百条委員会は無視されるのか…斎藤元彦知事が今年最後の会見で語った「結果次第」に危惧
兵庫県の斎藤元彦知事が今月26日、年内最後の知事会見に臨んだ。その中では前日25日に行われた百条委員会での証人尋問についても質問が出たが、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は斎藤知事の回答内容を分析し、「百条委員会軽視」の危惧を指摘した。
元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔氏が指摘
兵庫県の斎藤元彦知事が今月26日、年内最後の知事会見に臨んだ。その中では前日25日に行われた百条委員会での証人尋問についても質問が出たが、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は斎藤知事の回答内容を分析し、「百条委員会軽視」の危惧を指摘した。
私は毎朝配信しているYouTube番組のために斎藤元彦知事の会見を毎回書き起こしているが、その度に思っている。
「これでいいのか」
年内最後の定例会見で飛んだのは「百条委員会が出した結論は、きちんと受け入れるのか」という質問だった。前日に行われた再選後初の百条委員会で斎藤知事は突然、パワハラなどの認定について、最終的には百条委員会ではなく「司法の場が大事」と主張。このため、来年2月にも出される予定の百条委員会の結論を斎藤知事は受け入れないのではないかという疑念が生まれた。それを踏まえた質問に、斎藤知事はこう答えた。
「最終的に弁護士とも相談していく中で、ハラスメント問題の最終的な認定は司法でされるものだろうという認識をアドバイスもいただきました」
記者からは「これまでは、百条委員会や第三者委員会で疑惑は判断されるべきと言っていなかったか」「ゴールポストが動いたのではないか」との指摘が飛んだが、斎藤知事は「法的な認定については、もちろん司法の場でしていく」と繰り返した。
しかし、その「司法の場」とはどこなのか。斎藤知事を巡って司法手続きになっているのは「PR会社買収疑惑」の刑事告発だけで、パワハラや「内部告発つぶし」の疑惑は裁判になっていない。現在裁判中なら「司法の判断を待つ」というのも分かるが、そうではない。そこで具体的に「司法の場」とは何かを問われると、斎藤知事はこう答えた。
「具体的には、想定していなくて」
一方で「百条委員会や第三者委員会が知事のしたことを『パワハラ』『公益通報者保護法違反』と認定されれば受け入れるのか」という核心を聞かれると、こう述べた。
「どういう結果が出るかというのはこれからなので、仮定の質問にはなかなかコメントできないですが、我々としては、公益通報の対応については適切だったと考えています」
私は「えっ?」と耳を疑った。なぜ、「結果が出る前」だと百条委員会の結論を受け入れるかを答えられないのか。「結果によって、受け入れるかどうか決める」という意味だとすると「自分の気に入った結論なら受け入れるし、自分の気に食わない結論なら受け入れない」と言っているのと同じだ。
百条委員会は地方自治法という法律による委員会で、公職にある知事が結論に従うのは当然のはず。それを受け入れないなら百条委員会の存在自体が無意味になってしまう。
だが、百条委員会の結論を無視しただけでは「政治責任」は発生しても「刑罰」はない(百条委員会で偽証していたら罪に問われるが)。そこで斎藤知事は「司法」を持ち出して百条委員会の結論は「司法より格下」と扱い、これを黙殺しようとしているのか。
斎藤知事は25日の百条委員会後の会見で、これまでに3人の専門家が公益通報者保護法上の問題を指摘したことについても「3人の方の見解が全ての専門家の見解ではない」と言い切っていた。百条委員会に出席した3人はいずれも公益通報者保護法についての我が国の第一人者だったのに、それすら認めなかった斎藤知事は、百条委員会の結論が出ても意に沿わなければ受け入れずに「強行突破」するのではと感じられる。
続く遺族への誹謗中傷…「止めて」と呼びかけない知事
そして、さらに耳を疑ったのは、斎藤知事を巡る告発をした元県民局長の遺族や県関係者に対していまだに続く誹謗中傷への対応だ。
「知事として県職員やご遺族への誹謗中傷を止めてくださいということを、なぜ言わないのか」「情報拡散に今すぐできることもあるのではないか」という指摘に対して、斎藤知事はSNSの一般論を繰り返し、これから新しく第三者機関を作って対応すると述べるだけ。県内部調査の情報が漏えいしたとの指摘もあるのに、情報の削除要請をする意向さえ示さなかった。たまらずに記者が「誹謗中傷を止めてくださいとか、今すぐ県警に相談行きますとか、そういうことができる立場なのに、なぜしないのか」と問いただすと、斎藤知事はこのように答えた。
「そういった意見があるということは受け止めますけれども、自分としては、県としても、適切な対応だという風に思っています」
だが、今まさに誹謗中傷にさらされる人たちがいるのでそれを止めるべきだという指摘は、単なる「意見」で片づけてよいものなのか。目の前で苦しむ人たちの苦しみを無視したまま、政治はできるのだろうか。
さまざまな思いが残った会見だが、何より深刻なのはこのことが継続して報じられず、その内容が黙認されていくことだと思う。兵庫県知事選挙から1か月以上が過ぎて新しいニュースも次々出てきているが、決して忘れてはいけない問題は確かに残っている。
そのことを肝に銘じて年を越したいと思う。
□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。