじめ「これまでの延長線上」で、フジテレビは変わったというメッセージを出せるのだろうか。

 大胆に改革するのか、なし崩し的に現状を続けるのか。決断を求められているフジテレビに残された時間は、そう長くはないと思う。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

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