マリーゴールド青野未来「キレイで売りたかったらプロレスはやってない」 激動の半年を振り返る
近年でも今年ほど女子プロレスが話題になった年はない。そんな中、女子プロレス大賞はSareeeの頭上に輝いたが、早くもそれを猛追している女子レスラーたちの姿が見受けられる。その中でも筆頭株と目されるのが、マリーゴールド(MG)の青野未来になるだろう。青野は今年5月に旗揚げしたMGに参戦すると、半年間で一気にその存在感を令和女子プロレス界にとどろかせた。
Sareeeのエルボーは「すごいの来たー!」
近年でも今年ほど女子プロレスが話題になった年はない。そんな中、女子プロレス大賞はSareeeの頭上に輝いたが、早くもそれを猛追している女子レスラーたちの姿が見受けられる。その中でも筆頭株と目されるのが、マリーゴールド(MG)の青野未来になるだろう。青野は今年5月に旗揚げしたMGに参戦すると、半年間で一気にその存在感を令和女子プロレス界にとどろかせた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
「旗揚げの時(2024年5月20日)に後楽園ホールが超満員だったんですけど、あの景色はホントにすごいなあと思って。あんな景色を見れることは幸せだなあと思ったし、もっともっと頑張ろうって思いましたね」
MGの初代ユナイテッドナショナル(UN)王者に君臨する青野未来の言葉だ。青野はMGの旗揚げに合わせて、それまで主戦場としてきたアクトレスガールズからMGに闘いの場を求めた。
「私としても、ホントギリギリまで他の団体に行こうとは思ってもいなくて。多分アクトレスガールズで終わるなって考えていて。だから自分でもビックリです。ただ、MGでは自分との勝負もあったし、お客さんに査定されているような気持ちもあったので。ここでやらなきゃ。絶対に認められなきゃっていう気持ちもありました」
現在、MGでは、2024年の女子プロレス大賞に輝いた“太陽神”Sareeeがワールド王座に君臨している。
「団体最高峰とされるベルトがワールドのベルトとされているから、そしたら意識はするし、団体の選手、マリーゴールドの所属選手が持たないといけないと思うんですよね。もちろんSareee選手のおかげで、あのベルトも輝いているのかもしれないですけど、でも、それを越えなきゃいけないっていうのはすごく思います」
Sareeeといえば、現在、MGとシードリングのシングル王者として二冠王に輝いているが、当たりの強さが真骨頂でもあり、中には対戦を嫌がる選手もいると言われている。青野はやりたくないとは思わないのか。
「私は思わないです。やられたら、もっとやり返したいって思いますね」
ならばとSareeeのエルボーを食らった時の心境を聞いたところ、「やっているときは、もちろん痛いんですけど、うわーってなります。すごいの来たー! みたいな」と話し、「不思議ですね」と続ける。リング上では“レスラーズハイ”になっている、ということなのだろう。
ちなみに昨年3月、Sareeeが米国(WWE)との契約を満了し、凱旋会見を行った際、「最近の女子プロレスはかわいいとかきれいが話題になることが多い。プロレスはかわいいよりも闘いが先」といった内容の話を公にして物議を醸した。
「裏投げ問題」には「しっかり受け身を取れるようにしよう」
当時、アクトレスガールズを主戦場にしていた青野は、「もちろん(情報は)入ってくるし、見てはいるんですけど、その時はプロレスを(闘いとは)違うものというか、そんな感じで見ていたんですよね。自分がそこに行くと思って見ていなかったので。あまり、はい。俯瞰で見ている感じでした」と答えた。
当時の青野には、どちらかというと他人事に聞こえたようだが、実際にSareeeとリングで向き合うようになった今は違う。
「そりゃあそうですよ。別にキレイで売りたかったらプロレスはやってないし、私は。そんなことをもし思われていたら嫌だなっていうか、凄く心外というか。思いますね」
力強くそう答えた青野だが、その思いは昨今、話題になった「裏投げ問題」に関しても同様だった。「裏投げ問題」とは、Sareeeの繰り出す裏投げを巡ってけが人が出たことから、危険度に関して賛否が起こったことを指す。
「私も裏投げを2発くらい連続で食らっていたりするけど、やっぱりすごい技じゃないですか。ダメージがめちゃあるので。正直、最初は食らわないようにと思って逃げたし。でも、一回受けているから怖さはないです。世間で言われているような危険さはあんまり感じていなくて。そこは自分が食らった時に、しっかり受け身は取れるようにしようって思っている感じです」
さらに青野は続けた。
「自分の身を守るのは自分。どうしようもないこともあるとは思いますけど、受け身は取れないとなって思うし。丈夫なんですよ、そんなに(大きな)けがもないと思うし。丈夫で良かったなって親に感謝だなって感じました」
先にも触れた通り、青野はMGの旗揚げに合わせて、それまで主戦場だったアクトレスガールズからMGに闘いの場を移した。不安はなかったのか、と訊(たず)ねると、「不安はなくはなかったです。アクトレスガールズはほぼ鎖国状態だったのでプロレス自体もそんなに(本格的にはやっていなかった)。なのでちょっと不安というかドキドキはありましたね」と話した。
青野からすれば、不安以上にやっかいだったのは、SNSでいろいろと揶揄(やゆ)されたことだった。これに関して青野は半年前を振り返り、「SNSで叩かれもしたし、いろいろ言われもしたし。でも、それはしょうがないと思うんですけど……。結構ごちゃごちゃしてました」と話し、改めて当時の心境を次のように語った。
「いろんな思いはあったにせよ、それを言う場もなかったし。ファンの人たちに対しても、元のアクトレスガールズの子たちにも、急にそういうことがあって迷惑をかけているっていうのは、ホントに申し訳ないっていう気持ちはあったので、しょうがないと思いつつも言い訳もできないもどかしさっていうか、ちょっと違うなあというのがありながらも、そこがちょっとキツかったですけど。でも、新しい道に行くっていうのは、こういうこともあるなあって」(青野)
SNS上での意見に不快に思うことも「あるはありますね」
似たような話だと、現在WWE(NXT)で活躍するジュリアが、2019年にアイスリボンからスターダムに主戦場を変えた際にも、さまざまな物議を醸したが、ジュリアは最近、「あれがあったから、絶対に見返してやると思って頑張った」旨のコメントを残している。
この話を青野に向けると、「そうですねえ、ちょっと似ているような部分はありますね」と話しながら、SNS上での意見に対し、「(不快に思うことが)あるはありますね。こういうことを言うんだ。面と向かっては言わないだろうなっていうことを(書かれる)。文字のほうが余計傷つくよなって」と付け加えた。
令和の時代に入り、SNSにおける誹謗(ひぼう)中傷を含めた事例は後を立たないが、青野は「熱く選手を応援していたら、その相手に対して何か言っちゃうこともあると思うんですけど、それって応援されている選手も嬉しくないだろうから、書く前にもう一度考えてほしいですね。絶対に考えてほしいです」と訴える。
一方で、ファンが選手に対し、盲目的に信奉しすぎている面がなくはないか。中には選手が気付きを得られる指摘をされる場合はないのかと訊(たず)ねると、「それはあるかもしれない」と話し、過去にあった具体例を挙げた。
「私もデビュー戦の時に、ホント緊張してあんまり覚えていないんですよ。でも、終わってホッとしてしまって、悔しいとかあんまりなくて。その後にサイン会とかあった時に笑っていたら、『負けたのに笑ってたらダメだよ』って言われて。これは闘いだ。私はデビューしたことでもうそれ以上を考える余裕がなくて。でも未だにそれは残っているし、そういう指摘をしてくれたことはありがたいと思っています」
青野の話を聞いていくと、さまざまな葛藤の先に現在の“UN王者”を勝ち取ったことが伝わってくる。
そんな青野に対し、改めて「もし年内にSareee戦のオファーがあったら?」と水を向けると、「それはチャンスですもんね。この前、一日2試合になってもいいからやりたいと言ったこともあったんですけど、ダメだったんです。でも、そのくらいの気持ちがないと、チャンスってそんなにないと思うので。今もしもらえるんだったら行きたいです」と快活に答えた。
「プロレスのほうに戻ってきてくれて良かった、と言ってくださる方が結構(いる)。嬉しいですね、それは」
最後にそう話すと、明るく笑ってそう答えた青野。来年の女子プロレス大賞がどうなるのかは誰にも分からないが、活躍次第によっては、青野未来にもその可能性は決してなくはないと予想する。