「まさかリングに立つつもりじゃ…」恩師も猛反対 がん闘病のプロレスラー・西村修が挑む開頭手術から41日後の復帰戦

食道がん(扁平上皮がん)ステージ4闘病中のプロレスラーで東京・文京区議会議員の西村修が8日のFMWE神奈川・鶴見青果市場大会でがん告知を受けた後、2度目のプロレス復帰を果たす。前回8月の試合とは状況が一変。10月下旬に自宅で意識を失い救急搬送後に脳腫瘍を摘出する手術を受けており、わずか41日後の出場には恩師からも反対の声が上がる。西村を突き動かすものはいったい何なのか――。

決戦直前、行きつけの理髪店でひげを剃り上げた西村修【写真:ENCOUNT編集部】
決戦直前、行きつけの理髪店でひげを剃り上げた西村修【写真:ENCOUNT編集部】

消えないがん治療の副作用 満身創痍の体でリングへ

 食道がん(扁平上皮がん)ステージ4闘病中のプロレスラーで東京・文京区議会議員の西村修が8日のFMWE神奈川・鶴見青果市場大会でがん告知を受けた後、2度目のプロレス復帰を果たす。前回8月の試合とは状況が一変。10月下旬に自宅で意識を失い救急搬送後に脳腫瘍を摘出する手術を受けており、わずか41日後の出場には恩師からも反対の声が上がる。西村を突き動かすものはいったい何なのか――。(取材・文=水沼一夫)

 西村はメインイベントの6人タッグマッチで邪道・大仁田厚組と激突する。『ノーロープ有刺鉄線+ジャイアント電流爆破バット』という危険な試合形式で、どんなレスラーでも生還できる保証はない。

 西村にとっては、特別な意味を持つ試合だ。8月の『川崎伝説』以来3か月ぶりのリングとなるが、10月28日に開頭手術を受けている。約7時間半を要する大手術で、食道から転移した約4センチの腫瘍を摘出。さらに脳に4か所ある小さながんを放射線治療中で、置かれた状況は大きく変化した。

 これだけの手術を受けたのに、わずか41日後にリングに上がる。しかも、反則裁定なしの邪道のリングだ。パイプイスを振り上げての頭への殴打、机上パイルドライバーは大仁田の十八番。さらに特大電流爆破バットがアイテムとして使用を認められている。頭を狙われれば、致命傷になる可能性も高く、西村は一段と気を引き締めている。

「ナックルパート、ビンタだって急所に入ったら大変なこと。今回は凶器もありますからね。天井も低いから爆発の衝撃の音とかもすごいんですよ。すべて含めてチャレンジ、戦いです」

 無謀とも言える復帰戦には、反対の声が殺到した。

「息子はうれしがっていますけど、親や嫁もみんな反対です。『そんな試合出てる場合じゃないだろ。命を大切にしろ』というのが一番。高校3年間の担任からは、『試合だけはやめろよ。まさかリングに立つつもりじゃないだろうな』という厳しい声もあった。川崎は来てくれたけど、今回は来ないですね」

 西村の後援会ですら一枚岩ではなく、口には出さずとも周囲はみな、西村の身を案じていることが分かる。

 8月の試合では、万一に備えて、セコンドに新日本プロレスの三澤威トレーナー、リングサイドに主治医や看護師が待機したが、今回は誰もいない。

「基本、医者はストップですよね」

 何が起きても自己責任という空気は一層強くなっている。

気持ちは映画のロッキーだという【写真:ENCOUNT編集部】
気持ちは映画のロッキーだという【写真:ENCOUNT編集部】

「私の心の中でも51%は反対の気持ちがあるかもしれない」

 しかし、西村に「欠場」という選択はなかった。

「たまたまこないだ『ロッキー4』を見ました。ロッキー・バルボアと奥さんがけんかしちゃうわけですよ。アポロをぶっ殺したロシアの怪物に立ち向かうロッキーに対して、ロッキー陣営は反対するわけですよ」

 自らを孤立無援なロッキーの心境に例えると、さらにこう続けた。

「そもそも自分に負けてたらレスラーになれてない。そこに尽きますよ。スクワットを何千回もやらされて、24時間体制でしごきから雑用から息つく暇もないくらい。それを思えば、がんなんか屁でもないところがある。1日、2日……1週間休んでもがんが治るわけじゃない」

 体調は8月より悪化していることは認める。

「いいか悪いかと言ったらよくはないです。抗がん剤治療3クール目ぐらいまでは余裕こいてたところもあるけど、4クール目からガクンと来た。副作用から体調が元に戻らないまま、次のクールがスタートするようになった。なんとも言えない倦怠感。二日酔いみたいなのが取れない」

 直近の治療では脳にガンマナイフと呼ばれる放射線を計5回、食道やその他の転移箇所には27回もの放射線を照射する治療を終えた。頭部には手術の傷が残り、治療の副作用で髪の毛は抜け始めている。だが、西村はこんな状態でも心は折れず、試合に向けてトレーニングを続けてきた。

「私の心の中でも51%は反対の気持ちがあるかもしれない。だけど、正直な気持ちで言ったら51%なんですけど、51%にならないように抑えている。それはなぜか。頑張らないとという気持ちが上回らないと病気に勝てないから」

 闘病を通じて実感しているのは、自らを奮い立たせることの大切さ。病魔に打ち勝つために、リングという目標を持つことは、最大のモチベーションになっている。

「見栄を張っているわけじゃないですけど、どっか強がらないといけないし、そのためにコンディションを上げている。試合が入ってなかったらもっとコンディションが悪いですよ。こんなに毎日ジムに行っていない」

 試合を48時間後に控えた6日、西村は都内の理髪店で散髪。数十針を縫った傷の周囲もきれいに仕上げてもらい、臨戦態勢を整えた。

「心配してくださることは十分わかるんですけど、私の体のことは私に任せてほしい。私だって死を目指して12・8のリングに上がるわけではない。愛してやまない子どもと家族のため、私を応援してくださっている地元の皆様、プロレスファンのご期待に応えるためにリングに上がる。相手が誰であろうと、本当の敵は自分自身。いかに必死に戦うか、生きるか」と闘志を高ぶらせた。

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