堀内敬子の女優人生を変えた三谷幸喜氏との出会い きっかけはおばさん役「若いのにかわいそうだからって」

お笑いコンビ・ガレッジセールのゴリこと照屋年之(52)が監督した映画『かなさんどー』(1月31日沖縄先行公開、2月21日全国公開)で、浅野忠信(51)と夫婦役を演じた俳優の堀内敬子(53)。そのキャリアは劇団四季から始まる。今ではドラマ、映画に大活躍だが、ターニングポイントはどこにあったのか。

インタビューに応じた堀内敬子【写真:荒川祐史】
インタビューに応じた堀内敬子【写真:荒川祐史】

10年間在籍した劇団四季時代を回想「ロングランはプレッシャーだった」

 お笑いコンビ・ガレッジセールのゴリこと照屋年之(52)が監督した映画『かなさんどー』(1月31日沖縄先行公開、2月21日全国公開)で、浅野忠信(51)と夫婦役を演じた俳優の堀内敬子(53)。そのキャリアは劇団四季から始まる。今ではドラマ、映画に大活躍だが、ターニングポイントはどこにあったのか。(取材・文=平辻哲也)

 堀内は舞台で培われた確かな演技力に定評があり、喜劇からシリアスな役まで幅広い役柄を自然体で演じ分け、確かな存在感を放っている。『かなさんどー』でも、自由奔放な夫(浅野忠信)をひたすら愛する病弱な妻・町子を好演。夫への思いを込めて歌うシーンやラストは涙なしにはいられない。

 キャリアは30年以上に及ぶが、転換点は劇作家・演出家の三谷幸喜氏との出会いだという。

「三谷さんが、私が川平慈英さんと共演した舞台(『I LOVE YOU 愛の果ては?』(03/04)を見に来てくださったんです。そこで舞台『12人の優しい日本人』(05)の出演が決まり、初めてだと不安だろうからと、その前に撮影した映画『THE 有頂天ホテル』(06)も決まりました」

 舞台『12人の優しい日本人』は、映画『十二人の怒れる男』(59年/シドニー・ルメット監督)のオマージュとして作られた法廷劇。堀内は、気の良い年配の婦人役である陪審員10号を演じた。

「『I LOVE YOU 愛の果ては?』は俳優がいろんな役を演じるミュージカルで、おばさんがお見合いビデオを撮りに行くシチュエーションがあって、三谷さんはそれを気に入ってくれたんです。その後、三谷さんは、まだ若いのに、おばさん役をやらせたのはかわいそうだからといって、『コンフィダント・絆』(07年)を作ってくださいました(笑)」

『コンフィダント・絆』はゴッホを始め4人の画家の交友を描く物語。堀内はダンスホール「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」の女給ルイーズ役でコメディエンヌぶりが高く評価され、第33回菊田一夫演劇賞及び、第15回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞した。

 堀内はサラリーマンの家庭に育った3人きょうだいの末っ子。7歳からクラシックバレエを習い、高校から演劇の道へ。

「うちは『サザエさん』みたいなうちでしたよ(笑)。母方のおじいちゃん、おばあちゃんも一緒に住んでいる七人家族。父はお酒も飲まず、毎日、7時に帰ってきて、7時にみんなで夕飯を食べる。けんかも反抗期もなかったです。だから、若い頃は尾崎豊さんの歌がまったく響かなくて……。どうして窓ガラスを割ったり、盗んだバイクで走っちゃうんだろうと疑問に思っていたくらいでした(笑)」

 劇団四季入りも家族が応援してくれ、主演の『美女と野獣』『エビータ』はロングラン公演になった。

「私の場合はそんな長くもなくて、6か月くらいでしたが、ロングランはとても大変でした。毎回同じことをやるんですけど、歌でもちょっと外れやすい音が出てくるんです。苦手意識があると、また失敗するんじゃないかとプレッシャーがあって、少しノイローゼにもなっていきます。本場のブロードウェイの俳優はどうやっているんだろうと思っていました。劇団四季には10年間お世話になりました」

 出演作はドラマ『メイちゃんの執事』(09/CX)『ようこそ、わが家へ』(15/CX)『コントレール~罪と恋~』(16/NHK)『花のち晴れ~花男 Next Season~』(18/TBS)『パーフェクトワールド』(19/KTV)『エール』(20/NHK)『鎌倉殿の13人』(22/NHK)『VRおじさんの初恋』(24/NHK)『119エマージェンシーコール』(25/CX)、映画『疾風ロンド』(16/吉田照幸監督)『湯道』(23/鈴木雅之監督)など多数だが、筆者が好きなのは、NHKのコント番組『サラリーマンNEO』(06)だというと、「男性は好きな方が多いですね」と話す。

 NHKらしからぬウィットな笑いが魅力の番組だったが、現場はハードだった。

「生瀬勝久さんが怖いと言ったら、ちょっと語弊があるのですが、とってもシビアな現場だったんですよ。NG 出しても、カットがかかるまでは絶対に芝居を止めない。すごくプレッシャーがありました。あの経験は今でもすごく宝物になっています」

 プライベートでは小4男児(10)のママでもある。

「ずっと子どもが欲しくて、43歳の時に恵まれましたが、先生からは『奇跡だ』と言われました。妊娠中も6か月まで連ドラを撮って、出産後1か月後には仕事復帰しました。息子は、私が出た作品も見てくれます。『かなさんどー』も見てくれるといいですね」と堀内。今後は、映像作品だけではなく、舞台出演の数も増やしていきたいと意気込んだ。

□堀内敬子(ほりうち・けいこ) 1971年5月27日、東京都生まれ。91年に劇団四季で初舞台。『美女と野獣』(ベル役)、『ウェストサイド物語』(マリア役)など数々のミュージカルでヒロインを務める。99年の退団後も鍛え抜かれた表現力でテレビ、映画、舞台など幅広く活躍し、2007年度、第33回菊田一夫演劇賞、08年度、第15回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。舞台『パレード』(17&21年/森新太郎、演出)、『ブラッド・ブラザーズ』(22年/吉田鋼太郎、演出)、ミュージカル『アナスタシア』(20&23年/ダルコ・トレスニャク、演出)の他、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(22年)、NHKドラマ『犬神家の一族』(23年)、主な映画出演作に『羊と鋼の森』(18年/橋本光二郎監督)、『夜明け』(19年/広瀬奈々子監督)、『バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』(21年/松居大悟監督)、『牛首村』(22年/清水崇監督)、『湯道』(23年/鈴木雅之監督)などがある。

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