中居正広の声明に覚えた“違和感”、波紋呼ぶ箇所以外に「プロでは使わない言葉」「自分で書いたのでは」弁護士が指摘

女性との「性的トラブル」を多額の解決金を払って示談したと報じられたタレント・中居正広が9日、個人事務所の公式サイトに声明を発表した。この中で中居はトラブルの存在を認めて謝罪したが、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は声明の「ある言葉」に違和感があるという。

中居正広【写真:ENCOUNT編集部】
中居正広【写真:ENCOUNT編集部】

元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔氏が分析

 女性との「性的トラブル」を多額の解決金を払って示談したと報じられたタレント・中居正広が9日、個人事務所の公式サイトに声明を発表した。この中で中居はトラブルの存在を認めて謝罪したが、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は声明の「ある言葉」に違和感があるという。

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 中居正広氏の初声明は波紋を呼び、各界の専門家が様々な意見を述べている。「示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」。この一文には批判が相次ぎ、「示談成立と実際に芸能活動ができるかとは次元が違う話」などと指摘された。

 私自身はこの声明全体を見た瞬間、こう感じた。

「中居さんが自分の手で、書いてしまっているのではないか」

 深刻なトラブルを受けての声明文には細心の注意が必要だ。表現ひとつでその後の人生が大きく左右される恐れもある。そのため、作成の際には弁護士などの専門家に下書きをしてもらったり、本人が原稿を書く場合も専門家に添削してもらってリスク管理することが多い。ところが、中居氏の声明の最後から2行目に出てきた次の一文に、私は特に違和感を覚えた。

「皆々様に心よりお詫びを申し上げます」

「皆々様」。この表現はステージ上で勢いよく口上を述べる際には使うだろうが、公の文書では通常使わない。こうしたくだけた表現は危機管理を担当する弁護士のボキャブラリーにはなく、代わりに「皆様」や「関係各位」などの言葉を使う。

 また文末の氏名の表記「のんびりなかい 中居正広」も、専門家ならこう書かない。個人事務所の会社名を書くなら「株式会社のんびりなかい 代表取締役 中居正広」だし、そもそもこの件は中居氏個人のトラブルなので会社名ではなく「中居正広」とだけ書くのが通常だろう。また最終段落の冒頭に使われた「最後になります」という話し言葉も公式声明の言い回しではない。

「プロ」は使わない言葉が使われている。このことは声明作りを主導したのが中居氏本人だったことを示しているのではないか。中居氏は外部から大まかなアドバイスは受けたかもしれないが、声明自体は専門家に下書きを依頼せず、細かい添削も頼まず、自分で中身を決め自分の手で書こうとしたように思えるのだ。
 
 では、中居氏は一体、誰に向けて何のためにこの声明を書いたのか。

 一部報道では「芸能活動再開」や「違約金対策」のためという説も出ているが、トラブル自体は認めてしまったので効果は限定的に思える。私が思い至ったのは、次のような可能性だ。

「この声明に戦略的な『目的』は、何もないのではないか」

 実は声明を読んで意外だったのが、その「宛先」だった。被害を訴える女性への直接の謝罪がないのも大きな疑問だが、もう一つ、こうした声明の多くに現れる相手が書かれていない。

「ファン」だ。
 
 この声明の中で相手を明記して呼びかけているのは次の3箇所。「皆様にご迷惑をお掛けし」「相手さま、関係各所の皆さまに対しては大変心苦しく」そして「皆々様に心よりお詫びを申し上げます」。「皆様」の中にファンも含まれるのだろうが、「ファンの皆様」や「いつも応援してくださっている方々」といった表現はない。活動再開などを「目的」にするならファンにも触れそうだが、出てこないのだ。

西脇亨輔弁護士
西脇亨輔弁護士

TV局への「お詫び」に感じる内容、女性を傷つけかねない「解決」連呼

 では、なぜ声明を出したのか。私にはこの文章は、中居氏からこれまで仕事をともにしてきたテレビ局スタッフらへの「あいさつ」に思えた。

 声明は「ご迷惑をお掛けしていること」へのお詫びで始まる。一連の問題で今最も「迷惑」を受けているのは対応に追われる番組関係者だろう。声明発表の2日前、今月7日放送の日本テレビ系特番『ザ!世界仰天ニュース 4時間SP』では、中居氏の姿を全カットするという大変な編集作業が行われた。そして、他局でも番組の放送中止が相次いでいる。こうした仕事上の「迷惑」について中居氏は声明で「私自身の活動においても、ご苦労を強いてしまっていることが多々発生しております」と述べ、続けて事案説明を始めている。

 トラブルはあったが示談が成立したとし、テレビ局関係者の関与報道を念頭に、当事者以外の関与を否定。そして最後に仕事関係者に対するものも含め、誹謗中傷は止めて欲しいと呼びかける。「芸能活動についても支障なく」という一節も示談の結果説明のつもりだったと考えると、この声明は、これまで仕事仲間にも説明できずにもどかしく思っていた中居氏が、自分の近くで働いてくれていた人たちに向けて、自分の言葉で説明とお詫びをしておきたいと記した文章。そう考えると全体が理解しやすく感じる。

 ただ、この解釈が正しいとすると、その文章を公表する必要はあったのだろうか。

 声明が「番組関係者」「仕事仲間」に顔を向けたものなら個別にメールなどで送れば十分だ。一方でこれを公表すると被害を訴える女性はどう感じるか。「芸能活動についても支障なく」という一節に落胆するかもしれない。さらにもう一つ、女性を傷つけかねかい言葉が使われている。

 それは「解決」という2文字だ。

 全553字のさほど長くない声明の中に「解決」という言葉は3回登場する。しかし、示談成立が意味するのは、基本的には損害賠償についての経済面の合意だ。一方で、事件そのものが本当に「解決」したと言えるのは、そのダメージから女性が完全に立ち直った時なのではないだろうか。それを中居氏の側から「解決」と連呼することは、女性の心に新たな傷を与える恐れがあると思う。中居氏に悪意はないのかもしれないが、トラブル時には不用意なひと言が、相手への「刃」になりうる。

 だからこそ、中居氏の声明はもっと慎重に、さまざまな知恵を集めて練られるべきだったのではないか。そして、声明を真っ先に向ける相手は誰であるべきなのか。こうした場面での一言ひとことは、全てを左右する重みを持つのだと思う。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

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