斎藤元彦知事は公選法違反「疑惑」を晴らせるのか 弁護士が指摘「考えられる3つの弁明」と問題点

斎藤元彦知事が再選された兵庫県知事選挙で、県内のPR会社の女性社長が20日、「斎藤陣営で広報全般を任せていただいていた立場」と投稿し、波紋を呼んでいる。自らがSNS戦略を企画立案した内幕を明かしたことで、「斎藤知事側が報酬を払っていたら公職選挙法違反になるのではないか」との指摘が噴出。その状況下、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が、斎藤知事側から出る可能性がある「弁明」について考察した。

西脇亨輔弁護士
西脇亨輔弁護士

元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔氏

 斎藤元彦知事が再選された兵庫県知事選挙で、県内のPR会社の女性社長が20日、「斎藤陣営で広報全般を任せていただいていた立場」と投稿し、波紋を呼んでいる。自らがSNS戦略を企画立案した内幕を明かしたことで、「斎藤知事側が報酬を払っていたら公職選挙法違反になるのではないか」との指摘が噴出。その状況下、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が、斎藤知事側から出る可能性がある「弁明」について考察した。

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 私は弁護士という職業柄、ニュースを見ると「この人を弁護するとしたらどうしよう」と考えるクセがある。しかし、今回の斎藤元彦知事を巡る報道を見て思った。

「考えられるどの弁明をしてみても、苦しいかもしれない」

 PR会社女性社長の投稿に端を発したSNS選挙での「買収」疑惑。事実関係にはっきりしない点も多いが、投稿が真実だとすると大きな問題となり得る。公職選挙法では、有権者にお金を払って一票を買うのが「買収」なのはもちろんだが、それだけではない。選挙運動のスタッフについては「無償のボランティア」が原則。事務員や選挙カーの車上運動員(いわゆる「ウグイス嬢」)など法律が決めた「作業」の従事者以外には、報酬を支払うと「買収罪」となり、候補者も「当選無効」となるおそれがある。

 そして今回、斎藤氏側もPR会社に一定の金銭を払ったこと自体は認めたと報じられている。それでも「当選無効」とならないために、斉藤氏側が展開する可能性がある「弁明」は、3つあると私は思っている。

 1つ目に考えられるのは「PR会社に頼んだのはSNS関係の『単純作業』だけ」という「弁明」だ。

 ネットに関する業務でも、渡された原稿をホームページにアップするなどの「単純作業」なら手間賃を支払っても違法ではない。その一方、業者自らアイデアを出して「企画立案」する業務には金を払ってはいけない。ネット選挙が解禁された2013年に各党議員が集まって作ったインターネット選挙運動の「ガイドライン」には、「主体的・裁量的に選挙運動の企画立案」をした業者に報酬を払うと「買収となる恐れが高いものと考えられる」と明記されている。また、「ガイドライン」は「業者の下書きを最終的には候補者がチェックした」場合でも、業者がアイデアを出している以上、買収の可能性が高いと指摘している。

 では、今回の女性社長はどうだったか。投稿記事では自分がSNS戦略の「運用戦略立案」を担当したとし、選挙戦で使われたXのハッシュタグ「#さいとう元知事がんばれ」の発案についてこう明かしていた。

「『#さいとう元彦がんばれ』ではなく、あえて『知事』を入れることで、『さいとうさん=知事』という視覚的な印象づけを狙いました」

 「これはどう考えても『単純作業』ではなく『企画立案』ではないか」と考えたら、「PR会社には単純作業を頼んだだけ」という弁明は通用しなくなる。

 そこで2つ目の「弁明」として考えられるのは「PR会社に支払ったのはSNS戦略の代金ではない」というものだ。現に斎藤知事側は「依頼したのはポスター制作などだ」と説明したという。

 しかし、もしそうならPR会社はネット戦略立案という「本来ならお金を取るサービスを斎藤氏に無料で提供した」ことになる。これと似た「本来は有料のネット広告を業者が無料で提供した」という場合、利益供与として「寄付」となり、企業が行うと「企業献金」扱いされている。そして、我が国では「企業献金」が許されるのは「政党等に対するもの」だけ。政党ではない候補者などに対して行うと「政治資金規正法違反」だ。

 とすると「SNS戦略サービス」という本来有料のサービスをPR会社が斎藤氏という候補者にタダで提供したら、「禁じられた企業献金」として違法のおそれが出る。だから、この2つ目の弁明も「苦しい」と言える。

女性社長は斎藤知事のもと、華やかな地位

 すると、最後に3つ目の「弁明」として残るのは「女性社長はウソつきだ」という主張。だが、投稿内容は詳しくて具体的だ。また、女性社長には「ウソ」をついて斎藤知事を陥れる動機もなさそうで、逆に斎藤知事のもと、兵庫県で華やかな地位についている。投稿記事の自己紹介欄にはこう書かれていた。

2021年より兵庫県地方創生戦略委員

2022年より兵庫県eスポーツ検討会委員

2023年より兵庫県空飛ぶクルマ会議検討委員

 さらに「これまでに150以上の行政・企業・団体の広報・PRを手掛けている」という人物がわざわざ「ウソ」を公表するだろうか。

 こうして考えていくと、斎藤知事に考えられる3つの「弁明」は、どれも通用するのかどうか疑問が出てくる。

 公職選挙法の買収罪は3年以下の懲役・禁錮又は50万円以下の罰金の刑に処せられ、場合によっては「連座制」によって候補者本人の「当選無効」にもつながる重大な罪だ。事実の解明をあいまいにすることは許されない。真相は何なのか。斎藤知事やPR会社から今後どのような「弁明」が出てくるのか、私は注目し続けたい。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

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