92歳の祖父が危篤も…家族は延命治療に断り 当事者が明かした葛藤とSNS投稿の真意

家族が再び意識を取り戻すことがないと分かった時、どのような判断をすればいいだろうか。残された家族が悩んだ末に下した“重い決断”をネット上につづった投稿が、注目を集めている。40代のソラ@新米パパさんに詳しい話を聞いた。

人工呼吸器(写真はイメージ)【写真:写真AC】
人工呼吸器(写真はイメージ)【写真:写真AC】

熱中症から誤嚥性肺炎に悪化していった

 家族が再び意識を取り戻すことがないと分かった時、どのような判断をすればいいだろうか。残された家族が悩んだ末に下した“重い決断”をネット上につづった投稿が、注目を集めている。40代のソラ@新米パパさんに詳しい話を聞いた。

「92歳の祖父が熱中症からの誤嚥性肺炎で意識不明に。父は延命治療を断り、祖父は亡くなった。決断に躊躇がなかったといえば嘘になるが、寿命だと考えた父の選択は間違ってなかったと思う」

 ソラさんが自身の経験を7日にXへ投稿すると、1200万回以上表示されるなど、多くの反響を呼んだ。

 投稿者のソラさんは、亡くなった祖父からみると、孫にあたる。祖父は父の家族と住み、健康に不安なく過ごしていたが、10年ほどの前の9月、熱中症により倒れた。自宅で療養していたものの、弱弱しくなり、約1か月後、誤嚥性肺炎を発症。救急車で病院に運ばれ、そのままICU(集中治療室)に入院となった。

 突然の急展開に動揺を隠せない中、祖父の容態は厳しく、人工呼吸器をつけたままベッドに横たわり、意識の回復が見込めない危篤状態であることが告げられた。

 このまま治療を続けるべきか、それとも……。状況について母から連絡を受けたソラさんは、父が“決断”について悩んでいることを聞かされた。「父は延命治療をしないつもりだけど、すごく苦しんでいる」。ソラさんは兄弟3人で集まり、対応を話し合った。

 兄弟の意見は基本的に延命治療に反対するというものだったが、温度差はあった。「私たちの意見は言わず、父にすべて任せるべきでは」という声や、「正直迷いはある」という声もあった。ソラさんは、「少しでも私たちに迷いがあることが伝わると、父の心の負担を軽くすることができない」と考え、兄弟そろって「迷いなく」父の選択を支持するべきだと主張。最終的に兄弟全員の意向として父、そして病院側へと伝えられた。

 その直後、祖父は容態が急変し、そのまま帰らぬ人になった。

 結果的に人為的に人工呼吸器を外すことなく、天寿をまっとうする形になったが、ソラさんの心に深く刻まれる体験になった。身内の「生と死」について、家族がどう向き合えばいいのか、初めて真剣に考えさせられた。

 最終的に延命治療を拒んだことは後悔していない。

「家族がその人のことを思って、真剣に悩んで、苦しみながら出した答えは、どんな結論であろうと正しいということだと思います」

 一方で、「だけどそれは自分が孫の立場だからというのもあるかもしれない。自分の父だったら、今でもつらいのかなと思います」。もし自分の親だったら。人工呼吸器を外していたら。父の置かれた精神状態を鑑みれば、月日がたてば消化できるとは限らないことも付け加えた。

エンディングノートの親族表(写真はイメージ)【写真:写真AC】
エンディングノートの親族表(写真はイメージ)【写真:写真AC】

投稿のきっかけは医療費を巡る問題だった

 今回、ネット上に経験を投稿した。きっかけは医療費を巡る問題についての別の投稿を目にしたことだったが、思いも寄らない反応が多数寄せられた。

 肯定的な意見がほとんどだったが、中には「見殺しにしたんじゃないか」という厳しい声もあった。「こんなに反響があるとは思っていなかったのでびっくりしたんですけど、数多くの方がご自身の体験をポストしてくださって、すごくみんなが悩んでいたというか、みんなが経験して負担に思っていたんだなということが分かりました」とソラさんは受け止めている。

 医療の発達とともに、人間の寿命はどんどん延びている。一方で、祖父のように昨日まで元気な人がある日突然、意識が戻らない状態になってしまうこともある。そんな時、本人の尊厳を傷つけることなく、どのように対応すればいいのか。ソラさんは、日頃から「人生会議」等で身近な大切な人に意思を話しておくことの大切さを訴える。

「いきなり延命治療をしたいと思うかとか、家で息を引き取りたいか病院で最後まで治療を受けたいかとか、そういう話をすることは、いわゆる縁起でもないというふうに相手が受け止める可能性が高いので、なかなか言い出しづらい。投稿で言いたかったことは、自分から元気なうちに周りに言ってあげてほしいなっていうことです。いきなりその話をするのもびっくりするので、投稿が流れてきたのをきっかけにしてもいいですし、僕も今回、東京都のホームページとか人生会議のパンフレットを読んでみたんですけど、非常に有用な内容でした。みなさん同じような悩みを抱えていて、やっぱり話しづらい。そういう悩みすらも国は分かっている。どういうふうな話をすればいいか書いてあるので、ぜひ手に取ってみてほしいです」

 ソラさん自身も家族で人生会議を開き、妻に万一の時の意思を知らせた。

「誰か家族1人に負担を押し付けることはよくないと思っていて、だからこそ、自分の愛する家族、大事な人に負担をかけないためにもみなさん意思を伝えておきましょうねということを伝えたいです」

 悔いのない、きれいな終わり方とは何なのか。答えの出ないテーマだからこそ、決めつけるのではなく、柔軟に構える必要もあるとソラさんは説く。

「個人の尊厳は人によって違うと思っています。最後まで生きる権利を全うすることが尊厳だと考える人もいれば、苦痛の状態で生き続けるのは人間の尊厳ではないと考える人もいると思います。しかもそれが本人にすら分かっていない可能性もあると思います。なので、元気なうちに本人が考えて、周りにも伝えておくことが重要だと思います。死を直前にしたら『やっぱり生きたい』と思う人もいるでしょうし、ライフステージが変わって子どもが生まれたりしたら、苦痛があっても子どもの成長を見たいという人もいると思う。なので、変化していくことも前提に、人に伝えておくことが重要かなと思います」と締めくくった。

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