フジ社長会見で使われた「裏技」、元テレ朝法務部長が指摘する“悪手”で「企業体質への疑念はさらに深まる」
タレント・中居正広の女性トラブルにフジテレビ社員が関与していたとされる一連の報道に対し、同社の港浩一社長が17日、初の記者会見を行った。しかし、取材を許されたのは記者クラブ加盟の新聞社などに限られた。この「閉鎖的な会見」に批判が集まる中、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「会見には広報の『裏ワザ』が使われた」と指摘した。
西脇亨輔弁護士「危機管理広報の戦略は正攻法のみ」
タレント・中居正広の女性トラブルにフジテレビ社員が関与していたとされる一連の報道に対し、同社の港浩一社長が17日、初の記者会見を行った。しかし、取材を許されたのは記者クラブ加盟の新聞社などに限られた。この「閉鎖的な会見」に批判が集まる中、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「会見には広報の『裏ワザ』が使われた」と指摘した。
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一体、いつの時代に戻ったのか。
フジテレビ社長会見を伝えるテレビニュースを見て、そんな違和感が止まらなかった。画面は紙芝居のような静止画ばかりで動画はない。取材に厳しい規制がかけられ、報道機関でもあるフジテレビの記者会見なのに「報道の自由はなかった」と指摘されている。
なぜ、こんなことになったのか。かつてテレビ局で危機管理を担当していた立場として一連の経緯を見ると、この会見にはある「広報の裏ワザ」が使われていることに気づいた。
多くの記事が「週刊誌報道を受けてフジテレビが会見を行った」と報じているため、今回は「緊急・臨時の会見」の位置付けで見られているが、実は違う。同社企業公式サイトには会見のタイトルがこう明記されている。
「2025年1月度 定例社長会見」
今回の会見は中居氏問題を説明するための「臨時」会見ではなく、あくまで「定例」会見の一つ。フジテレビはそう位置づけているのだ。
だが、同サイトをさらに見ていくと、あることに気づく。昨年1月には、「定例」社、長会見が行われていないのだ。その前の23年も22年も21年も、1月は定例会見がない。
これはフジテレビに限った話ではない。ここ数年、日本テレビもTBSもテレビ朝日もテレビ東京も、1月は「定例」社長会見を行っていない。新年1月は会見に代え、記者らを集めた懇談会を行い「定例」記者会見は2月からスタート。近年、それが在京民放各局の通例になっている。
しかし、今回のフジテレビ会見は、あえて「1月度 定例社長会見」と銘打って行われた。その経緯についてある記者は会見の質問で「フジテレビ側から、定例会見の前倒しという形で会見をやらせてほしいと依頼があった」とし、同社が「2月の定例会見を1月に前倒しする形で会見を開く」という意向を示したと明かした。ではフジテレビはなぜ、シンプルに「中居氏問題を説明するために緊急会見を開いた」とせず、「2月の会見を1月に前倒した」という「ややこしい」説明をしたのか。
これは今回の会見を「小さく」見せるための「裏ワザ」ではないか。私はそう考えた。
もし、今回の会見を中居氏問題についての「緊急・臨時」記者会見にしていたらどうだろう。注目を集めている事件だから、雑誌やネット媒体など多くの参加希望が寄せられただろう。そして、フジテレビの企業体質にも及ぶ問題なので、同社が参加希望を拒否するのは難しい。「フジテレビはいつも他社の不祥事を取材しているのに、自社の問題は取材制限するのか」と批判されるからだ。
だが、これを「定例」記者会見という形にしたらどうだろう。「決まったメンバーで毎月行っている『定例会見』なので、メンバー以外の出席はお断り」という理屈が使える。「別に中居氏問題の会見だから出席を断っているんじゃないんですよ。『定例』会見だからメンバー以外は参加資格がないんです」と言い訳して、参加者を限定できるのだ。
そして、「定例会見」のメンバーは新聞・通信社の「文化部」の記者が中心。番組宣伝の場などを通じて気心知れた人も多い。一方で事件取材を行う社会部記者や他のテレビ局の記者は「定例会見」のメンバーではない。だから「定例会見」にしてしまえば、フジテレビはいわば「ホームグラウンド」で会見することができるのだ。
その結果、今回のフジテレビ「定例」社長会見は、どうなったか。
困った時に使う「総合的に判断」
取材が許されたのは記者クラブ所属の「定例」メンバーのみ。雑誌やネット媒体は全て除外された。他のテレビ局は特別に同席を許されたが、「正規の取材者」としては扱われなかった。「オブザーバー」という立場に追いやられ、質問することさえ禁じられたと報じられているのだ。テレビ局の「命」であるテレビカメラを使うことも許されず、認められたのは会見冒頭の「静止画」撮影だけ。テレビ局がテレビ記者に対して、テレビカメラを動かすことも、質問のために口を開くことも封じる。17日にフジテレビ本社で繰り広げられたのはそんな光景だった。そして、この会見方法について質問されたフジテレビはこう答えたという。
「総合的に判断し、記者会主催の定例の社長会見ということでやらせていただいた」
「総合的な判断」。それは広報担当者が困った時に使う「魔法のことば」だ。本当の理由を説明する訳にはいかない場面で、何かを説明したように見せるために使われることが多い。具体的に何をどう「総合的に判断」したのかは語られない。
しかし、これで「公明正大」な記者会見といえるのか。
中居氏の女性トラブル問題では、女性の訴えがフジテレビ社内で矮小化されずに伝わったのかも問われている。今回の会見では発生直後に会社が事件を把握したことが明らかにされた。その結果、同社が事件を把握していながら中居氏の番組を続けた上に、パリ五輪特番など新たな番組も依頼していたことが浮き彫りとなり、同社が「事件を矮小化しようとしていたのではないか」と疑問が指摘された。そうした問題に関する会見なのに、同社がこれを「小さく見せよう」と策をめぐらせたのなら、企業体質への疑念はさらに深まってしまう。
危機管理広報の戦略には正攻法しかない。「策をろうしたら、策におぼれる」。そんなことを改めて考えさせられる会見だったのではないか。私はそう思った。
□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。