漫画家なのに企画書を持ち込み レジェンド漫画家・すがやみつるの無駄のない“マーケティング思考”

『ゲームセンターあらし』などの代表作で知られる漫画家・すがやみつる先生(74)は、若手時代から「企画書」を作る珍しいタイプの作家だった。なぜそのスタイルが生まれたのか、そしてすがや先生が考える、漫画家に必要なこととは――。

すがやみつる先生【写真:本人提供】
すがやみつる先生【写真:本人提供】

企画書を作る理由は“無駄なネームを作る時間はない”

『ゲームセンターあらし』などの代表作で知られる漫画家・すがやみつる先生(74)は、若手時代から「企画書」を作る珍しいタイプの作家だった。なぜそのスタイルが生まれたのか、そしてすがや先生が考える、漫画家に必要なこととは――。(文=関口大起)

「漫画家が企画書を書くなんて、変だって言われることも多いんですけどね。石森プロに出入りしていた頃、石ノ森(章太郎)先生と東映の平山亨プロデューサーやテレビ局の人たちが、企画書をもとに作品の方向性を検討していたのを見ていたこともあって、私にとっては、あって当たり前のものになっていました。

 若い漫画家は、ちょっと絵が描けると編集さんから『次はネーム持ってきてよ』なんて言われるんです。ネームというのは漫画の下書きのようなものですね。そして、そのネームを作るのには1、2か月くらいかかります。で、それを編集さんの元に持っていくと『ネタがイマイチだね』なんて言われてしまうんです。ネタなんて、漫画作りの本当に最初の最初じゃないですか。それをひっくり返されるなら、ネームを作る数か月が丸々無駄ですよ」

 漫画にとって大切なのは“考える時間”だと先生は話す。決して無駄なネームを作る時間ではない。ちなみに、先生は寝ているとき以外、とにかくずっとネタを考えていたという。何十年も作家業をやってきた先生だが、だからこそネタが尽きたことはないそうだ。

「自分が何を描きたいか、よりどういうものが世の中に求められているのか、といったマーケティング的な思考で作品を考えることも多いですね。今、こういうものが必要なんじゃないかって。そのときに中心にあるのは自分ではなく、一人の想像上のお客さんです。それをしているとハズレの企画はあまり生まれません。その代わりバカ当たりはしないんですけどね(笑)。

 ちなみに、『あらし』は真逆です。試行錯誤、実験的なことを繰り返したことが、雑誌のアンケートで80%の人気票を取るといった評価につながったのだと思います。その“バカ当たり”する例ですね」

過去に発売したパソコン入門漫画も企画書から誕生

 すがや先生は、「増刊号」を実験の場所と捉えていた。何を隠そう、読切版の『ゲームセンターあらし』が掲載されたのも「コロコロコミック」の増刊号だった。そのほか先生は、仮面ライダーの総特集が掲載された「テレビマガジン」の増刊号で、趣味を活かした『ラジコン探偵団』という作品を発表。人気票の70%を獲得した。その後同作は「テレビマガジン」本誌の連載となり、人気トップの作品となった。

「『ラジコン探偵団』は人気があったものの、大人の事情もあって短期で終了してしまいました。ただその後、編集長に『ラジコンの入門書を作りませんか? 企画書はあるんですが……』というと翌日の会議にかけてくれることになったんです。実際は企画書はなかったんですけどね(笑)。数時間で作って、タクシーで持っていったのを覚えています。結局書籍化して、何十万部か売れました」

 すがや先生は、『ゲームセンターあらし』の連載中、“あらし”たちも登場する別作品『こんにちはマイコン』を執筆している。『こんにちはマイコン』は、NECのコンピュータ「PC-6001」を題材としたパソコン入門漫画だ。これも先生の企画書から生まれた作品だという。

「編集部からは、そんな本を描く時間があるのなら『あらし』の増ページをと言われましたね。企画書もほったらかしにされていたのですが、じゃあ他社に持ってちゃうよ、なんて話をして(笑)。そしたら『ちょっと待ってくれ』と、編集者が類書の売れ行きを調べてくれました。結局、数十万部も出ている類書がいくつかあることが分かり、じゃあ作ろうということになったんです」

 結局『こんにちはマイコン』は全2巻が発行され、累計で約60万部を突破した。なお、すがや先生著の『マンガ原作のつくり方:企画書からはじめる』には、『こんにちはマイコン』の企画書がすべて掲載されている。漫画家志望の人はもちろん、すがや先生の「企画屋になる」という考え方、そしてマーケティング思考は、あらゆるビジネスマンの成功のヒントになるかもしれない。

○関口大起(https://x.com/t_sekiguchi_

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