斎藤元彦知事「SNS戦略を知らない」に疑念、よみがえる泉房穂氏との“盗聴器騒ぎ”…弁護士「知り尽くしているのでは」
兵庫県の斎藤元彦知事が再選された先の知事選についてPR会社の女性社長が「自分がSNS戦略を企画立案した」などと投稿し、知事らに公職選挙法違反などの疑いが浮上した問題は今月2日、刑事告発が発表された。この事態について、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「カギを握るのは斎藤知事の『認識』」と指摘した。
元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔氏
兵庫県の斎藤元彦知事が再選された先の知事選についてPR会社の女性社長が「自分がSNS戦略を企画立案した」などと投稿し、知事らに公職選挙法違反などの疑いが浮上した問題は今月2日、刑事告発が発表された。この事態について、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「カギを握るのは斎藤知事の『認識』」と指摘した。
斎藤元彦氏のSNS選挙を監修したのは、誰か。
多くの疑問が指摘される今回の問題だが、一番の焦点はやはりこの点だろう。斎藤陣営から金銭を受け取っていたPR会社の女性社長が監修者なら「買収」や「違法な寄付」の疑いが高まるからだ。そこで斎藤氏側は「SNS戦略を行ったのは女性社長ではなく斎藤陣営」と主張しているが、そこにはある大きな謎が立ちはだかっている。「9月29日のミーティング」だ。
同日に斎藤氏はPR会社を訪問、女性社長はその様子を「『#さいとう元知事がんばれ』大作戦を提案中」と投稿した。果たしてこの場で「女性社長が『SNS戦略を監修してあげる』と持ち掛け、斎藤氏がこれを了承した」というやり取りはあったのか。
斎藤氏の弁護士は会見でこれを否定したが、その説明を聞いて私は不思議に感じた。弁護士は女性社長から「SNS利用の話があった」ことは認めた上で、こう説明したのだ。
「斎藤氏自身も言っておりましたけれども、社長から説明を聞くまで斎藤氏が『SNSが何に当たるのか』『それがどういう利用の仕方があるのか』というのを皆目、理解されてなかったんだと思います。ですので(SNSの利用が)具体的に何を指すのかと言われても多分、認識されていなかったのかなと思います」
つまり斎藤氏側は「女性社長がSNS利用について何やら話をしていたが、斎藤氏は『皆目』理解できず、何を言っているのかよく分からなかった。だから、SNS戦略の合意もなかった」という主張をしたのだ。
しかし、本当に斎藤氏はSNS戦略を「『皆目』理解できない」人物なのか。「そんなことはない」と私は思う。なぜなら斎藤氏は昨年、SNSを巡る激しい争いを経験したからだ。その相手は泉房穂・前明石市長だった。
昨年9月、泉氏はXで明石市立図書館の跡地利用をめぐる県の対応が遅いと批判、そうした中で斎藤氏と現明石市長の電話会談が行われると、次のように投稿した。
「斎藤知事から明石市に本日、お詫びの電話があったとのこと。『県からの提案が遅れていて申し訳ない。明石市が検討していただけるなら、ありがたい』との趣旨だったようだ。マスコミの皆さん、よく確認のうえ、報道してくださいね。悪いのは、明石ではありません」
この投稿が斉藤氏の逆鱗に触れた。翌日の知事会見で斎藤氏は「明石市にお詫びをした事実はない」と否定。誤った内容がSNSを通じて拡散され「大変遺憾」と強調した。
斎藤氏による批判の後、明石市は泉氏に電話内容を漏らした「犯人探し」を開始。「市役所に盗聴器が仕掛けられていないか」を警備会社に調べてもらう事態にまで発展した。結局、この騒ぎは泉氏の謝罪などで収束したが、翌10月の会見で斎藤知事は自らの思いをぶつけた。
「少なくとも誤った内容がSNSを通じて、数十万人に拡散したということは大変恐ろしいことだと私自身も思っています」「これまで弁護士会などと連携してサポートする体制は実施していますが、それだけで本当に十分なのかということを、今回の事案を機に強く思いましたので、条例化に向けた検討を進めていくべきだと判断をしています」
斎藤知事が発していた「例えば、ガーシー議員の問題」
斎藤氏は自分に向けられた泉氏のX投稿に敏感に反応して「条例でSNSを抑止する」ことにまで踏み込む意向を示し、最後にはこう述べた。
「すごく弱い立場の人がSNS上で、例えば、店の経営などであらぬことを言われたり、間違った情報を拡散されたり、恐らく辛い状況に置かれているという状況が、例えば、ガーシー議員の問題などでもありました」
立花孝志氏が率いるNHK党(当時)から参院選に出馬・当選した「ガーシー」こと東谷義和氏を例にSNSの問題点を説いていた斎藤氏は、約1年後、立花氏のSNSなどに「後押し」されて知事再選を果たすことになった。
その斎藤氏が「SNS利用を理解できない」ということがあるのか。逆にSNSの功罪を知り尽くしているのではないか。そして、斎藤氏がSNSのプロである女性社長と会談した場で「SNS戦略の話し合いをしない」ということが、果たしてあるだろうか。
この「9月29日のミーティング」について、斎藤氏側は「具体的なやりとりは残っていない」として女性社長との会話の詳細を説明していない。しかし、約1時間に及んだというこのミーティングで2人が発した一言一句こそが、今回の公選法問題の行方を決めるのではないか。その全てが明かされることが、問題解明の第一歩だと思う。
□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。