ヒット前は貯金9000円 『カメ止め』の上田慎一郎監督、最新作で人気俳優と初タッグに7年かかったワケ

『カメラを止めるな!』(2017年)の上田慎一郎監督(40)が新作映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(11月22日より新宿ピカデリーほか全国公開中)で、プロの人気俳優とタッグを組んだ。本作は、内野聖陽、岡田将生を始め豪華キャストが参加し、監督にとって新たな挑戦の場となった。

新作は新たな挑戦の場となった【写真:ENCOUNT編集部】
新作は新たな挑戦の場となった【写真:ENCOUNT編集部】

撮影期間にコロナ感染、リモート演出で対応

『カメラを止めるな!』(2017年)の上田慎一郎監督(40)が新作映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(11月22日より新宿ピカデリーほか全国公開中)で、プロの人気俳優とタッグを組んだ。本作は、内野聖陽、岡田将生を始め豪華キャストが参加し、監督にとって新たな挑戦の場となった。(取材・文=平辻哲也)

 制作費300万円の低予算映画から口コミ、SNSを通じて評判が広がり、全国300館以上で公開され、興収31億円以上を稼いだ『カメ止め』から7年。これまでインディーズ出身の俳優たちと映画を作ってきた上田監督が、初めてプロの人気俳優とタッグを組んだ。本作は、平凡な公務員(内野聖陽)が天才詐欺師(岡田将生)たちと協力して脱税王(小澤征悦)から10億円を奪い取るべく奮闘する痛快エンタメだ。

「ずっとインディーズ映画をやっていくと決めていたわけではないです」と上田監督は語る。

「『カメ止め』以降、ありがたいことに、いろんなオファーをいただきましたが、『脚本・キャストも決まっていて監督してください』というのは、自分のパフォーマンスが最大に出せる映画ではないと断りました。もう1つはオリジナルを一緒に開発しましょうというオファーが多いのですが、オリジナルは最後まで到達するまで難易度が高く、開発に時間かかるんです」

 実際、本作も公開まで6年の歳月がかかっている。2018年に『カメ止め』の試写を見たプロデューサーから声をかけられたのだ。原作は、韓国ドラマ『元カレは天才詐欺師~38師機動隊~』(2016年)。オリジナルではないが、全16話のドラマを映画としてまとめつつ、オリジナル要素も多く取り入れている。

「上田慎一郎らしさを出す上で、脚本は非常に重要だと感じています。ドラマ版の設定は同じですが、展開やキャラクターは結構変わっています。1度、クランクインしかけたこともあったのですが、コロナが再拡大して、1年以上延期になってしまい、脚本は14稿まで重ねました」

 これまではワークショップなどを通じて、インデペンデントの俳優と作り上げてきた。プロの俳優たちと作り上げる現場は違ったのか。

「違いましたね。基本的には今までの映画は、当て書きなんです。その人が無理なく演じられるようになっているのですが、今回は先に脚本があって、そこにキャスティングしていくわけです。これまでは技術的なことを言うことが多かったのですが、プロの俳優さんは技術がそもそも高いので、言うべきことが減ったというのもあります。むしろ、アイデアをどんどん出してくれます。これ自体はいいことで、ライブ感も出てくるのですが、短い期間でまとめるのは大変でした」

作品に手応えを感じている【写真:ENCOUNT編集部】
作品に手応えを感じている【写真:ENCOUNT編集部】

内野聖陽は「妥協しない」、岡田将生は「誠実」

 メインキャストの内野聖陽と岡田将生の魅力は何か。

「内野さんは妥協しない方です。演じるということに誠実な役者さんという印象でしたが、実際もそのまま。その一方で、柔軟でもあるんです。今回の映画は、エンターテイメントですし、ジャンル映画でもあるから、映画のウソとして、こういうシーンにしようとも言ってくれる。そのバランス感覚が素晴らしい。岡田さんも誠実な方でした。お2人とも、納得しないとできないぞっていう真摯な姿勢でやってくれました」

 撮影の中盤には上田監督がコロナに感染してしまい、数日間リモート演出をしなければいけないというハプニングもあった。

「実は7月20日から7月末までドラマ版を撮って、8月1日から8月末まで映画版を撮るというスケジュールだったんです。それが8月10日ぐらいにコロナになってしまいました。本当に疲れ切って、免疫力も下がっていたんだと思います。コロナになったのは僕だけでしたから。スケジュール的に止められないので、『リモート演出いけますか』と言われたんです」

 まさに、「カメラを止めるな!」状態だった。上田監督は自宅で隔離生活を送った上で、iPad2台を駆使して、リモート演出した。だが、そこで得られたものは大きかったという。

「今まではカメラの前に立って演出することが多く、美術セットの位置を直したりするので、スタッフからは『監督がそんなことをやらなくていいですよ』と言われたりしました(笑)。以降は、俯瞰して見ることができたと思います」

 こうした苦労を重ねて完成した作品には手応えも感じている。

「試写会後に握手を求めてきてくれたり、なかなか会場から帰らない方もいて、少し安心しています。僕はハリウッド映画が好きで、『スティング』や『オーシャンズ11』などのテーストが好きで、日本映画っぽくない感じになったかな、と。それが映画ファンにどう届くのかはドキドキしていますが……」

 上田監督はインデペンデント映画界の星と言えるだろう。『カメ止め』の前と後は、どう生活は変化したのだろうか。

「生活のクオリティーはだいぶ変わりました。『カメ止め』が公開された頃は貯金が9000円しかなく、妻(映画監督のふくだみゆき)とは『どうやって生きるのよ』と話したりしていました。その時は都心だと家賃が高いので、府中に住んでいましたが、今はもっと都心の方に住んでいます。ただ、僕は今、自分の会社の社員なんで、どれだけ頑張っても、給料は変わらないんですけどね(笑)」

 今後については、オリジナルを中心にアクション、SFといったエンタメで勝負したいという。

「今、書いているのは『日本沈没』のようなリアルシュミレーションSFで、プロの俳優さんにお願いするものになると思います。一方、インディーズの人たちを引き上げていきたい気持ちもあるので、両方やっていきたいです」

 上田監督はインディーズ映画界にも目を配らせながら、さらなる高みを目指す。

□上田慎一郎(うえだ・しんいちろう)1984年4月7日、滋賀県出まれ。2009年に映画製作団体を結成。10本以上を監督し、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得する。18年に初の劇場用長編『カメラを止めるな!』が大ヒットを記録。主な作品に『イソップの思うツボ』(共同監督作)、『スペシャルアクターズ』(19年)、『100日間生きたワニ』(21年)、『DIVOC-12』(21年)、『ポプラン』(22年)など。

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