新境地開拓の上白石萌音「人生で悩んだ時のヒントになれたら」 “素顔”は「人間観察が好き」
俳優で歌手の上白石萌音が、テレビ東京系連続ドラマ『法廷のドラゴン』(金曜午後9時)に主演し、新米弁護士役を熱演している。将棋と法律がミックスしたリーガルドラマで、上白石はプロ棋士を諦めて弁護士に転じた主人公にふんする。将棋の戦法を法廷で生かす設定に、自身はゼロから将棋を学び、生来の“負けん気”を思い出したという。
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テレ東ドラマ『法廷のドラゴン』で新米弁護士熱演中
俳優で歌手の上白石萌音が、テレビ東京系連続ドラマ『法廷のドラゴン』(金曜午後9時)に主演し、新米弁護士役を熱演している。将棋と法律がミックスしたリーガルドラマで、上白石はプロ棋士を諦めて弁護士に転じた主人公にふんする。将棋の戦法を法廷で生かす設定に、自身はゼロから将棋を学び、生来の“負けん気”を思い出したという。(取材・文=大宮高史)
リーガルドラマながら、第1話冒頭で上白石ふんする天童竜美とライバル棋士の駒木兎羽(白石麻衣)の対局シーンを描いた『法廷のドラゴン』。竜美は女性初のプロ棋士誕生を期待されていた将棋界の新星だったが、棋士の道を諦めて弁護士となり、存続の危機に瀕する歩田法律事務所に就職。若き所長の歩田虎太郎(高杉真宙)とともに事件を解決していく物語。上白石はこの役で本格的に将棋の世界を体験し、苦戦しつつも奥深さに感心したようだ。
「竜美はなんでも将棋の戦法で説明しようとします。法律用語も続くので初めてせりふ覚えで苦戦したかもしれません」
駒の動きもほとんど知らなかったところから、棋士の所作も丁寧に観察、心理まで研究していった。
「知れば知るほど奥が深くて恐ろしい世界ですね。(将棋連盟会長の)羽生善治さんの本を読んだり、棋士の方に取材をしたり、時間のない時はYouTubeの動画でも勉強していったら『なんでそんな手が指せるの?』と思考の緻密さに驚くばかりでした。それに対局中って、相手の目をほとんど見ないで将棋盤に視線を集中するんです。ドラマでも顔を直視するのではなく、人が気づかないちょっとしたしぐさに気づいたりと、目の付け所がちょっと違うところが竜美の面白さです。物静かで鈍感そうに見えても、先を読む力が強い人だなと理解していきました」
普段は大人しい竜美だが、弁論に臨む時は、棋士時代と同じ鮮やかな和装で法廷に立ち、裁判の不利な形勢も逆転してみせる。
「プロ棋士の方々は『相手の息の根を止める』くらいの気合で臨むそうです。一度のミスが命取りになる世界なので、法廷のシーンでは戦に向かう気分になれます。一発逆転の決めせりふを話す時に、私の心の中でも炎がともるような瞬間があって、それが爽快でした。竜美のような負けん気をこれからも燃やしていけたら、もっと楽しくお芝居ができそうです」
竜美のおかげで、自身の“負けず嫌い”な性格が目覚めたと明かす。
「小柄なので弱そうに見られることもあったせいか、かけっこなども負けたくなかったです。学校の成績も、ライバルと比べることで気持ちが燃えて上がっていきました。芸事も毎回が勝負ですが、明確に勝ち負けがつくというよりは、自分との戦いで『自分の理想に応えられたか?』を繰り返しています」

「人間観察は好き」
ドラマでは所長の虎太郎を演じる高杉とバディを組み事件を解決に導く。高杉との共演については、「ドラマでは“でこぼこコンビ”に見えますが、現場ではよく高杉さんと同じ反応になるんです。“凸同士”でもあり“凹同士”ですね(笑)」と感覚が合ったバディになった。
「私が気になっていることを『高杉さんも気になっているんじゃ?』と思って相談してみると『僕もなんです』となって監督と3人で話ができたりしました。高杉さんのおかげで、1人でモヤモヤを抱えこむことがなく演じられました。ともに依頼人を弁護する役なので、倫理的にみて正しいかどうか、分からない判断を迫られる局面もあります。そんな時に『私たち、ちょっと危ないことしてるよね?』と似た感覚を持てるので、『こんな言い回しで大丈夫かな?』と竜美と虎太郎の心理を確認し合って演じてきました」。
真摯に役柄と取り組む姿勢はデビュー当時から変わらない。今作では将棋に夢中な竜美を演じたが、自身は人への興味が尽きない様子だ。
「会話で“先を読む”ことはあります。人と話していて『この人の本音は?』と推し測ってみたり、誰かのちょっとしたしぐさにも『どうして今姿勢を変えたんだろう?』と想像したりします。人間観察は好きですね」
そんな日常の関心が表現に奥行を持たせるのだろう。上白石は2011年に第7回「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞し芸能界入り。以後映画・舞台・ドラマで多彩な役を演じてきた。16年には歌手デビューも果たすなど幅広く活躍中で、“表現者”として高い評価を得ている。大ヒットとなった劇場アニメ『君の名は。』(16年公開)でヒロイン・三葉の声を演じ注目されたほか、NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)ではヒロイン・橘安子を好演。昨年、ロンドン公演が話題となった舞台『千と千尋の神隠し』での千尋役は記憶に新しく、数々の“名作”に名を連ねてきた。
「幸運にも、小さい頃から好きだった歌やお芝居をお仕事にできました」。
感謝の言葉を口にするが、その日々の中で悩んだ記憶を今作で生かしているという。
「好きなだけではだめで、役に向うのが嫌いになった時もありますし、100%“好き”と言える対象ではなくなりました。そういった、自分が描いていたイメージと違う道に行った時にどう折り合いを付けるか。そんな時は前向きな妥協も必要だと思います。今作は竜美も虎太郎も、周りの人たちも壁にぶつかりながら答えを出していくので、見ている皆さんが人生で悩んだ時のヒントになれたらいいですね」
そして、「法廷での和装って、実際にもOKだそうです。でもあんなに派手なのに裁判で負けたら恥ずかしいですね」と笑顔。ドラマで見せる、和装姿でよどみなく論陣を張る法廷シーンは印象的で、さらに“表現の引き出し”が増えそうだ。
竜美と“戦場”は違えど、静かに闘志を燃やして芸を磨いていく。
□上白石萌音(かみしらいし・もね)1998年1月27日、鹿児島県生まれ。2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞。同年、NHK大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』で俳優デビュー。14年公開の初主演映画『舞妓はレディ』で第38回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。16年公開の劇場アニメ『君の名は。』で声優初主演。22年初演の主演舞台『千と千尋の神隠し』は日本4都市に加えて英ロンドンでも上演され、成功を収める。16年10月、カバーミニアルバム『chouchou』で歌手デビューし、21年からライブツアー『yattokosa』を開催している。3月には映画『35年目のラブレター』が公開予定。英語検定2級、スペイン語検定6級の資格を取得。152センチ。
ヘアメイク:貴島タカヤ スタイリスト:村田テチ
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