「全てを失うか」…フジテレビ役員は株主代表訴訟で「自己破産」の恐れ 元テレ朝法務部長が解説

フジテレビを巡る混乱が続いている。大部分のスポンサーは復帰の目途が立たず、親会社であるフジ・メディア・ホールディングス(以下、FMH)の業績予想は大幅に下方修正された。この状況に元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士は、同社経営陣に近づく「危機」を指摘した。

西脇亨輔弁護士
西脇亨輔弁護士

西脇亨輔弁護士「可能性が高いシナリオ」

 フジテレビを巡る混乱が続いている。大部分のスポンサーは復帰の目途が立たず、親会社であるフジ・メディア・ホールディングス(以下、FMH)の業績予想は大幅に下方修正された。この状況に元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士は、同社経営陣に近づく「危機」を指摘した。

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 これは近く現実になる可能性が高いシナリオだと思っている。

 一連の問題に揺れるFMH。1月30日に発表した2025年3月期の通期業績予想は連結純利益が前期比74%減とされ、フジテレビ単体では赤字の可能性も報じられている。このように目に見えて会社の業績が悪化すると、次に起こりうるのは役員の誰もが恐れる事態だ。

 それは「株主代表訴訟」。この訴訟を起こされた相手は「自己破産」に追い込まれる恐れも十分ある。同社役員は今、そうした深刻な立場にあるのだ。提訴の前に辞任した役員も、在任中の行為については責任を免れることはできない。

「株主代表訴訟」とは、役員が会社に損害を与えた場合に株主がその役員を訴え、役員個人に会社の損害を穴埋めさせる訴訟だ。訴えを起こすために必要な株式の数は「1株」(または「単元」と呼ばれる購入単位1つ)。半年以上続けてその株式を持っている株主なら提訴できるのが原則だ。手続きとしては、まずは株主が会社に対し「会社自身が役員を訴えろ」と要求する。60日以内に会社が動かなければ、株主が会社になり代わって「株主代表訴訟」を起こす。こういう流れになっている。

 そして、裁判で株主の主張が認められると、役員は「自腹」で会社に損害を賠償することになる。その金額は原則として「無制限」。特別な契約を結んだ社外役員などの例外を除けば「上限なし」だ。

 近年では、東京電力の元経営陣に対する株主代表訴訟の判決に衝撃が走った。福島第1原子力発電所事故について津波対策を怠った東電経営陣の責任が問われ、東京地裁は22年7月、当時の会長ら4人に連帯して13兆3210億円を支払うよう命じた。頭数で割っても一人当たり3兆円以上という巨額だ。

 フジテレビ問題でFMHの役員が訴えられてもここまでの金額にはならないだろうが、同社の減収は既に数百億円にのぼるといわれる。しかも、この損害額はこの先、事態が長期化するほど雪だるま式に増えていく。金光修社長、日枝久相談役をはじめFMHの取締役は現在15人で、先日の辞任までは嘉納修治前会長、フジテレビの港浩一前社長も取締役だった。株主代表訴訟が起こされた際に何人が「被告」になるかは分からないが、その請求額は一人当たりで割っても数十億円を超え、役員の個人資産では払いきれない可能性が高いだろう。仮に何かの保険に加入していたとしても、保険金の支払条件は厳しいケースも多い。

 では、賠償金を払いきれなかったらどうなるか。その役員は賠償金を払えるだけ払った上で、残りを免除してもらう手続きを取る必要がある。それが「自己破産」だ。その場合、役員がこれまでの人生で築いてきた財産は全て差し出すことが原則となる。過去には食品衛生問題で株主代表訴訟を起こされた外食チェーンの役員2人が、50億円以上の賠償が命じられ「自己破産した」と報じられた。

重い「報告義務違反」の疑い 命運を握る株主

「それではサラリーマン役員に酷じゃないか」という声もあるが、こうした責任はどんな時でも認められる訳ではない。「うまくいくはずだったビジネスが失敗した」などの戦略ミスなら、ベストを尽くした以上責任は問われない。一方、「注意して誠実に職務を行う」という取締役の基本的な義務を果たさないと、賠償責任が発生しうる。そして、今回の問題に関しては、「フジテレビ経営の中枢にいた役員に大きな『義務違反』の疑いがある」と私は思う。

 それは取締役の「報告義務違反」だ。会社法は、取締役が「会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したとき」は、監査担当の役員などに「直ちに」報告することを義務付けている。しかし、今回の事案は、「監査等委員」である社外取締役にも、コンプライアンス担当者にも、週刊誌取材まで知らせていなかったという。

 事案を知っていたのに他の役員には伝えかった「一部の役員」は会社法の義務に反していなかったのか。「義務違反」で会社に大損害を与えたなら、その「一部の役員」は責任追及され、全てを失う恐れがあるのではないか。

 フジテレビ側の役員への責任追及を大きく左右するのが、3月末に予定される「第三者委員会」の調査報告書だ。ここで経営陣の責任が認定されれば、その報告書はそのまま株主代表訴訟の証拠となりうる。中身によっては、株主の圧力を受けた同社が株主代表訴訟を待たず、自社で自社役員を訴える展開も考えられるだろう。

 いずれにせよ、同社経営陣の命運は「株主」が握っている。フジテレビを本当に生まれ変わらせることができるのかどうかも、その動向にかかっているのだと思う。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

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