69歳・升毅の“仕事の流儀”、クイズ番組出演も「イコール役者の仕事」 目指すのは「100歳現役」

映画、ドラマで幅広い役柄をこなし、常に第一線で活躍し続ける俳優・升毅(69)。『美晴に傘を』(1月24日公開、渋谷悠監督)では『八重子のハミング』以来、7年ぶりの映画主演を務めた。シニアになっても輝き続ける升が、俳優としての考え、プライベートでの意外な素顔を語った。

俳優としての流儀を語った升毅【写真:ENCOUNT編集部】
俳優としての流儀を語った升毅【写真:ENCOUNT編集部】

40歳から東京単身赴任中、7年ぶりの映画主演

 映画、ドラマで幅広い役柄をこなし、常に第一線で活躍し続ける俳優・升毅(69)。『美晴に傘を』(1月24日公開、渋谷悠監督)では『八重子のハミング』以来、7年ぶりの映画主演を務めた。シニアになっても輝き続ける升が、俳優としての考え、プライベートでの意外な素顔を語った。(取材・文=平辻哲也)

「主演はありがたい、というきもちはありつつ、この映画は自分の役が主演! というわけではなく、たくさんの人物の気持ちの揺れ動きが映されていて、その内の一人なんです。だから主演と言われるのは恥ずかしいんですけどね」と笑う。

『美晴に傘を』は家族の再生をテーマにしたヒューマンドラマ。升が演じるのは、北の町で漁師をする善次。疎遠だった息子・光雄(和田聰宏)が亡くなり、息子の妻・透子(田中美里)と娘で聴覚過敏を持つ自閉症の美晴(日髙麻鈴)、凛(宮本凜音)が善次を訪ね、家族の絆が少しずつ再生されていく……。

「20年前に家を出ていき、そのまま絶縁状態だった息子が死んでしまい、その妻と娘が突然、目の前に現れるというのは、日常にはないドラマチックな出来事ですが、実際に自分の身に起こったらどんな気持ちになるんだろうと思いました。僕にも2人の子どもがいますから」

 撮影は一昨年9月から約1か月間、北海道余市で行った。

「余市は海あり山あり、農園あり。何でもあるいいところでした。撮影前には都内で本読みをしてから現地に行きました。麻鈴ちゃんとは初めましてでしたが、本読みの時から、想像を超えてきたので、本物の美晴がいると思いました。美里ちゃんは久しぶりでしたが、『これまであまりしゃべっていなかったね』と。今回はたくさんお話できて、すごくいい関係ができました」と振り返る。

 監督の渋谷氏は東京都出身、日英のバイリンガルの劇作家で、本作が長編映画初挑戦。その監督ぶりが新鮮だったという。

「監督は外国で勉強されてきた人で、思ったことを日本語にうまく変換できない時は、プロデューサーに通訳みたいなことしてもらうくらい感覚が日本人離れしている部分があって、どこか外国人と一緒に仕事している感じでした。それがまた詩的でいい空気になるんです。劇団をやっている人だけあって、丁寧に本読み、顔合わせもあって、やりやすい。監督は、音や声にこだわっていて、自分もそこから気持ちを作っていくことができました」

 現場では、役の大小に関係なく、常に状況を見て、動くことを心がけている。

「途中から現場に入る役者さんには、居心地よくそこにいられるように意識してます。翌日のスケジュールのことを考えつつ、もし一緒に行けるタイミングがあれば、ご飯を食べに行こうみたいなことは自分から発信します」

 升は東京生まれ、大阪育ち。20歳のときにはNHK大阪放送劇団付属研究所に入所し、演劇の道へ。関西の劇団で知り合った女性と結婚し、1男1女をもうけたが、升は家族から離れ、東京で活動を始めることとなる。

「僕が大阪で活動続けていたら、みんな一緒に住んでという普通の家族だったと思いますが、40歳の時に僕が東京に行くことになって、子どもは小さかったので、家族は大阪に残ることになったんです。それでも不都合がなかったので、それが自然な形になりました。僕は料理が好きで、洗濯や掃除をしてくれる人がいないとダメという人ではないので、そこも大きいかもしれない。一人の自由の時間が心地良くもあり、寂しくもある。映画の善次役につながるところもありました」

目標は生涯俳優

 休日はスポーツをすることが多いという。

「野球が好きなので、実際に見に行ったり、自分でも草野球をやったり。人数がそろっていれば、出場しない。チームの足を引っ張るかもしれないし、けがも怖いですから。後は誘われて、バスケットボールをやっています。ここ1年ぐらいはゴルフ番組をよく見るようになりました。僕は、30代からゴルフを始めたんですが、実際にコース出たのは一ケタ。一昨年ぐらいから興味を持って、今はまだ100を切るという目標までいかないぐらい。体を動かすことは大事ですね」

 シニアになると、俳優としての仕事も減っていくこともあるが、升は引く手あまた。主役から脇まで幅広く演じ、クイズ番組などにも出演している。

「60歳を超えると、役柄的に少なくなっていくのは当然。それを続けていくと、先細くなっていっておしまいになるので、自分から仕掛けられることは仕掛けていきたい、と思っています。僕は演じるだけが役者とは思っていないんです。役者として何かをする、クイズ番組に出るというのも、イコール役者の仕事だと思っているので、これはやるけど、これはやらないという意識がない。ほかにも、朗読劇だったり、ミュージシャンとコラボするみたいなこともやって、色んな形で発信したいと思っています」

 目標は生涯俳優だ。

「『美晴に傘を』では、また新しい出会いがありました。その土地の方との出会い、監督やプロデューサーもそうです。『初めまして』の状態から、長い時間を過ごし、新しい仲間が増えたという感覚があります。22年にベストプラチナエイジシストという賞を頂き、その授賞式でも、『100歳現役を目指しています』と言ってしまったんで、そこは曲げずにいきたいな、と思っています」。今後も、広く関心を持ち、アクティブな活動を続けていく。

□升毅(ます・たけし)1955年生まれ、東京都出身。20歳で俳優デビュー。85年に演劇ユニット『売名行為』を立ち上げ91年に劇団『MOTHER』を結成し、座長を務めた。主な作品に、ドラマ『沙粧妙子・最後の事件』『高嶺の花』『イチケイのカラス』、映画『八重子のハミング』(主演)、『女優は泣かない』『アイミタガイ』など。NHKでは、大河ドラマ『元禄繚乱』『龍馬伝』『軍師官兵衛』、連続テレビ小説『風のハルカ』『あさが来た』、土曜時代ドラマ『アシガール』、ドラマ10『ディア・ペイシェント~絆のカルテ~』ほかに出演。2023年度後期連続テレビ小説『ブギウギ』では、梅丸少女歌劇団(USK)の親会社「梅丸」の社長、大熊熊五郎を演じる。最新作『室井慎次 敗れざる者』では警察庁長官補佐 坂村正之を演じる。

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