視覚障害者に「勝手に触らないで」 当事者が切実な訴え 意図せぬ事故の危険も…「命に関わる」

健常者にはなかなか想像がつきづらい、視覚障害者の日常。路上などで介助のために許可なく体に触れる行為について、「本当にやめてほしい」「勝手に触らないで」とつづった当事者の投稿が、ネット上で話題を呼んでいる。目の見えない相手に突然触れる行為には、どのような問題があるのだろうか。20代で交通事故に遭い、ある日突然全盲になったという暗闇の姫(@LW_darkness)さんに、投稿に込めた真意を聞いた。

介助への本音をつづった視覚障害者の投稿が話題に(写真はイメージ)【写真:写真AC】
介助への本音をつづった視覚障害者の投稿が話題に(写真はイメージ)【写真:写真AC】

路上などで介助のために許可なく体に触れる行為について「本当にやめてほしい」と訴え

 健常者にはなかなか想像がつきづらい、視覚障害者の日常。路上などで介助のために許可なく体に触れる行為について、「本当にやめてほしい」「勝手に触らないで」とつづった当事者の投稿が、ネット上で話題を呼んでいる。目の見えない相手に突然触れる行為には、どのような問題があるのだろうか。20代で交通事故に遭い、ある日突然全盲になったという暗闇の姫(@LW_darkness)さんに、投稿に込めた真意を聞いた。

「誰も私の体に許可なく触ってはいけないの。相手が見えない人だとしても、他人の体に意図的に勝手に触るのはおかしいよ」

 昨年12月、視覚障害者の本音についてつづった投稿は、5000件を超えるリポスト、3.6万件もの“いいね”が寄せられるなど、大きな反響を呼んでいる。

 投稿では、「一緒に階段おりますよ」「電車乗りますか」などの声かけと同時に腕をつかまれることについて、「私は『触っていいよ』って言ってないよ。お手伝いもまだお願いしてないよ。お願いだから、やめてほしい。びっくりして、そのあとうまく気持ちが切り替えられなくて、ドキドキしながら歩いて、危険な目に遭うこともある。勝手に体を触るのは『お手伝い』になってないの。本当にお願いです。勝手に触らないでください」と、突然の介助に対する心境を吐露。「特に私が動いている時にやられると、本当に危ないです。私も落ち着いて対応することができません。だから強く『離してください』『やめてください』『掴まないでください』と言ってしまいます。お互いに良いことないです」と、危険が伴うことを説明している。

 投稿にはさまざまな反応が。「勝手に触るそんな非常識な人いるんですね」「母が全盲です 親子ですら勝手に腕を掴んだりしません」「何か助け求めてる以外、声かけないようにしてます」「いくら善意でも、接触はプライバシー」「『見えない世界』という物がどれだけ不安か、どれだけ神経を研ぎ澄ませて行動しているか、知らない人が本当に多いと感じます」「当事者にしか解らない事が有るので、これからも発信して戴きたいです」といった共感の声が多く寄せられている。

 思わぬ反響を受け、投稿者は「『触られるのが不快』という印象を与えてしまったようですが、それもそうだけど『危ない』んです」「ちょっときつい言い方だったかもしれないけど、私は『命に関わるかもしれないこと』は、はっきりきつく言いたい」とあらためて投稿の意図を説明。一方で、「声かけている余裕がないくらい危険な場面、たとえば、もう一歩踏み出したら線路に落ちる、赤信号なのに車道に出てしまった、などは、つかんででも止めてほしいです。その結果、転んだとしても、線路に落ちるよりいいです。車に轢かれるよりいいです。視覚障害者に限らず、咄嗟に手が出るような場面は、同じ様に咄嗟に手を出してください。お願いします」とも語るなど、視覚障害者の置かれた状況への理解を求めている。

 交通事故により目が見えなくなってからまもなく5年になるという暗闇の姫さん。当時について「意識が戻った時にはすでに見えなくなっていました。突然の出来事にひどく落ち込み、退院してからの約1年半、ほとんど家から出ることなく、自室に引きこもっていました」と振り返る。今は「好きな時に好きな場所へ1人でも行ける」ことを目標に日々の外出を楽しんだり、「ボイスオーバー」というスマートフォンの読み上げ機能を使いSNSで発信を行ったりしているという。

「助けたい」「手伝いたい」という思いと、当事者の本音とのズレやすれ違いを発信

「SNSを始めて、白杖ユーザーを見かけた方の『どう声かけたらいいかわからなかった』『声をかけたけど、余計なお世話だったのではないか』という投稿の多さに気がつきました。実際にも『誘導方法がわからなくて、ごめんなさい』『余計なお世話かと思ったけど、声かけてしまってごめんなさい』と、お声がけだけでもうれしいのに、ご自身の至らないと思われた点を謝ってくださる方がいます。

 また、私が意図的に壁に向かって歩いている時に、『こっちですよ』と急に腕を引っ張られたり、電車やエスカレーターの乗り降りの際に体を支えられたり、私の体が自分の意図しない方向へ動いてしまうことがあります。ほとんどが『助けたい』『手伝いたい』と思っての行為であることは理解していますが、実際にはとても危険な行為で、私がバランスを崩したり、電車とホームの隙間やエスカレーターの降り口を確認できず、転んだりしてしまう可能性もあります。

 せっかく『助けたい』『手伝いたい』と思って行ってくださったことなのに、かえって白杖ユーザーを危険にさらしてしまう、このズレやすれ違いが存在してしまっていることを、とても悲しく思っていました。『助けたい』という優しい気持ちを、私自身がそのまま受け取れるように、『こういうのは助かる』『こういうのは実は助からない』と伝えていきたいと思いました。また、私の目が見えなくなったからこそ、見えるようになったこの世界の優しさを、SNSを通して伝えていくことで広げていけたらいいな、とも思っています」

 あらためて、今回の投稿については「白杖を持っていない腕でも鞄でも背中でも、突然、私の意思とは関係なく体が動くこと、私の意思で体を動かせなくなることは、とても危険で怖いです。みなさんは『助けたい』『手伝いたい』と思ってしてくださっていると思うので、本当は危ないことである、ということを知ってもらいたくて、投稿しました。さらに、もっと根本的なお話で、私は目が見えないけれど皆さんと同じ人で、他の皆さんがそうであるように、危険な時を除いて『許可する前に他者から体を触られない』ということは、1人の人として大切なことであると思い、投稿に含めました」とその真意を説明する。

 共感や学びなど、さまざまな反応があったという今回の投稿。一連の反響について、暗闇の姫さんは「たくさんの方にご覧いただき、『気をつけようと思った』などのコメントを多くいただき、とてもうれしく思っています。しかし、中には障がい者差別と受け取れるコメントや、肯定意見か否定意見かにかかわらず、私の意図と異なる受け止め方をされていたコメントもありました。私自身、もっと上手に伝えられる方法を考えるきっかけになりましたが、やはり差別や偏見を含んだコメントや、私が書いていない内容をあたかも私が書いているかのようなコメントを読むと、とても悲しい気持ちになります。

 私は、特定の誰かの特定の行為を責めたいのではなく、『次』に誰かを助けたいと思ってくれた時に、『そういえば急に触ったら危ないって言ってたな』と思い出してもらい、危険が差し迫っている時以外は、まず声をかけていただければと思っています。1人の視覚障害当事者として、こういった事実をお伝えすることで、『助けたい』と思ってくださったその優しい気持ちを、私自身も気持ちよく受け取れるように、これからも『私の見えない日常』を届けていきたいと思います」と話している。

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