スーパー侵入のクマ「食べ物目当てではない」 一体どこから? 50年来の研究者が背景を解説
秋田市内のスーパーに侵入し、3日間にわたり立てこもったクマの報道が波紋を呼んでいる。クマは侵入から2日後の今月2日に捕獲・駆除されたが、現場は周囲に身を隠す場所のない海沿いの市街地で、侵入経路の謎は深まるばかり。また、捕獲まで3日もの時間を要した一連の対応にも疑問の声が上がっている。現場では一体何が起こっていたのか。県の職員として長年秋田のクマ対策に従事、以来50年余りにわたってツキノワグマの調査を続ける日本ツキノワグマ研究所の米田一彦所長に、一連の騒動の見解を聞いた。
県職員として長年秋田のクマ対策に従事、以来50年余りにわたって生態調査を続ける
秋田市内のスーパーに侵入し、3日間にわたり立てこもったクマの報道が波紋を呼んでいる。クマは侵入から2日後の今月2日に捕獲・駆除されたが、現場は周囲に身を隠す場所のない海沿いの市街地で、侵入経路の謎は深まるばかり。また、捕獲まで3日もの時間を要した一連の対応にも疑問の声が上がっている。現場では一体何が起こっていたのか。県の職員として長年秋田のクマ対策に従事、以来50年余りにわたってツキノワグマの調査を続ける日本ツキノワグマ研究所の米田一彦所長に、一連の騒動の見解を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
一連の報道によると、先月30日の午前6時過ぎ、秋田市土崎港近くのスーパー「いとく土崎みなと店」の店舗内に体長約1メートルのツキノワグマが侵入。従業員の男性が頭や顔をかまれたり、ひっかかれるなどして軽傷を負った。クマはその後、3日間にわたって店内に立てこもり、今月2日になって箱わなで捕獲・駆除された。
現場となったスーパー「いとく土崎みなと店」は、秋田駅から約8キロの距離に位置し、道の駅やランドマークの「ポートタワー セリオン」がある土崎港からは徒歩5分ほどの場所。店舗のすぐ近隣には秋田県警臨港警察署があり、周辺はJR土崎駅やフェリーの発着所、飲食店やホテルなどが立ち並ぶ市街地だ。クマが身を隠せそうな林などはなく、スーパーまでの侵入経路に関する疑問の声も上がっている。また、捕獲から一夜明けた3日になって、現場周辺では別のクマの目撃情報も。近隣住民の不安は今も解消されていない。
一体クマはどこから来たのか。秋田県立鳥獣保護センターや秋田県生活環境部自然保護課で長年県内のクマ対策に従事、その後NPO法人「日本ツキノワグマ研究所」を設立し東北から西日本まで全国各地でツキノワグマの生態調査を続けている米田一彦所長は、今回のクマが半年以上も前から現場周辺に居ついていた可能性を指摘する。
「昨年はドングリの大凶作でクマの被害が続出しましたが、今回の問題は全くの別物。今年は全国的にドングリが豊作で、捕獲されたクマもかなり太っていた。お腹を空かせて出てきたわけではなく、おそらく昨年の晩秋から人里に定着し、そのまま越冬した個体でしょう。クマの冬眠は必ずしも山奥で行われるわけではありません。現場から6キロほどのところにある県立公園には、もう常時クマが居ついてしまっています。今回のクマは、昨年から今夏にかけて県立公園や海岸沿いの防砂林を転々とし、ここ数日目撃情報が寄せられるなかで、人に追われる形でスーパーに逃げ込んだ。最初から食べ物が目当てで侵入したわけではないというのが私の見立てです」
今回、捕獲や駆除までになぜこれだけの時間がかかってしまったのか。
「クマに慣れていない警察の主導となったことが、対応が遅れた一番の要因でしょう。はちみつを塗った箱わなを設置したようですが、クマの一番の好物はドングリやはちみつよりも肉。自然界で手に入りやすく栄養が豊富なのはドングリですが、並べて与えれば必ず肉から口にします。周りに肉がある環境でははちみつで捕らえることは難しいでしょう。暗いところに潜り込む習性があるので、例えば夜間に電気系統を操作し、捕獲場所に誘導して吹き矢で麻酔をかけるなどの方法が有効だった。あくまで箱わなにこだわったことで、捕獲まで時間がかかってしまった」
一方、米田所長は根本的な解決策として、市街地での発砲要件緩和の必要性も口にする。
「クマの有害駆除は鳥獣保護法の範ちゅうですが、そもそも今回のように市街地、ましてや屋内では銃の発砲はできません。鳥獣保護法より優先される警職法のもと、警察から緊急事態として発砲命令が出されなければライフルも麻酔銃も使えませんが、今回のようなケースは想定外で、今のマニュアルでは対応しきれない。国は早ければ来年にも、鳥獣保護法を改正し、住宅地での猟銃使用を条件つきで緩和する環境整備を進めています。私は来年、昨年以上の大出没が起こると予想している。一刻も早い法整備が急務です」
年々深刻化するクマ被害。市街地へのクマの出没が当たり前となる前に、然るべき対策が求められている。