阿部寛、演技で「安易に泣きたくない」 震災題材ドラマで考えに変化「とても勉強に」
俳優の阿部寛(60)が3日、NHK放送センターで行われた土曜ドラマ『水平線のうた』取材会に出席し、涙の演技に対する考え方に変化があったことを明かしていた。

「泣く演技」について監督に質問
俳優の阿部寛(60)が3日、NHK放送センターで行われた土曜ドラマ『水平線のうた』取材会に出席し、涙の演技に対する考え方に変化があったことを明かしていた。
本作は、宮城県石巻市と女川町を舞台に、音楽を通していとしい人の思いをつなごうとする人々を描いたヒューマンドラマ。震災で音楽教師の妻・早苗(松下奈緒)と10歳の娘・花苗が行方不明になってしまった大林賢次(阿部)は、津波で亡くなった人の霊が客としてタクシーに乗るという話を聞き、タクシー運転手に転職する。そんななか、タクシーに乗車した女子高生・りら(白鳥玉季)が、妻子との思い出の曲を口ずさみ……というストーリー。
阿部は最初に脚本を読んだ際、自身が演じる役について「ちょっとめそめそしすぎかなと思ったんです」と涙のシーンが多いことに疑問を持ったという。その理由として「これまでの芝居の経験のなかで、人は悲しみをこらえて耐えているとき、一番悲しさを表現できると思ったんです」と語ると「泣くというのはすごく難しい。その部分を岸(善幸)監督に相談しました」と撮影を振り返った。
そのとき、岸監督から「震災から13年たっていますが、震災を経験した大人は悲しみを忘れることができずにいる。一方で震災後に生まれた子や、当時小さくて記憶のない子どもたちは、その大人の空気を押し付けられているのではないのかな……と。本人たちは普通に生きていきたいんだけれど、すでにそういう重い空気の中で育ち、なかなか前を向けないことがある」と伝えられたと明かした。
阿部は「それを聞いたとき、僕の役は震災を忘れられずにずっと苦しんでいる姿を若い世代に見せてしまっている人物なんだと。そういう表現の一つが涙なんだと理解して、なるほどと思ったんです」と納得し、丁寧に演じたという。
もともと「安易に泣きたくない」という考えを持っていたという阿部は「岸監督の演出は、僕が台本を読んで考えている以上のものでした。泣くシーンって撮り方によっては見ている人が冷めてしまう場合もあるのですが、とても勉強になりました」と学びが多い現場だったという。
また本作では、実際に震災でさまざまな境遇になった人々と、阿部演じる賢次がドキュメンタリーのようなタッチで話を聞くシーンもある。阿部は「直に震災にあわれた方の話をお聞きするのは、とても衝撃的なことでした。その部分はドラマの撮影でありながら、ドラマであることを忘れていました」と不思議な経験だったことを明かす。
この日は制作統括の杉田浩光氏も取材会に出席したが「ドラマのスタート時、東北だけではなく、能登でも大きな地震が起こり被害にあわれた方がたくさんいました。なぜいま13年後の石巻なんだという部分をしっかり伝えるために、どうしたらいいのか考えました。そのとき、いま震災があった地元に根づいて生きている人々の生の声をドラマに入れることで地続きになるのかなと思ったんです」と経緯を説明すると「阿部さんは演じながら、素の部分に戻ってしまうという意味で、苦労させてしまうかなと思ったのですが……」とおもんぱかっていた。
