今の時代ならアウト? コンプライアンス意識が欠如した『美味しんぼ』の登場人物たち

1983年から『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)で連載されている漫画『美味しんぼ』(原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ)はグルメ漫画の代表格として知られており、88年には日本テレビ系でアニメ化もされている人気作品だ。主人公・山岡士郎は天才的な料理の才能を持つ一方で、勤め先の東西新聞社では、飲みすぎて会社に泊まったり、飲食店の店主にけんかをしかけたりとダメ社員としての一面を持っている。しかし、東西新聞社で働く彼の上司に目を向けると、山岡以外にも今の時代にそぐわない人たちが存在するのだ。

美味しんぼ(作:雁屋哲 画:花咲アキラ/小学館)
美味しんぼ(作:雁屋哲 画:花咲アキラ/小学館)

クズ社員の山岡ですら同情してしまうほどの職場環境

 1983年から『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)で連載されている漫画『美味しんぼ』(原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ)はグルメ漫画の代表格として知られており、88年には日本テレビ系でアニメ化もされている人気作品だ。主人公・山岡士郎は天才的な料理の才能を持つ一方で、勤め先の東西新聞社では、飲みすぎて会社に泊まったり、飲食店の店主にけんかをしかけたりとダメ社員としての一面を持っている。しかし、東西新聞社で働く彼の上司に目を向けると、山岡以外にも今の時代にそぐわない人たちが存在するのだ。

 例えば山岡が所属する東西新聞社・文化部の副部長・富井富雄もその1人。連載開始時から副部長を務め、途中で部長代理に出世するが、よく出世できたなと思うエピソードが多い。そのひとつがコミックス10巻「キムチの精神」で描かれている。共同出版することになった韓国の大韓書籍から来日した人たちを接待する席で、富井は司会を担当。しかし、先方の社名を間違えるという失態を起こした上、会食で出たキムチに対して不満を述べた相手社長に対して、「キムチってこんなもんでしょ」と失礼な発言をして相手を激怒させてしまう。

 ほかにもタイの新聞記者・サクンタラの前でタイ米への暴言を吐いたり、酔っぱらって上司の小泉局長に暴行したりと、富井は数々の失態をさらし続ける。それでも出世できてしまうのだから、東西新聞社のコンプライアンス意識は大丈夫かと気になってしまう。

 ただ富井が暴力を振るった編集局長・小泉鏡一も決して褒められた人間ではない。コミックス21巻「穏やかな御馳走」で年明けに出社した小泉。年末に風邪をひいたせいで体調がすぐれない彼を心配し、部員たちは「新年会は欠席ですね」と声をかける。しかし、小泉は彼らに対して急にキレ出し、「出席するか欠席するか、そんなことは自分で決める!」と怒鳴り散らす。それでも怒りはおさまらなかったのか、部員たちにたるんでいると説教をはじめる始末。いかに体調が悪いとはいえ、八つ当たりのように感情をぶつけられる部員もたまったものではないだろう。小泉が怒鳴り散らす場面はコミックス81巻「甘い良薬」など、ほかにも描かれており、「いつかパワハラで訴えられるのではないか」と心配になるほどである。

 コンプライアンス意識が薄いのは、東西新聞社のトップである社主・大原大蔵に問題があるからかもしれない。彼も社員に対して高圧的な態度を示すことがあり、コミックス52巻「鮭の教訓〈前編〉」では、大原と目を合わさずに返事をする山岡に対して「相変わらず無礼な奴だ」と口にする場面が描かれている。山岡の態度にも問題はあるが、社運をかけて取り組んでいる究極のメニューの担当者である山岡を「無礼な奴」呼ばわりするとは社主の性根を疑いたくなる場面だ。

 同作の読者からは「経営者、役員、中間管理職を見る限り、東西新聞社はコンプライアンスが欠如しているようだ」「死んで詫びろ!とか平気で言う東西新聞社の方々のコンプライアンス無視な環境」など、東西新聞社の職場環境を憂う言葉がSNS上であがっていた。

 グルメ漫画の代表格として声のあがる『美味しんぼ』は、コンプライアンス意識を学ぶ反面教師としても有効な作品だろう。もしかしたら、山岡がクズ社員になったのも東西新聞社の職場環境に原因があったのかもしれない。

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