実家が「聖地」に…“サウナブーム”に貢献した笹野美紀恵の思い「高齢者でも楽しめるように」「汗をかけば、加齢臭は少なくなる」
「趣味はサウナ」。昨今、そう話す男女が増えてきた。そんな「サウナブーム」に貢献した1人が、モデルで実業家の笹野美紀恵だ。実家はサウナの聖地と称される「サウナしきじ」(静岡市)だが、持ち前の発想力、行動力で道を切りひらいてきた。文字通り、サウナと共に生きてきた笹野の素顔に迫った。
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「サウナしきじ」の娘・笹野美紀恵
「趣味はサウナ」。昨今、そう話す男女が増えてきた。そんな「サウナブーム」に貢献した1人が、モデルで実業家の笹野美紀恵だ。実家はサウナの聖地と称される「サウナしきじ」(静岡市)だが、持ち前の発想力、行動力で道を切りひらいてきた。文字通り、サウナと共に生きてきた笹野の素顔に迫った。(取材・文=ふくだりょうこ)
笹野は高校、大学時代を米国で過ごし、モデルとして活動してきた。ミスインターナショナル・ファイナリストの経験を持ち、現在は株式会社ONEBLOWの創業者、代表として飲食店や温浴施設、ホテルなどのプロデュースを手掛けている。サウナは男性がメインだったところに「女性は男性とは筋肉量や体の作りが異なるため、男性のようにそう快感を目的にサウナを利用するのは違う。忙しい女性こそ、サウナでリラクゼーションや美肌を」といち早く「美とサウナ」の関連性を提示。女性へのサウナ普及に大いに貢献した。
「10年前ぐらいは本当に体を張っていましたね。タオル巻いてインタビューを受けているんですけど、今、見ると本当にこっぱずかしい(笑)。当時は『笹野美紀恵』を覚えてもらうことに注力していたんです。『しきじ』もブランドとして成功したことで、『しきじの娘』というキャッチーな言葉で私という人間を覚えてもらえるので」
そこから月日が経ち、温浴施設やレストランなどプロデュースを手掛ける「笹野美紀恵」としてブランド力も向上した。しかし、彼女のマインドは、子どものころから温浴施設が遊び場で「あの空間が好きだった」からこそ形成されたように感じる。『しきじ』は笹野さんが、21歳だった2005年に創業。客足は少なかったが、次第に安倍川水系の天然地下水を使った水風呂が評判を呼んだ。飲むこともできるミネラル豊富な軟水である天然水の水温は約17度。15年前後には入浴客が増え始め、芸能界きってのサウナ好きとしても知られるお笑いコンビ・オリエンタルラジオの藤森慎吾が仕事で静岡を訪れた際、『しきじ』を利用して気に入り常連に。これをきっかけに藤森が芸人仲間に紹介し、テレビ番組で紹介した結果、一気に『しきじ』の名が広がった経緯がある。当時はサウナの第3次ブームが到来していた時期でもあった。
「サウナが好きな方々が深掘りし出したタイミングだったんですよね。私はもともと(モデルとして)表に出させてもらっている側だったので、取材が来た時は少しでも自分の実家を知ってもらいたくて、とにかくしゃべるんですよ。そういう熱ってどんどん伝播していくんですね」
笹野のサウナに対する熱が、人々を引き寄せ、取材依頼も増えていった。動きとしては「代理店的なもの」だったそうだが、『しきじ』のプロデュースにも多く携わっているという。
「県外から来た方たちからどう見えるかということは現場のスタッフチームといつも話し合っています。もしかしたら静岡のチームからすると、『なぜ、東京の取材ばかり受けるのか』と思うかもしれないんですが(苦笑)、東京でしかできない発信もあります。同時に現場では常に料理や企画、『しきじ』では薬草サウナも改善と改良を怠りません」
今でこそ、サウナは万人が知っている場所だが、当時は成功例が少なかった。そんな中での施設の充実はトライ&エラーだったのだろうか。
「『最後は誰に何を伝えたいか』という執着的な愛だと思うんですよね。愛があるから続けられるというところはあります」
情熱的で、愛を持っているものに真っすぐで、行動力がある。少し話を伺うだけでも、そのパワフルさに元気がもらえそうだ。そんな笹野に「壁にぶつかったことはあるのか』と問うと、「もちろん、ありますよ!」と言ってカラカラと笑った。
「ミスインターナショナル・ファイナリストになった後、企画側に回りたかったんですけど、それが叶わなかったんです。その期間が一番もどかしかったですね。発信する側じゃなくて、根本的なところに携わりたかったんです。『自分が温浴などの企画側をやりたい』と言っても『いや、笹野さんにはしきじがあるじゃない』って言われるんですよね。『それも大事なのだけど、しきじのみではなく、静岡、いや、もっと広い視野で見ようよ』『日本全体をマーケットとしてコンテンツにすればいいのに』って思っています」
その状況を打破したのは「やりたい!」という強い思いを持ち、周りに訴え続けたこと。企画する側に行きたいと図面も設計し、サウナへの知見を生かして、「ベストなサウナを作る自信がある」と伝え続けた。
「『そうは言っても、サウナデザインでしょ?』って言ってくる人もいるんです。でも、今、北里大学北里研究所病院漢方センターと薬草を一緒に研究したり、延岡の診療所に併設の風サウナを作った時はPMSデータを測ったり、阿寒湖のドーム型展望サウナではコルチゾールを測るとか、各施設でデータを取っているんです」
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「サウナの未来」を考えたアクション
それはサウナの未来を考えてのことだ。今、サウナが好きな人たちが60歳、70歳になった時に、熱いサウナに入ることができるかというと、危険が伴う。そのことも踏まえ、笹野は「その未来を年齢・体調に合わせたメディカルサウナを目指したい。みんなが気持ちよくいつでも入れることを当たり前だけど、目指したい」と語る。
「年齢を重ねると、筋肉も落ちてきて血管も細くなってきます。体力に合わせた温浴の入り方があってもいいと思うんですよ。低温サウナでも汗をかくことが分かっているので、汗をかけば、汗腺も開いて、加齢臭が少なくなる。そうすると介護のオペレーションも楽になると私は思っています。老後、『くさいなー』って影でため息をつかれたくないじゃないですか(笑)」
笹野のビジョンが実現すれば、高齢者でも安全にサウナを楽しみ、今ある問題も解決することができる。そんな笹野が今後まず、チャレンジしてみたいこととは。
「今、薬草に力を入れているんです。地方で使われなくなった茶葉やそばの実、杉の木だとかを漢方とミックスして温浴に使用していきたいですね。ホテルでもチェックインの際にお客様の体調をお聞きして、お客様のために漢方を調合して温浴を楽しんでもらう。日本の捨てられたものを温浴として還元しつつ、意味がないものとされていたものを意味があるようなものに変える企画がしたいですね」
「サウナと美」を結びつけ、新たな層を開拓した笹野は今、「サウナと健康」を結びつけ、「サウナで美腸」を推奨している。1月下旬には都内で開催されたZENB JAPAN主催の腸活のセミナーイベントに参加。腸活の新常識「リセット腸活」と、その実践方法「グルテンコントロール」を学んでいる。そうした笹野のアクションが、「日本の新たな文化」を創り出す。そんな気がしてならない。
□笹野美紀恵(ささの・みきえ)1984年1月1日、静岡市生まれ。高校、大学時代を米国で過ごし、2008年にミスインターナショナル・ファイナリストとなる。11年には株式会社ONEBLOWを設立。ホテル、旅館、診療所などで総合ウェルネス温浴プロデュースを行う。診療所に併設するサウナをプロデュースした宮崎・延岡市大貫診療所が、第17回延岡市景観賞の優秀賞を受賞。北海道釧路市のあかん遊久の里で、22年12月29日に誕生した世界初のペアガラスドームサウナを監修。
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