遺産は20万円、葬儀費用は500万円…倉田真由美さんが明かす夫の素顔「私には、そういう部分が尊かった」

人気漫画家・倉田真由美さん(53)が2月14日に最新エッセー『抗がん剤を使わなかった夫~すい臓がんと歩んだ最期の日記~』(1500円+税、古書みつけ)を出版する。同書は、昨年2月16日にすい臓がんで亡くなった映画プロデューサーの夫・叶井俊太郎さん(享年56歳)との闘病生活をつづっている。倉田さんが遺産と葬儀費用などお金のリアルについて語ってくれた。

遺産や葬儀費用などのお金のリアルについて語った倉田真由美さん【写真:ENCOUNT編集部】
遺産や葬儀費用などのお金のリアルについて語った倉田真由美さん【写真:ENCOUNT編集部】

末期がんの夫を看取った後のお金のリアル

 人気漫画家・倉田真由美さん(53)が2月14日に最新エッセー『抗がん剤を使わなかった夫~すい臓がんと歩んだ最期の日記~』(1500円+税、古書みつけ)を出版する。同書は、昨年2月16日にすい臓がんで亡くなった映画プロデューサーの夫・叶井俊太郎さん(享年56歳)との闘病生活をつづっている。倉田さんが遺産と葬儀費用などお金のリアルについて語ってくれた。(取材・文=平辻哲也)

 叶井さんは、興収16億円のヒットとなった仏映画『アメリ』(2001)を始め、『キラー・コンドーム』(1998)、日本映画『いかレスラー』(04)、『日本以外全部沈没』(06)などカルト系の洋画・邦画を宣伝・プロデュースした業界の有名人。映画会社の勤務を経て、自ら映画配給会社を設立するも、2010年には負債3億円を抱えて倒産している。最終的には出版社サイゾーに籍を置き、映画配給レーベル「エクストリーム」(現・法人化)の宣伝プロデューサーを務めていた。

「叶井は意図せず失敗して、そこが面白がれるという人でした。お金の面では、みなさんに多大なご迷惑をかけてしまいました。それでも、同じ業界にいられるという神経がすごいと思いました(笑)。私はあんな図太い神経を持っていないです。被害者の方は多いと思いますが、私自身もそうなんです。返済計画600年くらいかかるお金のうち、何年も返さずに逝ってしまいましたから」

 叶井さんの口座残高は約20万円だった。それが全財産。

「亡くなった後に給料が振り込まれたんです。遺産が20万円というのも、大概という気がしますね(笑)。葬儀代も市民税も私が支払ったので、実質マイナスです(笑)。酒を飲む人ではなかったので、飲んだり買ったりという遊びはしなかったのですが、ブランド物が大好き。最期まで服飾費にはすごくお金をかけていました。夫が高い服を買うものだから、私はいつも古着ばかり。街を歩いていて、『しまむら』を見ると、夫は『ほら、ママの好きな服屋があるよ』って言うんです」と笑う。

 今や、がんは日本人男性の生涯で2人に1人が罹患するとも言われている。やはり、高額医療が受けられるがん保険などは入った方がいいのだろうか。

「お金があるんだったら、保険には入らなくてもいいと思います。ケースバイケースだから、何とも言えないですね。入院費は出ましたが、受診料や入院費は私が建て替えていました。一番長い時で、20、30万円だったと思います。うちの場合、自由診療費だったので、その部分は全く保険でまかないませんでした」

 倉田さんがお金のことで決めておいた方がよかったと後悔しているのは、葬儀費用のことだ。通夜・葬儀は東京都品川区の桐ヶ谷斎場で営まれ、通夜には約300人が参列した。

「葬儀のことなど、存命中は考えたくないものです。私も全然考えないで、迎えてしまったのですが、とんでもない額がかかってしまったんです。最初の見積りは780万円でした。通夜振る舞いのフライドポテトが一皿8000円とかするんです。こちらも精神的に弱っているから、葬儀会社に勧められるまま『分かりました』『分かりました』となってしまうんです。結果、いろいろ抑えましたが、合計500万円ぐらいかかりました。少なくとも、上限くらいは決めておかないと、青天井になってしまいます」

 墓はなく、遺骨は今も自宅に置いている。

「動かすつもりないです。私、夫の思い出をずーっと何回も見直しちゃうんです。動画や録音した声、写真とか。骨は夫自身だってわかっているんだけど、自分の思い出につながらないから、見たりすることはないんですけども。ケータイも解約していません。私が死ぬ時に、一緒に解約してもらったらいいかなと思っています」

 叶井さんは金銭面、食生活などでハチャメチャ。貯金もなく、入院費の数万円も払えなかったが、倉田さんにはけっして「だめんず」ではなかったのだという。

「ダメなところはすごくありましたけど、そういう人だからこそできることを持っているんです。私には、そういう部分が尊かった。私が持ってないものをたくさん持っている。私は22年に父も亡くしました。父を愛したし、悲しい気持ちでしたし、感謝もしていますが、それは父が家族だったからです。叶井さんの場合は、私の夫じゃなくて、すごく尊敬の感情みたいなものを持っています」

 そんな叶井さんを亡くした思いは今も消えることはない。

「夫の死は、私という人間を相当変えました。失恋ソングを聴くと、全部、夫のように聴こえてしまうし、前は健康で長生きしたいと思っていましたけど、今はそう思えない。夫は普通の人よりもだいぶ早く死んじゃったけど、そのこと自体が不幸かっていうと、そんなこともないんです。夫は普通の人の10倍ぐらい生きました。夫はがんが分かってから『もう十分。やりたいことはやったよ』と言っていましたが、その意味はよく分かります。私自身も、割と自分の好きなことやっていきているから。別に、いつ死んでもいいなという気持ちがあるんですよね」。

 倉田さんへの取材は約1時間だった。時折、涙を見せることもあったが、楽しそうに笑うことも多かった。叶井さんを語ることが幸せなのだと伝わってきた。

■倉田真由美(くらた・まゆみ) 1971年7月23日、福岡市生まれ。一橋大商学部卒業。自身の男性遍歴を赤裸々に描いた『だめんず・うぉ~か~』でブレーク。その後も、恋愛や男女関係、社会問題など幅広いテーマで執筆活動を続けている。主な著書に、漫画では『だめんず・うぉ~か~』『くらたまの悪口だらけ』『おんなの教室』、エッセイでは『倉田真由美の恋愛道場』『女は男のどこを見ているか』など。

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