高卒→人気漫画家に 50代で大学進学、60代で大学教員も経験…74歳・すがやみつるの今も尽きぬ探究心

『ゲームセンターあらし』などの大ヒット作で知られ、日本漫画界の巨匠・石ノ森章太郎先生から“唯一の弟子”と認められる作家・すがやみつる先生のキャリアは非常に興味深いものだ。漫画家、小説家としての活躍を経て、2005年には社会人学生として大学に入学。そののち、京都精華大学のマンガ学部で教員も務めた。なぜ、人気作家が大学で学ぶことを決めたのか。そして74歳となった現在、すがやみつる先生は創作活動とどのように向き合っているのだろうか。

すがやみつる先生【写真:本人提供】
すがやみつる先生【写真:本人提供】

70代で新作漫画にAI活用

『ゲームセンターあらし』などの大ヒット作で知られ、日本漫画界の巨匠・石ノ森章太郎先生から“唯一の弟子”と認められる作家・すがやみつる先生のキャリアは非常に興味深いものだ。漫画家、小説家としての活躍を経て、2005年には社会人学生として大学に入学。そののち、京都精華大学のマンガ学部で教員も務めた。なぜ、人気作家が大学で学ぶことを決めたのか。そして74歳となった現在、すがやみつる先生は創作活動とどのように向き合っているのだろうか。(文=関口大起)

「2005年に大学に入って、大学院を出たのは2011年。私が60歳の時です。在学中も小説は書いていたのですが、修士論文が始まったらそっちで手一杯になってしまい、作家業はお休みすることにしました。大学の勉強はとにかく楽しかったですね」

 すがや先生は、静岡県でも有数の偏差値を持つ高校を卒業している。しかし、漫画家を志して上京する道を選んだ。当時、同級生のほとんどは大学に進学したという。先生自身、その選択に後悔はないというが、やはり大学という場所で学んでみたいという気持ちは強かった。また、かねてより各所から大学教員のオファーがあったことも後押しになったそうだ。

「京都精華大学がストーリー漫画を教える学科を作ったら、えらい数の学生が集まったそうです。倍率も20~30倍とかになって。それをみて、日本中の大学や専門学校があと追いで漫画の学部を作り始めた。そんな時期だったので、私にも声がかかったんですね。

 でも、学校で教えるからにはメソッドというか、理論をきちんと教えられなきゃいけないと思うんです。ただ私は高卒なので、大学の教育みたいなものができないんじゃないかと。それで早稲田大学人間科学部eスクールに入学することを決めました」

 すがや先生にとって、大学での研究はとにかく楽しいものだった。論文を書くこともとにかく楽しみ、本当は博士号を取得するまで在学したかったそうだ。しかし、修士課程を修了したころに教員のオファーがあり、それを受けることにした。

「当時60歳でしたからね。65歳で定年すると考えると、博士課程の終了後だともう働く時間がないのです。そこでまずは、早稲田大学の教育コーチという助手のような仕事に就きました。そうして1年後くらい、京都精華大学から声がかかったのです。精華の定年は70歳らしく、新しいコースを作るからそこにきて欲しいと。私としても、『漫画工学』の研究を進めるのに絶好の場所だと思い、願ってもない話でした」

今後描いてみたいテーマは「自分の母親をモデルにした昭和の女性もの」

「漫画工学」とは、漫画をより理論的に、エンジニアリング的に考えるメソッドだという。大学の教員としてそれを教えていくことは、すがや先生のやりたいことにもマッチしていた。

 教員として、学生たちに「面白さと新しさの追求」を強調していたというすがや先生。その背景には、先生自身が体験した漫画家という仕事のシビアさがある。

「私自身は、作家として仕事が途切れるようなことはなかったんですよ。それは、そろそろ危ないな? と思うと企画書を作って編集部に持ち込んでいたからです。フリーランスで生きていくためにはどうしたらいいのか、それはずっと考えていました。

『ゲームセンターあらし』がヒットしたときも、でも連載やアニメが終わったら収入がなくなるのが現実なんです。以降の私は、100万部売れる作品を作るより、10万部ずつ、10年かけて売れる作品を作るほうがいいという考えでいましたね」

 21年3月、すがや先生は京都精華大学の教員を退職。そして現在、また作家として動き出している。最近では、KADOKAWAの雑誌「みたいな!」で、日本人の少女パイロットが零戦に乗って戦う漫画作品を発表した。

「ストーリーは生成AIと対話しながら作りました。チャレンジというより、新しいテクノロジーで遊んでいるだけですが。もう漫画を描く気はなかったんですけどね。飲み屋でたまたま出会った人が編集者で、『新しい雑誌を作るから漫画を描いてくれないか』と頼まれてしまって(笑)」

 企画家としての側面が強く、マーケティング思考で作品を作ってきた先生は、「今まで自分で描きたいと思ったものはほとんど描いていない」という。しかし今後「自分の母親をモデルにした昭和の女性もの」が描きたいと明かした。

『ゲームセンターあらし』など、子ども向けの作風のイメージが強いすがや先生だが、小説家としての一面はまた異なる。重厚な「戦記物」など、大人向けの作品を多数発表している。

「母親をモデルにした作品」が、漫画になるのか小説になるのかは分からない。ただ、いずれも多ジャンルの作品を描いてきたすがや先生だ。必ずやすばらしい作品を届けてくれることだろう。

○関口大起(https://x.com/t_sekiguchi_

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