「天才子役」と呼ばれた19歳・伊東蒼の現在地 仕事とプライベートの両立「1日24時間では足りない」

6歳で俳優デビューした伊東蒼が、7日より東京・IMM THEAERで上演される舞台『血の婚礼』(栗山民也演出)でヒロインを務める。現在19歳。舞台出演は2回目となるが、役者としてのキャリアはすでに14年目を迎え、これまで映画『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)など数々の作品で高い演技力を見せ、注目を集めている。今回翻訳劇が初めてといい、稽古に励む一方、「挑戦したいことがたくさんあります」と明かし、19歳ならではの等身大の日々を送る。素顔をのぞかせた伊東に、作品のことなどを聞いた。

インタビューに応じた伊東蒼【写真:Jumpei Yamada】
インタビューに応じた伊東蒼【写真:Jumpei Yamada】

スペインが舞台の『血の婚礼』でヒロイン

 6歳で俳優デビューした伊東蒼が、7日より東京・IMM THEAERで上演される舞台『血の婚礼』(栗山民也演出)でヒロインを務める。現在19歳。舞台出演は2回目となるが、役者としてのキャリアはすでに14年目を迎え、これまで映画『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)など数々の作品で高い演技力を見せ、注目を集めている。今回翻訳劇が初めてといい、稽古に励む一方、「挑戦したいことがたくさんあります」と明かし、19歳ならではの等身大の日々を送る。素顔をのぞかせた伊東に、作品のことなどを聞いた。(取材・文=大宮高史)

『血の婚礼』は、スペインを舞台にした情念うずまく戯曲で、原作はスペインの劇作家、フェデリコ・ガルシーア・ロルカが1933年に著した。演出は、日本演劇界を代表する演出家の一人、栗山氏が担当。伊東は結婚を前に、花婿一家の宿敵の家系で、元恋人のレオナルド(中山優馬)にも惹かれているという「花嫁」を演じる。

「起きてから寝るまで、ずっとこのお芝居のことを考えていて頭の中でセリフが回っています。翻訳劇は初めてだったので、イメージトレーニングをして稽古に臨みましたが、なかなか花嫁という人物が理解できなかったんです。彼女と私の距離が、近づいたり離れたりする感覚がありました」

 普段は「台本で予習をしつつも、『やってみないとわからないんだから、行くぞ!』と現場の感覚を大切に芝居を作っていきます」という役作りをしていたが、今作は事前にイメージを固めすぎてしまっていたそうだ。

「お芝居では、私はわりと早くに『役と仲良くなれる感覚』を味わえるんです。それが、今作は稽古が始まっても違和感が続いていました。セリフを読んでいても何となく実感がなくて……。『頭が凝り固まっていたのかも』と思って、寝る前のイメージトレーニングもやめて、稽古場で感じたことに素直にやってみたら、役が自分に近づいてくる感覚が得られたんです。肩の力を抜いてやってみるスタイルが、私には一番合うようですね」

 海外が舞台となる作品への出演も初めてという。栗山氏からは指針をもらった。

「栗山さんは、劇中の彼らがなぜそんな行動に出るのか、私たちが動機を考えるヒントをくださいます。この作品はスペインのアンダルシアの自然の中で、欲望に忠実に生きている人々の物語なので、都会暮らしでは味わえない荒々しさを見せていきます。演じる側も作品から大きなエネルギーを感じているので、劇場もそんな熱さに染めていきたいですね」

稽古で奮闘「全てを見抜かれている」【写真:Jumpei Yamada】
稽古で奮闘「全てを見抜かれている」【写真:Jumpei Yamada】

周囲は絶賛も「そんなにほめてもらえる経験もないので…」

 伊東は、子役時代を含め、すでに10年以上のキャリアになる。『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年、中野量太監督)では、宮沢りえが扮(ふん)した、1人で銭湯を切り盛りする女性のところにやってくる夫の連れ子を好演し、11歳で高崎映画祭 最優秀新人女優賞を受賞。翌17年には、安藤サクラとダブル主演した映画『島々清しゃ(しまじまかいしゃ)』(新藤風監督)で繊細な耳を持つために変わり者扱いされてしまう小学生を演じ、毎日映画コンクール スポニチグランプリ新人賞を受賞した。当時について、「同じ事務所の2人の先輩、安藤さんや山田真歩さんと一緒にお芝居ができて『かっこいいな』と思える大人の方々に会えました」と振り返り、役者としてもいい経験になったようだ。

 その後も俳優業と学業を両立させてきたが、最近は興味、関心ごとが増えたようで、「どんどんアウトドアになっていきます。昔からお芝居以外にもやりたいことが多すぎて、1日24時間では足りないくらいです(笑)」と打ち明けた。「資格を取ってみようと勉強したり、ダンスを始めてみたり。植物に囲まれたくて、ふらっと遊びに行くようにもなりました。いろんな分野のことをやってみると、お芝居でその時の感覚が思い出せる瞬間があるんですね。日常で経験したことが役者業につながることがあるから、このお仕事がいっそう好きになれます」

 そう“演技の引き出し”を増やす日々を楽しそうに語った。これまで、その高い演技力で天才子役などと評価され、22年の映画『さがす』(片山慎三監督)で共演した佐藤二朗からも「怪物」と評されたが、そういった評判には「そんなにほめてもらえる経験もないので……私にもそのように言ってくださることがあるんだなと思うと、ちょっぴりうれしいです」と照れながらも素直に喜んだ。

「監督や演出家の方々には毎回『全てを見抜かれているな』と思います。栗山さんにも、セリフに感情が乗っていないとすぐ悟られてしまいます」と現在稽古で奮闘している様子。今後について聞くと、「ホラーが好きなのでホラー映画にもたくさん出てみたい」と希望を述べつつ、「スペインの文化を勉強したので、スペイン料理も食べに行きたいです」とキュートな笑顔を見せた。

 日常すべてに目を輝かせる素直さがあるからこそ、人を惹きつける役者で居続ける。

 伊東蒼(いとう・あおい)2005年9月16日、大阪府出身。11年、TBS系ドラマスペシャル『アントキノイノチ~プロローグ~天国への引越し屋』でデビュー。映画『湯を沸かすほどの熱い愛』で第31回高崎映画祭最優秀新人女優賞を受賞。その後も21年のNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』、23年の大河ドラマ『どうする家康』などに出演。23年には主演映画『世界の終わりから』が公開され、25年公開予定の映画『大きな玉ねぎの下で』、『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』にも出演する。23年『明るい夜に出かけて』で初舞台を踏んだ。『血の婚礼』の東京公演は東京ドームシティ内のIMM THEAERで12月7日~18日、兵庫公演は兵庫県立芸術文化センター阪急 中ホールで12月28日~29日。

ヘアメイク:伏屋陽子(ESPER)
スタイリスト:伊藤信子

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