【おむすび】作中登場“おむすび”へのこだわり 一辺6cm、海苔がない理由…料理指導担当者が告白
昔からNHKのドラマに登場する料理(消え物)は出演者の間で「とてもおいしい」と評判だ。撮影が終わっても食べ続けた話もよく聞く。俳優・橋本環奈が主人公・米田結を演じるNHK連続テレビ小説『おむすび』(月~土曜午前8時)は食べ物をタイトルに据えた作品。たびたび劇中に登場するおむすびも本当においしそうだ。『おむすび』で料理指導を担当する広里貴子さんに劇中に登場するおむすびへの思いやおいしいおむすびを作る秘けつ、こだわりを聞いた。
広里貴子さんがおいしいおむすびを作るコツも紹介
昔からNHKのドラマに登場する料理(消え物)は出演者の間で「とてもおいしい」と評判だ。撮影が終わっても食べ続けた話もよく聞く。俳優・橋本環奈が主人公・米田結を演じるNHK連続テレビ小説『おむすび』(月~土曜午前8時)は食べ物をタイトルに据えた作品。たびたび劇中に登場するおむすびも本当においしそうだ。『おむすび』で料理指導を担当する広里貴子さんに劇中に登場するおむすびへの思いやおいしいおむすびを作る秘けつ、こだわりを聞いた。(取材・文=中野由喜)
広里さんはこれまで多くの作品で料理指導に携わってきたが食べ物をタイトルにした作品に関わる思いは格別かと思うが。
「今回の作品は栄養士さんがドラマに登場する作品なので普通においしいとかきれいにというだけでは済まされないと思いました。前回携わった『ブギウギ』のような時代物とは一味違う部分をこの作品で出せたらと、スタッフの管理栄養士さんたちと協力し、チームで臨んでいます。おむすびを通じて握る人の思いや味が表現できたらうれしいなと思っています」
並々ならぬ意気込みが伝わる。劇中に登場するおむすびにこめる思いも尋ねた。
「被災地でつらい時に食べるおむすび、楽しい宴会で食べるおむすびと、場面ごとでおむすびは違います。この作品では最初に1つ約100グラムの大きさと決めました。その中でどんな表現ができるかと常々考えています。最初に登場するのが結の祖母・佳代のおむすび。この作品の中ではキーになってくると思い、佳代さんのおむすびはどういうおむすびかとクランクイン前からずっと考えていました」
そもそもおむすびの種類は誰がどう決めているのか。
「最初に結が書道部の先輩から楽しいことを思い浮かべながら書いてと言われ、思い浮かべたのがサケのおむすびと言うシーンがありました。その時、結がつらい時に助けてくれたのはサケのおむすびだったのではと考えました。だから結たちが被災して糸島に来たとき祖母・佳代が握ってくれた最初のおむすびはサケにしました。佳代がおいしい物を食べたら嫌なことも忘れられると言って、むすぶおにぎり。シーンごとにどんなおむすびにしようかと考えています。この場面は塩むすび、この場面はサケにしようかとか考え、監督にプレゼンして決めています。サケのおむすびは結が元気になるための助けとなる場面で、かしわめしのおむすびはおめでたい時、塩むすびは常使いです。米田家の食卓はおかずが多く、おかずの邪魔をしない塩むすびにしています」
状況によっておむすびの種類を変えるこだわり。形はどうだろう。佳代のおにぎりは三角形だ。
「舞台の西日本によくある俵型にとも思いましたが、作品はコンビニで三角形のおにぎりが売られている時代の物語ですので、三角形にしています。ただ温かみを持たせたいので、今ふうな角張った三角形ではなく、丸みのある三角形にしておばあちゃんの温かな手の温もり、愛情を感じられるようなおむすびにしています」
1個100グラムにした理由はなんだろう。
「1個100グラムだと1辺が約6センチのおにぎりになります。女の子が手にした時にきれいに見える大きさ。1個だけでなくもう1個食べ進められそうな大きさかなと思い、監督さんたちと相談して決めました」
のりのおむすびが登場しない。
「農家の米田家では野菜がたくさん登場します。そうした時、野菜のハッキリした美しい色を目立つようにして、おむすびが悪目立ちしないようにするためです。基本的には白ベースの塩むすびで、宴会の時だけ郷土料理のかしわめしのおむすびにしました」
劇中のおむすびはつやつやと輝いて見える。何か工夫があるのだろうか。
「ご飯の温度が60~70度に下がるまでにむすんでいます。それより温度が下がるとツヤが消えてしまい、温かみのあるおむすびになりません。炊き立てをかき混ぜていると間もなく60~70度になります。60~70度に下がるまでにむすぶと粒がしっかり分かる状態をある程度の時間、維持できるんです。粒がはっきり見えると照明の光でツヤがあるように見えます。昔は炊き立ての熱いうちがいいと言われていましたが、今は60~70度くらいまでなら米が変化しないと言われており、その温度に下がるまでにむすんでしまいます」
おいしいおむすびの作り方も尋ねた。まずご飯の炊き方から聞いた。
「普段は一升炊きのお釜を使っていますが、一升は炊かずに2、3割少なくして、7合か8合炊いていることが多いです。フルに炊こうとすると下の方の米が重みでつぶれてしまうかもしれないので用心しています。大体キャパの7、8割までならおいしく炊けると思います。設備の都合でNHKでは電気炊飯器を使っていますが、結構、いい炊飯器を使っています(笑)。つやとふっくらさが違います」
握り方はどうだろう。ふっくらするように握ると聞いたことがあるがどんな感覚で握るのか。
「握る際、ご飯に手の力はほぼ伝わっていないと思います。ご飯を両手の手のひらの中で回転させるようにして、ご飯が手の平にあたる時の力加減で形作られていくイメージです。手で握る感覚ではなく、ご飯が手のひらにあたる感覚。私、小さい頃、お茶碗を2つ重ね合わせ、中にご飯を入れてコロコロとさせておにぎりを作っていましたがそんな感覚です」
混ぜご飯のおむすびの作り方にも注意ポイントがあるという。
「劇中のかしわめしは、お米を、具を煮た際の煮汁で炊いて、炊きあがってから炊飯器に具を入れて混ぜました。そうすると具のニンジンとか柔らかい野菜が型崩れしません。崩れてしまうとおむすびにする時にきれいに見えません」
主演の橋本もいつも「おいしい」と言って喜んで食べてくれるという。おいしいおむすびの舞台裏を知ると、ドラマが一味違って見える視聴者も出てくるかもしれない。さらにおむすびを食べたくなる人も……。