「記事の見出しをチェックします」 以前から感じていたフジテレビの“ズレ”…求めたい「公平な対応」【記者コラム】

元タレントの中居正広と20代女性の「性的トラブル」報道を巡り、フジテレビは港浩一社長らが明日27日、東京・台場の同局で「やり直し記者会見」を行う。17日に開催した港社長の会見は、参加メディアを限定し、映像撮影をNG、大半の質問に「回答を控える」としたことで、「報道機関と思えない最悪の対応」と各方面から猛批判された。同業者をも軽視したこの姿勢。遠藤龍之介副会長は23日に「傲慢との意見もあった。企業風土の改善が必要」などと表現した。実はENCOUNT編集長の私は、それを以前に感じていた。

フジテレビ【写真:ENCOUNT編集部】
フジテレビ【写真:ENCOUNT編集部】

局内からも「編集権を無視している」の声

 元タレントの中居正広と20代女性の「性的トラブル」を巡り、フジテレビは港浩一社長らが明日27日、東京・台場の同局で「やり直し記者会見」を行う。17日に開催した港社長の会見は、参加メディアを限定し、映像撮影をNG、大半の質問に「回答を控える」としたことで、「報道機関と思えない最悪の対応」と各方面から猛批判された。同業者をも軽視したこの姿勢。遠藤龍之介副会長は23日に「傲慢との意見もあった。企業風土の改善が必要」などと表現した。実はENCOUNT編集長の私は、それを以前に感じていた。(文=柳田通斉)

 昨秋のことだった。部員から急を要した電話が入った。

「フジのアナウンサーを囲み取材したのですが、企業広報部の方が『見出しをチェックさせてほしい』と言っています。どうしましょうか」

 耳を疑う報告だった。私は状況を聞いた後に言った。

「あり得ない。見出しは最も大事な編集権だ。事前に見せてフジテレビの意向で替えられたら、その記事は広告と同じになる」

 部員はそれを番組宣伝の担当者に伝えた。だが、企業広報部のアナウンサー担当者は納得しないという。結果、私が電話をして当人と話すことになった。

「事前に『見出しをチェックさせろ』とは、どういうことでしょうか」

 担当者の主張はこうだった。

「ウェブ媒体の方々が、うちのアナウンサーを取材された場合には事前に見出しを見せてもらうことになっています」

 そんなルールは、編集部に届いていた取材案内には書かれていなかった。それを伝えた上で私が「そういったルールがあるのなら、取材には行かせませんでした」と言うと、担当者は「それは大変失礼しました。今回はチェックなしで構いません」と返した。

 とはいえ、私はそのあり得ないルールが、フジテレビに存在していることが気になった。そこを問うと、担当者は言った。

「うちのアナウンス室で決めているルールです」

 あ然とした。日々、やり取りをしている芸能事務所もそんな要求はしてこない。もちろん、他局もだ。だからこそ言った。

「私は新聞記者出身ですが、新聞社にはそういう要求はしていないですよね。なぜ、ウェブ媒体に限って要求をするのですか」

 シンプルな疑問をぶつけたのだが、担当者は議論を避けた。

「新聞社は見出しを見せてくれないと認識していますから。ただ、ウェブ媒体の方々にはお願いしています。今、そこを争うつもりはないんですね。とにかく、そうしているので受け入れていただけない場合、今後はアナウンサーへの取材はお受けできません」

 新聞社にはそんな条件を出さず、アナウンサーへの単独インタビューや囲み取材をさせている現実がある。明らかな「区別」「差別」。到底受けいられないと感じた私は「分かりました。そういうことならENCOUNTはフジテレビアナウンサーへのインタビューや囲み取材はなしでいいです」と返し、最後に「そのルールはいつまで続くのですか」と聞いた。

 担当者は「それは分かりかねますが、方針は変わる可能性はあります」と答え、やり取りは終わった。

 そのルールがいつから始まったかは分からない。だが、旧知のフジテレビ社員たちに聞くと「編集権を無視した信じられないルール。うちも報道や情報番組でつけるタイトルを取材対象者に見せることはしていないわけですから」と声をそろえ、驚いていた。

 その経験があった私は、17日にフジテレビがこの状況で「閉鎖的会見」を強行し、映像撮影も認めなかったことで、「やっぱり、ズレている」「どうして上からの姿勢なのか」「視聴率3冠時代の感覚なのか」と思いをめぐらせた。

 そして、あらためてあのルールが残っているかを企業広報部の担当者にメールで質問すると、下記の返信があった。

「アナウンサーに限らず、弊社社員・スタッフ等の取材につきまして、フジテレビ広報は、メディア各社様と意思疎通をはかって進めております。今後も、メディア各社様とより良い関係を構築し、広報活動に努めて参ります」

 質問に全く答えていなかった。それを指摘すると、2時間後に「『アナウンス室が決めたルール』ではございません。フジテレビ広報としての総合的判断です」との返信があった。昨秋、自身が明言したことを今になって修正していた。

 なお、中居さんとのトラブルに関し、週刊文春は「女性が中居からの被害を報告した1人」として佐々木恭子アナの名を挙げている。佐々木アナは、港社長が女性からの報告を認識したのと同時期の23年6月28日、アナウンス室局次長に昇格。昨年は社内表彰をされている。現在は「渦中の人」であり、大変な時期だとは思うが、今すぐに「ウェブ媒体に限っての見出し事前チェック」のルールは撤廃してほしい。仮に「アナウンス室で決めたルール」でないなら、企業広報部と見直しの協議をしていただきたい。同じメディアとして、より良い関係を構築するためにも。

〇…企業広報において、メディアによって差をつけことなく、公平に接することは「鉄則」とされている。経団連の関連団体・経済広報センターは公式サイトで「企業広報の基本、メディア・リレーションズ」と題し、下記の事項を記している。今こそ、フジテレビの方々に読んでほしい内容だ。

(1) 公平な対応
経験が浅い記者、ベテランの記者に関係なく、またメディアによって差をつけることなく公平に接すること。対応が悪いと、その噂は、記者仲間にすぐに広がってしまう。

(2) 嘘はつかない。曖昧な話はしない。
公表できない話は、理由を添えて「言えない」ことを明確に伝える。その場限りに適当なことを話したり、中途半端な知識で伝えないこと。

(3) 分かりやすく簡潔な説明
事前に資料や写真・映像などを用意し、説明は簡潔・明瞭に行う。また、数字や固有名詞に間違いがないか注意を払うこと。

(4) 迅速な対応
即答できない場合は、いつまでに回答できるか伝えたうえで、確実に調べて連絡する。間に合わない場合は、再度、回答時間を連絡しておくこと。また記者からの問い合わせに対しては、たらい回しはしない。

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