セクハラ被害の告発続出「ありえない」 ネットで物議醸す「#私が退職した本当の理由」の舞台裏

SNS上で「#私が退職した本当の理由」というハッシュタグが広がり、その内容が大きな議論を呼んでいる。投稿者はいずれも女性で、過去に会社や上司から受けたパワハラやセクハラ被害の数々を告発している。企業の陰湿な実態をあぶりだす投稿の連鎖には、女性たちの悲痛な思いが込められていた。

妻子持ちの上司との出張でありえないことが起こった(写真はイメージ)【写真:写真AC】
妻子持ちの上司との出張でありえないことが起こった(写真はイメージ)【写真:写真AC】

女性たちの悲痛な叫び Xで「#私が退職した本当の理由」が流行

 SNS上で「#私が退職した本当の理由」というハッシュタグが広がり、その内容が大きな議論を呼んでいる。投稿者はいずれも女性で、過去に会社や上司から受けたパワハラやセクハラ被害の数々を告発している。企業の陰湿な実態をあぶりだす投稿の連鎖には、女性たちの悲痛な思いが込められていた。

 1月下旬、フジテレビが元タレント・中居正広氏と20代女性のトラブルを巡って対応に追われる中、Xに登場したのがこのタグだ。

「#私が退職した本当の理由」

 投稿は徐々に増え、3日後には追いきれないほどの数に。通常「一身上の都合により」と書かれる退職届には記載されない、女性たちの本音と屈辱のエピソードがつづられた。

 中でも多いのがセクハラによる被害の告発だ。

「新卒で入った会社の、上司のひどいセクハラと性差別、同僚からのレイプ被害、取引先のセクハラ。ぜんぶ耐えようとして心がついていかなかった」

「直属の上司(取締役)に執拗にホテルに行こうと言われ、断り続けていたら仕事を干された。これが原因で休職しているが、当の本人はこの度取締役社長になった」

「新卒で入った会社の上司(女性)が、『契約が取れないなら身体を張る覚悟で!』『契約くれるなら、胸のひとつやふたつ喜んで揉ませなさいよ』と何度も言う」

「1番の怒りの対象は自分の娘より若かった私に性行為を強要しようとした上司だが、それを『よくあること』とあしらった女性の先輩の対応にもショックを受けた」

「私だって学生時代に留学したり勉強して夢を持った一人の人間だったのですよ。それを毎日、性的にジャッジ お前らは人間なのか?」

 どの業界かだけでなく、会社名を書いての告発もあり、リアルな内容が「日本版 #MeToo」として注目を集めている。

 30代女性のAさんも、このタグを利用して、過去の体験を投稿した1人だ。

「泊まりの出張に上司と行ったら部屋が一部屋しか取れてなかったことがある。布団が2つあった。引いた。上司はとりあえず飲み直そうとか言ってゴニョゴニョ言ってたけど、宿の人に出張だからと話して急遽部屋を用意してもらった。宿の人も顔引き攣ってたよ ありえない」

 2015年ごろの出来事で、この上司は当時40代半ばで妻子もいた。以前も出張に同行しており、新幹線も含め、出張に関する予約はすべて上司が行っていた。

 追加の部屋を確保してもらうと、上司は悪びれる様子もなく言ったという。

「ノリ悪いなーワンチャンいけると思ったんだけどなーみたいなことを言ってました。私も笑って、無理ですよー。奥さんいるじゃないですか、と笑ってごまかしました」

 相部屋は回避できたものの、“慣例”までは断れなかった。

「もう一部屋確保した後もいつも通りその上司と部屋で仕事後の飲みをしました。それが通例となっており、拒否したり、大げさにするとさらに変な雰囲気になりかねないと判断したので」

 上司はその後も懲りずに飲みに誘い、Aさんは退職後、体調を崩した。「当時はわからなかったですが、精神的にはかなり無理をしていました」。同じ被害は他の女性社員も受けていたが、告発してもつぶされる社風だったと振り返る。

「被害を会社の上の人に訴えた人は、他業務に異動させられる、自ら辞めるように仕向ける、キツい、汚いの仕事をさせるなどを見ていたので、その時は私もうまくかわせてよかったと思い、上の人への報告はしていませんでした。後から考えると、同じ女性社員に対して声をあげなかったことで悪いことをしてしまったと思っています。職場内で複数人で問題にすべきでした。それだけはそこの職場の女性たちに申し訳ないです」

真実を言えないまま会社を去る女性は多い(写真はイメージ)【写真:写真AC】
真実を言えないまま会社を去る女性は多い(写真はイメージ)【写真:写真AC】

新卒当時、先輩の女性社員相談したものの…まさかの返答に絶句

 ショックなのは、セクハラは男性だけに限らず、先輩の女性社員が見て見ぬふりをしたり、性加害に加担していることだった。

「新卒当時、お尻や胸を触られたりしたことを女性社員に相談したことがあるのですが、そんなことじゃ笑って流せるようにならないとやっていけないよと言われたことがあり、笑って流す、が女性の中でも当たり前になっていました」

 退職を決断しても、気持ちは整理できなかった。

「辞めるほうが問題解決が早かったんです。辞めた時は諦めの気持ちでした。一応弁護士に相談して、退職金を上乗せしてもらっています」

 今回、Aさんが「#私が退職した本当の理由」のタグをつけたのは偶然、流れてきたのを目にしたからだった。

「実際にこれだけで退職したわけではないので、ハッシュタグをつけた意味としては間違っているかもしれませんが、当時のことで自分が我慢したことや、他の女性を守れなかったことを後悔していることは事実なので、こんなことも実際にあるんだと知ってもらえたらとこの機会に思いました」

 投稿は自身も驚くほどの反響になったが、負の影響もあった。「このタグをつけて投稿したことで、特定の範囲の男性から誹謗中傷されています。そのことの方が今のところ困っています」。理不尽な出来事を告発したことで、なぜ不当な攻撃を受けなければならないのか。Aさんは強い疑問を抱きながら闘い続けている。

 今、X上では、異常な職場の実態が次々と暴かれている。企業倫理や社会規範がこれまで以上に問われる時代。フジテレビ問題が過熱した一方で、インターネットを使った女性たちの訴えが新たなうねりを起こそうとしている。

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