きっかけは『科捜研の女』…17年ぶり『レ・ミゼラブル』復帰の石井一彰「役を意識して生活していた」

俳優の石井一彰が、17年ぶりにミュージカル『レ・ミゼラブル』(12月16日~来年6月16日、東京・帝国劇場ほか)に出演する。デビュー作となった2007年の同作では、アンサンブルとして出演し、今回はジャベール役を演じる。キャリアを重ねてきた40歳の石井がどのような思いで作品に向き合っているのか、ここまでの歩みも含めて話を聞いた。

ミュージカル『レ・ミゼラブル』に17年ぶり復帰出演の思いを語った石井一彰【写真:ENCOUNT編集部】
ミュージカル『レ・ミゼラブル』に17年ぶり復帰出演の思いを語った石井一彰【写真:ENCOUNT編集部】

石井一彰がジャベール役 12月16日から7か月上演

 俳優の石井一彰が、17年ぶりにミュージカル『レ・ミゼラブル』(12月16日~来年6月16日、東京・帝国劇場ほか)に出演する。デビュー作となった2007年の同作では、アンサンブルとして出演し、今回はジャベール役を演じる。キャリアを重ねてきた40歳の石井がどのような思いで作品に向き合っているのか、ここまでの歩みも含めて話を聞いた。(取材・文=ふくだりょうこ)

 デビューを飾ったミュージカル作に17年ぶり出演。関係者からは「おかえり」と迎えられたという。

「当時の頃からのスタッフやプロデューサーの方に『おかえり』だとか、『おめでとう』『感慨深いね』と言っていただきました。『それで、これはすごく特別なことなんだ』と実感し、あらためて気を引き締めて大事に取り組もうと思いました」

 石井演じるジャベールは、刑事で「主人公ジャン・バルジャンの宿敵」とも言える役どころだ。「正義」というものがジャベールの軸となってくるが、石井の中にはジャベールにつながるものがあった。それは、15年から出演しているテレビ朝日系連続ドラマ『科捜研の女』だ。

「田崎竜太監督が『科捜研の女』で撮っていらっしゃったシーズンがあって、ある時、打ち上げの帰りにタクシーで一緒に帰るタイミングがあったんです。その中で『僕自身が今後どうしていくのか』という話をしてたんです。監督は僕がミュージカルをやっていることも知っていたので、そこで『レ・ミゼラブル』の話も出たんです。『ジャベールって刑事だし、もしかしたら、そこにつながってくるかもしれないね』って」

 田崎監督は「やってみろ」などと言ったわけではなかったが、それが石井にとっての気づきになった。

「当時33歳ぐらいでした。ここから10年、いろんなことを準備していったらジャベールという役に挑戦できるかもしれない。その時に目標ができたんです。『この何年間はジャベールという役を意識して生活していた』と言ってもいいかもしれません」

 そして、ジャベール役を演じることになり、「正義」について考えたという。だが、石井は「正義は別に優しいものとは限らない」と言った。

「もちろん、法律は守らなければならないんですけど、そこに人の倫理観がある。人のための法律じゃないですか。人が幸福に生活するための法律であって、『人を縛り付けるための法律ではない』と僕は思っています。ジャベールとは考え方が少し違うんですが、だからこそ演じる面白さがあります。『もしかしたら、自分にしか演じられないジャベールがあるのかな』と思いながら、日々を過ごしています」

 今年で41歳。23歳で初舞台を踏み、その後、映像作品に出演した。「いろんな血肉をつけて、『もう一度舞台に戻りたい』という漠然とした人生設計はありました」と言うが、まさにその思いを叶えるように、『レ・ミゼラブル』に再出演する。

「振り返ると、『一段、一段上ってきた』という感じですね。その時々によって悩みや壁がありましたけど、今になって思うのは『その壁があってよかった』『ああいうふうに悩んでよかった』ということです。成功よりうまくいかなかったことの方が記憶に残っていて、それがあったから、いろんなことを考えてやってきてはいます」

「そんな偉そうなものではないけれど」とほほ笑む石井に、「印象的だった壁」について聞いてみると、熟考した後に出てきたのは23歳で出演した『レ・ミゼラブル』だった。

「右も左もわからなくて、本当に大変でしたね。毎日、必死すぎてあまり記憶にないんですよ。でも、その中で駒田一さんとか、先輩方がいろいろとアドバイスをしてくださったのは印象に残っています。『あの作品に出演させてもらって今があるな』と思いますし、『だからこそ、今こうして戻ってこられたのかな』と。当時、お世話になった先輩方やスタッフさん、一緒に頑張った仲間たちもいるので、そういう人たちに成長した姿を見せて、『作品の一部として演じられたら』と思います」

これから挑戦したいことも明かした【写真:ENCOUNT編集部】
これから挑戦したいことも明かした【写真:ENCOUNT編集部】

興味を持ち始めた体のケア「鍼で喉の調子がいい」

 開幕まで約1か月。石井は稽古や他の仕事で多忙を極めている状況だが、オフの過ごし方を聞くと途端に口が重くなった。「趣味……趣味……本当にないんですよね」とつぶやき、しばらく困った表情で思案した。ひねり出した回答は「車の運転は好きです」。だが、その後に苦笑いを浮かべた。

「いや~、でも、『本当に趣味を見つけた方がいいよ』って共演者の方にも言われるんです。『話が面白くない、話が広がっていかないから』って(笑)」

 ここからあれこれと挙げてくれたが、にわかに迷走した。

「映画見たり、服も好きなので、古着屋さんに行ったり。でも、アクティブというよりは歩いているだけです。キャンプもキツいですね。蚊に刺されたくないし、太陽もあんまり浴びたくないし……。一時期、サウナにハマっていましたけど、『仕事先のホテルにサウナがあったら行く』くらいで、わざわざ探してまでは行かないですね。こんなに趣味がないのはキツいですよね(笑)」

 そんな中で、最近、興味を持つようになったのは体のケア。実はこれまでは、ケアを気にかけたことはなかったという。

「最近になって、マッサージのトレーナーさんが入る現場があって受けたんですけど、全然違ったんですよ。鍼(はり)も初めてやってみたら、喉もすごく調子が良くて。みなさん、メンテナンスデーとか設けていらっしゃいますけど、『そういうことだったのか』と納得しました。『重要なことだったんだな』と。今は少し体を大きくしようと思って、トレーニングをやったりはしています」

 そんな石井が、これから挑戦したいことを明かした。

「ずっと硬い役をやっているので、ちょっとシュッとしているイメージがあるんですけど、その殻を壊していきたいです。自分の内面にあるもっと汚いものとか、見た目もですけど、『そういうところを崩していきたいな』と思います」

 不惑の40歳。だが、石井は迷いながらも、守らず、自分の殻を破っていく覚悟でいる。

□石井一彰(いしい・かずあき) 1984年2月29日、東京都生まれ。学習院大経済学部経営学科卒。2006年に創設の東宝ミュージカルアカデミー第一期生。07年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』でデビュー。その後、舞台を中心に活動し、『ミス・サイゴン』『太平洋序曲』『ロミオ&ジュリエット』などに出演。映像作品では、テレビ朝日系連続ドラマ『科捜研の女』にシーズン15(15年10月~16年3月)からレギュラー出演。179センチ。血液型A。

※田崎竜太監督の「崎」の正式表記はたつさき

【公演概要】
ミュージカル『レ・ミゼラブル』

(プレビュー公演)24年12月16日(月)~12月19日(木) 東京・帝国劇場
24年12月20日(金)~25年2月7日(金) 東京・帝国劇場
25年3月2日(日)~3月28日(金) 大阪・梅田芸術劇場
25年4月6日(日)~4月30日(水) 福岡・博多座
25年5月9日(金)~5月15日(木) 長野・まつもと市民芸術館
25年5月25日(日)~6月2日(月) 北海道・札幌文化芸術劇場hitaru
25年6月12日(木)~6月16日(月) 群馬・高崎芸術劇場

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