“危険なプロレス技”問題の対処法 カギは「合同練習」と「ムードメーカー」…主催者の見解
予期せぬ事件や衝撃のサプライズを含め、今年のマット界も例年以上にさまざまな話題を振り撒いてきた。その中で、定期的に話題に上るのが、プロレス技の危険性に関するもの。最近でもSareeeの放った裏投げを巡って論争が起こり、その火種は海外に飛び火したかと思えば、引退した選手も見解を述べ、迷惑DMが送られたSareeeが異例の声明を発表するなど、大きな波紋を呼んだ。そこで、この問題における一つの対処法を、令和女子プロレス界の一翼を担うシードリングの南月たいよう代表に聞いてみた。
シードリング・南月たいよう代表にインタビュー
予期せぬ事件や衝撃のサプライズを含め、今年のマット界も例年以上にさまざまな話題を振り撒いてきた。その中で、定期的に話題に上るのが、プロレス技の危険性に関するもの。最近でもSareeeの放った裏投げを巡って論争が起こり、その火種は海外に飛び火したかと思えば、引退した選手も見解を述べ、迷惑DMが送られたSareeeが異例の声明を発表するなど、大きな波紋を呼んだ。そこで、この問題における一つの対処法を、令和女子プロレス界の一翼を担うシードリングの南月たいよう代表に聞いてみた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
本題に入る前に、今年の女子プロレス大賞は、シードリングシングル王座とマリーゴールドワールド王座の二冠王である“太陽神”Sareeeの頭上に輝いた。これに関してシードリングの南月たいよう代表に話を振ると、「うれしかったですね。獲ったんだ。おめでとうって思いました」と話したが、呼び水となったのは、Sareeeが昨年8月、前王者の中島安里紗との死闘の末にシードリングのシングル王者になったことだった。それが前振りとなって、今年の大活躍につながったこと。これは最初に断言しておきたい。
さて、南月代表は、かつては“全女(全日本女子プロレス)最後の新人”としてデビューし、スターダムの旗揚げメンバーでもありながら10年間の現役生活を終えて、世界放浪の旅に出るという異色の経歴を持つ。2015年6月には現在、マリーゴールドに所属する高橋奈七永とシードリングを立ち上げ、2022年からは代表として女子プロレス界をけん引してきた重要人物の一人でもある。
そんな南月代表に、今回Sareeeが巻き込まれた裏投げ騒動について訊(たず)ねると、「Sareeeの試合の話に関しては、会場にいた人間にしか語っていいことではないと思うので、試合を実際に見ていない、切り抜きだけの動画とか他人から聞いただけの情報で話すつもりはないんです」とのこと。
その上で、個別の案件ではなく大前提の話として、「プロレスはコミカルだろうとエキシだろうと、打ちどころが悪ければ死場所はリングじゃないですか」と話した。
南月代表は、「そのためにレスラーは鍛えているわけで。その中でアクシデントとかけがとか起こることはありますけど、それはしょうがないって言ったら違うかもしれないけど、しょうがない面があると思うんです」と述べた。
これに関しては激しく同意で、そもそもリングに上がった選手が実戦するのがコンタクトスポーツである限り、大小の違いはあってもけがとは付き合っていかなければならない。それが嫌ならリングに上がらないこと。それしかけがから逃れることはできないだろう。
「練習のムードメーカーになれ」
だからこそ、南月代表は「対応力を養うためにトレーニングをしてます」と話しつつ、次のように証言する。
「トレーニングは何が起こっても対応できるように、いろんな場面を想定して練習しています。やっぱり“合同練習”を大事にしているかもしれないですね。パーソナル(個人練習)だと自分に合った、自分のための練習じゃないですか。そういうのって、身体能力は上がるかもしれないけど、“合同練習”は体力を養うこともできる。しかもそれだけじゃないですよね」
続けて南月代表が持論を述べる。
「自分がよく言うのは、『練習のムードメーカーになれ』。その場の空気を作れる人間っていうのはリング上の景色も変えられる。それが引いては、入場してきただけで会場の空気を変えられるようになるんです。『なんか今日、空気が澱(よど)んでるなあ』って思っていても、ムードメーカーがいることでけがの防止につながりますよね。やっぱり空気が澱んでいる時って何か起こったりするんですよ。そこで『よし行くぞ!』ってムードメーカーがいるとやる気が出るとか、その空気を変えられる。あとは、どこにいたら邪魔なのか。この人は何が得意で何が不得意なのかを意識することだったり。自分が疲れていても、みんなで練習をしていたら『今行かなきゃいけない』って思わぬ力が出ることもありますよね」
ここまで書いて、実は興味深い話がある。現在のシードリングには、キャリアの浅い若手しか所属選手がいないということ。要はシードリングが大会を開く場合、出場する選手のほとんどがフリーとして活躍する、シードリング以外の選手になる。
「自分のリングに上がってきてくれる人たちは、しっかりと土台を作ってきてくれるからこそ、激しい闘いもできますし、そこは全部“信頼関係”ですよね。闘う選手も、呼ぶ側も。常々、私は『レスリングで会話のできる選手になれ』って言われてきたけど、それは『組んだだけで相手の意図や動き方が分かって、すぐに対応できるように』ってことだから、それを頭に入れながら指導をしています。あとは、ひと口に『選手』って言っても、男子プロレス出身の人、背のデカい人、小さい人……、全部対応できるようなプロレス力を持っている人たちだからこそ、毎大会、刺激的なカードを組ませていただけると思っています」(南月代表)
少人数で団体を運営していくメリットは他にもある。
「ウチはまだ人数が少ないですけど、特に団体の指針が共有できるようになりますよね。『シードリングの目指すのは“魂の女子プロレス”だ』ってことを打ち出せるじゃないですか。しかも、実際に所属はしていなくても、ウチに上がってくれるフリーの選手たちは、そういう思いを持ってシードに上がってくれているなっていうのは感じるんですよ」(南月代表)
Sareee対野崎は“勝ち負け”に没頭できる闘いに
南月代表はそう言って、「合同練習」の重要性と「団体プロレス」の良さを熱弁した。「自分もフリーは3、4年やっていて、確かに一長一短ですけど、個人的には『団体プロレス』が好きですね」。
それにしても、ほとんどフリーの選手だらけで、よく今まで団体の色が保ててきたなと感心することもある。
「すごいみんなが共鳴してくれる感じですかね。それはありがたいですね。多分、それができる選手がフリーになると思うんですけど、ホント同じ選手であっても、よそで見る場合とシードで見る場合は違ったりするんですよ」
例えば、一緒に“合同練習”をしていると、阿吽(あうん)の呼吸に近い感覚が生まれ、けがをしにくくなると解釈すればいいのか。
「(試合の)クオリティーは上がるかなと思いますね。試合って、常に相手の力量を考えながら、こいつにはここまでやっても大丈夫って思って技を仕掛ける場合と、逆にそこまでやるまでもない人だったりとか、このスピードで受けれるか遅らせるかって、その時々によって一瞬の判断を求められるじゃないですか。だからこれは選手個々に言えると思うんですけど、それなりの経験値があれば防げるけがもあるし、キャリアがあるからこそ小慣れてしまってけがを呼び込んでしまうこともあると思うから、常にリング上には緊張感はないとダメだと思いますね」
そこまで話した南月代表と、キャリアの浅い若手だけになった新生シードリングの未来について話していると、リング上を見る上での根本的な話になった。シードリングは年内最終戦を12月27日、後楽園ホールで開催するが、メインイベントでは、王者・Sareeeに野崎渚が挑戦するタイトル戦が行われる。
南月代表はこの試合が、いわゆる裏投げ問題や危険なプロレス技といった類の話が入り込む余地がない試合になると確信している。
「Sareee対野崎はそういう領域を超えた闘いになるんじゃないかと。やっぱり試合を見ていて、あれは危険なんじゃないかとか、あれは失敗したんじゃないかとか思ってしまう試合って、“勝敗”に集中できてないんですよね。その点、あの二人なら、(観客が)自然と“勝ち負け”に没頭できる闘いになると思います」
そして南月代表は、今年も尋常ならざる令和女子プロレス界を生き抜いてきた経験を踏まえ、以下の言葉で話を締めくくった。
「いろいろと物議を醸していることはありますけど、Sareee対野崎戦は肩を上げるか上げないか。そういうことに集中できる試合をしてくれると思います。だって肩を3秒つけるためだけに闘っているんですから。だから本当はそれ以外のことはいらないんです。我々はそのために、たった3秒間、肩をつけるためだけに闘っているんですから……っていうことを、もう一度思い出していこうと思います」
さまざまなことが起きた2024年。最後まで気を緩ませることなく、リング上を凝視していきたい。