俳優歴36年の鶴田真由、90年代はトレンディードラマで活躍も「代表作はまだない」と語るワケ
江口洋介主演のWOWOWオリジナルドラマ『連続ドラマW 誰かがこの町で』(全4話、初回無料放送)が8日にスタートする。新興住宅地を舞台に集団による忖度と同調圧力の恐怖を描いた社会派ミステリーで、カギを握る弁護士を演じるのが鶴田真由だ。鶴田が同ドラマ、36年の俳優キャリアを振り返った。
『連続ドラマW 誰かがこの町で』でカギを握る弁護士役
江口洋介主演のWOWOWオリジナルドラマ『連続ドラマW 誰かがこの町で』(全4話、初回無料放送)が8日にスタートする。新興住宅地を舞台に集団による忖度と同調圧力の恐怖を描いた社会派ミステリーで、カギを握る弁護士を演じるのが鶴田真由だ。鶴田が同ドラマ、36年の俳優キャリアを振り返った。(取材・文=平辻哲也)
同ドラマは2020年に『わたしが消える』で第66回江戸川乱歩賞を受賞した佐野広実氏の受賞後第1作目として話題を呼んだ社会派ミステリー。若い女性・麻希(蒔田彩珠)から「私の家族を探して欲しい」と依頼されたことから、弁護士事務所の調査員・真崎雄一(江口)が、かつて麻希たちが住んでいた新興住宅地を調査するうちに、23年前に町で起こった少年誘拐殺害事件の真実、失踪した麻希の家族の事件の秘密を知っていく……。
「台本をいただいた際、まずその構成が非常に巧みだと感じました。過去と現在が入り組む展開に引き込まれましたし、人間が同調していく恐ろしさや忖度が細やかに描かれており、読んでいて非常に面白かったです」
鶴田が演じるのは、元有力政治家を父に持つ優秀な弁護士、岩田喜久子。麻希の母とは大学時代の親友で、その後連絡がとれずにいることをずっと気にかけており、この調査をきっかけに、自身も、忖度と保身から隠蔽してしまった過去の問題に向き合っていく。
「喜久子は多くを背負いながらも、あるタイミングでそれと向き合う覚悟を決めます。その潔さや決断力に感銘を受けました。また、登場人物全員が何かしらを背負い、人生のある時点でそれに向き合わざるを得ないという普遍的なテーマが心に響きました。誰でも、100%きれいに生きているわけではなく、どこかにシミをつけて生きているところがあると思うんです。そこを見ないふりを続けるか、向き合うかによって、その後の人生が全く変わっていくと思うんです」
主演の江口とは同年代だが、これまであまり共演機会はなかったという。
「おそらく、江口さんが主演をされた『GOEMON』(2009年)という映画で本当に少しだけ共演した以来です。普段は軽やかなんですけど、役に入る時の集中力はすごいなと思いました。蒔田さんは、とても魅力的な空気をまとっていて、すっと芝居に入っていかれるので、すごい才能なんだと思います」
監督は『シティハンター』『ストロベリーナイト』『絶対零度』を手掛けた佐藤祐市氏が担当し、関東近郊で撮影した。
「内容は骨太で深いテーマを扱っていますが、監督が非常に明るい方で、現場には自然と安心感が生まれていました。『この人についていけば大丈夫だ』と感じさせてくれるような信頼感のある方で、そのおかげで集中して撮影に臨むことができました。完成した作品は、面白く、一気に見ました」
鶴田は1988年にテレビ東京の『あぶない少年II』で俳優デビュー。90年代はドラマ、映画で人気を集めた。36年のキャリアで転機になったのは何か。
「20代の終わり頃が大きな転機だったと思います。当時、世間的には一番多く出演している時期だったかもしれませんが、『芝居とは何だろう?』『表現とは何だろう?』と、内面的に深く考えさせられるタイミングがありました。それまで目標にしていた『次は月9に出たい』などの外向きの目標が叶ったときに、『本当に自分がやりたかったことは何だろう』と自分の内側を見つめ直す必要がありました」
これまで巡った国・地域は50以上「古代の息吹を感じられる場所が好き」
そんな悩んだ時期もあったが、俳優を辞めたいと思ったことは1度もなかったという。
「例えば、蜷川幸雄さん演出の舞台(『真情あふるる軽薄さ2001』)に出演させていただいた時は、『これが終わったら少し休みたい』と思いました。その舞台は初舞台で、準備期間も長く、集中力をかなり使う仕事だったので、終わってからゆっくりと自分に戻る時間が欲しかったのだと思います」
代表作にはドラマ『妹よ』『君と出逢ってから』『徳川慶喜』『お仕事です!』、映画『梟の城』『半落ち』があるが、本人の意識は少し違う。
「正直に言うと、いまだに『これが自分の代表作だという作品はない』と思っています。いくつも好きな作品はありますが、『これが自分を表す1本』というものにはまだ出会えていないと思っています」
これはさらなる高みを目指したいという気持ちの裏返しでもあるのだろう。俳優業にはどんな風に向き合っていくのか。
「女優は一生やっていくのだろうとは思っていますが、私の中では意欲が『ある』とも『ない』とも言い切れない部分があります。常に自分の人生や仕事を『流れ』に任せているところがあり、もちろん必要な努力はしますが、同時にタイミングや運命にも任せています。このバランスを大切にしながら進めることで、良い出会いや新しい経験に繋がると思っています」
昨今では、俳優業以外の活動も目立つ。紀行番組への出演、写真展の開催に、旅エッセイ『ニッポン西遊記 古事記編』『神社めぐりをしていたらエルサレムに立っていた』(共に幻冬舎)など執筆も手掛けている。これまで巡った国・地域はアフリカ、パタゴニアまで50以上に及ぶ。
「新しい街よりも、古代の息吹を感じられる場所が好きです。その国の歴史、文化に触れられるところがいいと思います。イランは歴史も長く、もう一度見てみたい国のひとつです」
今一番大事だと感じているのは、「物事をていねいに見つめ、きちんと向き合うこと」だ。
「若い頃は、流れるように過ぎる時間に乗ること、そこで瞬発力を出すことに精一杯でしたが、今はひとつひとつの経験を深く受け止めていきたいと感じています。私には、人生をどこか預けているところがあります。流れに身を任せる部分は変わりませんが、そこにていねいさを加えながら進んでいきたいです」とほほ笑んだ。
鶴田真由(つるた・まゆ) 神奈川県鎌倉市生まれ。1988年に俳優デビューし、ドラマ、映画、舞台、CMなど幅広く活躍。代表作に『妹よ』『君と出逢ってから』『梟の城』『半落ち』などがある。96年、『きけ、わだつみの声』で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。近年ではドラマ『らんまん』『自転しながら公転する』、映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』『日日是好日』など話題作に出演。また、旅番組やドキュメンタリー番組にも出演し、2008年にはアフリカ開発会議の親善大使も務めた。著書や写真集も多数出版し、近年は音楽家などとのコラボレーション活動やエッセイ執筆など多方面で活躍している。
スタイリスト:平井律子
ヘアメイク:伏屋陽子(ESPER)
「連続ドラマW 誰かがこの町で」
WOWOWにて、12月8日(日)午後10時よりスタート(全4話)
放送:毎週日曜午後10時~ ※第1話無料放送 【WOWOWプライム】【WOWOW4K】
配信:第1話放送・配信後、全話一挙配信 【WOWOWオンデマンド】
出演:江口洋介 蒔田彩珠
鶴田真由 宮川一朗太 尾美としのり 玄理 戸次重幸 本田博太郎 でんでん 大塚寧々
原作:佐野広実『誰かがこの町で』(講談社文庫)
監督:佐藤祐市 脚本:前川洋一 音楽:木村秀彬
企画・プロデュース:青木泰憲 プロデューサー:廣瀬眞子 水野綾子
制作協力:共同テレビジョン 製作著作:WOWOW
【第1話まるごと無料配信】連続ドラマW「誰かがこの町で」