紅白は本当に「オワコン」? 出場者にとっての夢舞台「光栄なこと」、音楽関係者が語る魅力
大みそかに放送されるNHK『第75回NHK紅白歌合戦』の歌唱曲が発表された。今年も日本を代表するアーティストたちが名を連ねる一方で、出場が期待されるもかなわなかったアーティストたちも多くいる。多くのヒット作を手掛けた“you-me”こと成瀬英樹氏が作曲家目線での「紅白」を語った。
『紅白歌合戦』は日本一伝統ある「フェス」
大みそかに放送されるNHK『第75回NHK紅白歌合戦』の歌唱曲が発表された。今年も日本を代表するアーティストたちが名を連ねる一方で、出場が期待されるもかなわなかったアーティストたちも多くいる。多くのヒット作を手掛けた“you-me”こと成瀬英樹氏が作曲家目線での「紅白」を語った。(文=“you-me”成瀬英樹)
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今年もまたぞろ「紅白はオワコン」などの言説がSNSなどで飛びかっています。裏番組の充実や、大衆娯楽の多様化なども重なって、お茶の間が『紅白歌合戦』にかつてほどの価値を見いだせなくなってるなんてこと、ここ30年以上言われ続けている気がしますけど、「本当にそうなのかな?」「紅白って毎年結構面白いけどな」と僕は思っています。
僕、「成瀬英樹」は、現在50代中盤を過ぎた、バンドマンあがりの作曲家です。『紅白』には幼い頃から親しみを持っていた世代。しかしながら、昭和後期の我が思春期には時代の移り変わりとともに『紅白』に活動の重きを置かない(風を装う)バンド系やシンガー・ソングライター達が台頭して来た時期と重なり、僕もまた「紅白ってダサいじゃん」派閥に一票を投じていました。
1990年代、20代の僕はバンド活動にすべてを懸けていました。当時ライブハウスやコンテストで活動しているうちに、レコード会社やイベンターから声を掛けてもらうようになりまして、オトナたちに「君たちの目標はなんだね?」と聞かれることがあったなら僕は鼻息も荒く「紅白出場です」と答えていたんですよ。その時代のライブシーンのミュージシャン達に『紅白』が目標と公言する価値観はなかった(だろう)から、僕たちなりのカウンターであり「逆にそっちがロック」的な逆張りのつもりだったんです。
何だかんだ言っても、やってる方、作ってる方は、紅白はすごく出たいものだと思います。だからこそ、真っ当に正直な答えでもあったわけです。もちろんそれはかなわぬ夢、まるで空の星をつかむような話だと思っていました。現実感などまるでないものだから、恥ずかしげもなく「紅白が夢です」なんて言えたわけです。
時は流れて2007年7月、AKB48の4thシングル『BINGO!』の作曲者として、初めて「週間チャートベスト10入り」を果たしました。そしてその年、AKB48は紅白歌合戦に初出場を決めました。僕はその知らせをNHKの午後7時のニュースで知りましたが、その「AKB48初出場!」を伝えるアナウンサーの声の後ろでは、僕が作曲した『BINGO!』のミュージックビデオが流れていたんです。
お! ついに念願の「作曲家としての紅白出場?」と期待しますよね。
出場発表から、曲目が決定するまでの約1か月、僕は仕事も何も手につきませんでした。当時齢39、ポンコツ音楽人生を歩んできた僕ですが、ついに夢の『紅白』に手が届くところまできたと思ったんです。しかしながら、その年にAKB48が歌唱したのは前年06年リリースされた『会いたかった』だったんですよ。嗚呼、無情。
あの時の落胆を思うと、今も胸が苦しくなります。『紅白』で歌ってもらえる機会なんて、そうはないことを知っていましたから。この時の悔しさは僕の心に火をつけました。近いうちにきっと必ず、自分が作ったメロディーを『紅白』の大舞台で歌ってもらおうと、より精進を誓ったんです。
AKB48『君はメロディー』で念願の“紅白出場”
『紅白歌合戦』で、僕が作曲した楽曲を歌唱していただいたのは16年のAKB48『君はメロディー』でした。ようやく9年越しの念願、いや、幼い頃からの「夢」がかなったんです。たくさんの友人知人から「おめでとう」と連絡をもらいました。そして何より、苦労と心配ばかりかけてきた家族や親戚が喜んでくれたことが、本当にうれしかったんですよね。
やはり『紅白』に出場できるのは、歌謡界に身を置くものとしては、これ以上ない光栄なことなんです。
今年も『紅白歌合戦』の歌唱楽曲が発表されました。チャンスがあった作詞家・作曲家のみなさんは、ドキドキの日々を過ごしたことでしょう。気持ち、分かるなあ。歌唱いただける作家さん、おめでとうございます。きっとご家族ご友人など大変に喜んでもらえることと思います。
『紅白』出場者に関して、口の悪い40代以上世代の視聴者は「誰も知らないよ」なんて言ってますし、若い世代は「またこのメンツか」と思ったりするんですよね。
しかしながら、僕は上の世代は若い歌手たちを知る機会になれば良いし、若い人たちはベテラン歌手たちの必殺キラーチューンに普遍性を見いだしてみるのもいいんじゃないかって思うんです。せっかくだから『紅白歌合戦』を日本一伝統ある「フェス」と捉えて、楽しんじゃえばいいんです。
そして、時々作詞作曲のクレジットも見ていただいて、作者たちの誇らしい気持ちにも、思いを寄せてみていただけたらうれしいですね。
□成瀬英樹(なるせ・ひでき)作詞・作曲家。1968年、兵庫県出身。92年、4人組バンド・FOUR TRIPS結成。97年、TBS系ドラマ『友達の恋人』(瀬戸朝香・桜井幸子主演)の主題歌『WONDER』でデビュー。2006年、AAA『Shalala キボウの歌』で作曲家デビュー。AKB48『BINGO!』『ひこうき雲』、前田敦子『君は僕だ』『タイムマシンなんていらない』などがトップ5ヒット。16年、AKB48のシングル『君はメロディー』で年間チャート2位を記録するミリオンセラーを達成。21年、乃木坂46『全部 夢のまま』を作曲。