「“悪魔”を超えるよ」頭突きで顔面変形も相手を絶賛 堀田祐美子が嬉しさを感じた理由
23日、新宿FACEで開催された「Sareee-ISM」でそれは起こった。第2試合に組まれた、ジャガー横田、花穂ノ利VS堀田祐美子、神楽姫ミサの一戦。試合中、花が堀田に放った頭突きで、堀田のオデコに大きなコブが! みるみる変形していく堀田の顔面!! 試合後、「穂ノ利、絶対に許さねえ!」と言い放つ堀田だが、なぜかうれしそうでもある。いったいどういうことなのか。堀田を直撃した。
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「穂ノ利、絶対に許さねえ!」
23日、新宿FACEで開催された「Sareee-ISM」でそれは起こった。第2試合に組まれた、ジャガー横田、花穂ノ利VS堀田祐美子、神楽姫ミサの一戦。試合中、花が堀田に放った頭突きで、堀田のオデコに大きなコブが! みるみる変形していく堀田の顔面!! 試合後、「穂ノ利、絶対に許さねえ!」と言い放つ堀田だが、なぜかうれしそうでもある。いったいどういうことなのか。堀田を直撃した。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
「穂ノ利、絶対に許さねえ!」
試合後、インタビュースペースに現れた堀田はそう言い放ったが、その直後、「でも、ここまでやるヤツ、なかなかいないから。あの野郎!」と続けた。
興味深いのは、この言葉を放った際の堀田の顔にニヤッとした笑みが含まれていたことだろう。
さて、堀田の顔面を変形させるという、爪痕を残した花穂ノ利は、2019年12月、シードリングの生え抜き第1号選手としてデビューしたものの、21年11月に持病を理由に退団。しかし、23年8月、“悪魔”中島安里紗の引退試合を観戦し、再び血が騒ぎ、昨年末に再デビューを果たしたばかりだった。
年が明けると、花はシードリングの新年最初の大会で神楽姫との一騎打ちで激しいぶつかり合いを繰り広げ、一部のファンや関係者の間で評判になった。
その流れを受けて、この日の花はジャガー横田というレジェンドと組み、因縁のあった神楽姫と相対しながら、堀田というレジェンドとも絡む、というくらいの雰囲気だった。
結果的にはそれが、25年最初の“事件”とも呼べる衝撃を呼び込んだのだ。
「傷跡は大丈夫なんですか?」
翌日の深夜、堀田を電話にて直撃した際、開口一番、そう訊(たず)ねると、堀田は「ちょっと酔っ払ってるわ」と言いつつ、酒の勢いもあってか、「全然大丈夫だよ、そんなの。当たり前やん」とひと言。この言動のカッコよさと言ったらなかった。
続けて堀田は、顔面を変形させられた頭突きについて、「私も受け入れたんだよ、ドンって頭突きが来た時にバンって前に出て、その衝撃でいっちゃった(※顔面が変形した)のかな」と話すと、「まあまあまあ、そんなのどうでもいいんだよね。でも、あれが話題になればいいじゃん。穂ノ利はそういう気持ち、感情っていうか、私的にはすごく昭和っぽいなっていうのがあって。だからホントに中島安里紗の“悪魔”を受け継ぐのか、“悪魔”以上になるのかって、あいつ次第なんだけど。でも、プロレスっていうのはさ、ちゃんと頭も使っていかなくちゃいけなくて。そこが変なさ、自分に自信がついて上に行ってしまうと終わるよっていうのはあるけどね」と話し、花に古き良き時代の女子プロレスラーの匂いを感じる旨を述べた。
「こいつすげえな。お祭り気分だよ!」
さらに「いいんじゃない? 私もここまで『ふざけんな!』って思ったことは久しぶりだったから、めちゃくちゃうれしかったでいいんじゃない?」と話す。
とはいえ、これは憶測の話になるが、花の所属するシードリングの南月たいよう代表からすれば、一瞬は「大先輩になんてことしてくれたんだ!」といった思いが頭をよぎったはずだが、堀田の「お前、なかなかやるな」という雰囲気を見てホッとしたのではないか。
これに関して堀田は、「喜んだから私はアピールしたわけじゃん。こいつがこんなことしちゃったよ、私に。なんでこんなになってんの? ウェーイ! みたいな。私もだからお祭り気分だよね。『ヤッター! こんなことされたよ。私にこんなことやったヤツがいたー!』みたいな。分かる? うれしいからあそこまで言ったんだよ。もし私がイラついてたらそんなことはしないと思う。やられたことをアピールしないじゃん。なんであそこで私がアピールしたかって言ったら、『私にこんなことしやがったこいつ! こいつすげえな!』ってことをやったわけだから、お祭りみたいになったわけよ」と、花がした行為を振り返って喜んだ。
しかしながら、もしこれが堀田ではなく、ほかの選手だとしたら話が変わってきた可能性は高い。公になる前に舞台裏で「厳重注意」の烙印を押されてしまったかもしれないのだ。それだけ、昨今のプロレス界では、対戦相手にけがを負わせることに対し、必要以上に過敏になっている気がする。
その点、堀田が稀有であり、絶滅危惧種であると思うのは、「(普通だったら)あいつ何やってんの? ってなるじゃん。だから、私でよかったねって。私は全然、やってくれてありがとうって話だよね」と平然と受け入れていることに尽きる。それは、さすがは「全女(全日本女子プロレス)出身!」なのかもしれないが、時代は変わってもプロレスがコンタクトスポーツである限り、大なり小なりけがとは付き合っていかなければならない。
もちろん選手以上に関係者はけがに対する準備も含め十分配慮すべきだとは思うものの、そこを気にしすぎるあまり、返ってけがを呼び込むことにつながってはいないか。そうだとしたら本末転倒だ。仮の話、もし本当にけがをしたくないなら選手としてリングに上がらないこと。それしか方法はない。
そういったプロレスに対する根本的な側面を熟知しきっている堀田だからこそ、花に対し、「だから、そこまでやれる(※やっても許される)ヤツがいてよかったって話だし。だからこれ、面白く書いていいんじゃない? 私だって明日、人前に出なきゃいけないしさ。その人たちには申し訳ないけど、ゴツンいったけど、だから何? って感じだし」と平然と話すと、「あの子は1回、シードリングを辞めて戻ってきたわけだけど、戻っきたときの気持ちっていうのが、ほかの人たちよりも(覚悟が)あったっていうことよ」と花の覚悟を絶賛した。

ジャガー横田とのやり取り
さらに堀田は、プロレスに対する思いをぶちまける。
「もちろん強いからこそできるんだけど、リングの中ではインパクトを残した者が勝ちなんですっていうこと。だから、それをどうやって生かすかだと思うし、それをどうやって生かすかっていうのも穂ノ利であって、シードリングであってっていうか。だけどちゃんと落とし前をつけてやるよって話!」(堀田)
気になるのは、これを機に花が必要以上に萎縮し、ほかの選手に対して自分の闘い方を制限してしまうこと。それだけは決してしてほしくない。
「たぶん、あいつは(他の選手には)しないと思う。でも、あいつは中島より上に行くよ。なぜかというとパワーがあるから。中島より全然パワーがあるから。イノシシくらいの突進だよ、ホントに。そのくらいの子だから、私は感じたよ。当たったときに。だからシードリングも救われたんじゃないって話よ。だから私はやられたって、中途半端なヤツにやられたら(表に)出さないけど、たぶんあの子は、私が女子プロレス界に望むことをやってくれると思う」
そう言って堀田は花に期待を寄せる。堀田にそこまで言わせた花穂ノ利の未知なる可能性。それだけ感じるものがあったのだろう。
しかも堀田は、かえす刀でジャガー横田とやりとりした話を明かした。
「ジャガーさんがね、LINEでやりとりをしたときに、実は私はジャガーさんと当たることがすごくドキドキしていて。緊張したのね。そしたらジャガーさんが『そうやって緊張してくれるあなたがかわいくて』ってなったのね。その後に『光栄です』って言ったの。その時に『全女っていうのは変わらないです。ジャガーさんの闘うオーラっていうのは怖かった』って言ったら、ジャガーさんが『一番近い後輩のあなたと闘ったときに感じたのは、レジェンドとしてこれからお互い頑張りましょう』って認めてくれたの。たぶん、この間の闘いを見て、すごくジャガーさんは何かを感じたんじゃないの? それはすごくうれしかったよね。だって本当はジャガーさんがあの闘いでは一番にならなくちゃいけないし、一番になりたいと思ってた。それが穂ノ利に持ってかれたんだよ。でしょ? それって思うに、自分の本能のままに練習して、それ以上にならなくちゃいけないってことよ。それを私はこの間の試合で感じた」
最後に堀田は、「Sareee-ISM」を通じて感じたことを以下のようにまとめた。
「みんな強さを求めてる。それを私は感じたよ。ビジュアルを求めているんじゃない。プロレスは闘いを求めているんです。強い人を求めている。強い者が選ばれし者っていうね。それが感動を与えるっていうこと付け加えてほしい」
「プロレスは闘いである」と生前のアントニオ猪木は言い続けていた。時代が変わってもその思いや思想は、決して変わることはない。いや、変わってはならないと考える。
(一部敬称略)
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