藤原季節「自分じゃだめなのか」 約2年ぶりの映画出演で抜け出した葛藤の日々「何が起こるか分からない」
俳優の藤原季節が映画『あるいは、ユートピア』で、秘密を抱える小説家・牧雄一郎役で主演を務めた。約2年ぶりとなった映画出演で、どんな気付きや苦労を経験していったのだろうか。
映画『あるいは、ユートピア』で主演
俳優の藤原季節が映画『あるいは、ユートピア』で、秘密を抱える小説家・牧雄一郎役で主演を務めた。約2年ぶりとなった映画出演で、どんな気付きや苦労を経験していったのだろうか。(取材・文=水谷賀奈子)
本作は、東京国際映画祭Amazon Prime Videoテイクワン賞受賞の取り組みの一環として、Amazon MGM Studiosによって製作された金允洙(キム・ユンス)監督のオリジナル脚本による長編デビュー作。11月16日から東京・渋谷のユーロスペースにて2週間の限定上映が決定している。大量発生した謎の巨大生物によって、終末に向かう世界と、ホテルから出られなくなった12人の人間たちによる群像劇だ。
藤原が映画に出演するのは、約2年ぶり。「待ちに待ったオファーだったのでうれしかったです。出演予定だった映画の企画が次々なくなってしまい、2年間はドラマや舞台に出演していました。映画以外の場で修行していたタイミングでいただいたお話がこの作品でした」と経緯を明かす。
企画がなくなってしまった際には、「自分じゃだめなのか」と思い悩んだ日々もあった。「映画が好きでこの世界にいるので、『映画で認められたい』という気持ちが常にあるんです。『映画という世界には必要とされていないのかな。これまで頑張ってきたし、そろそろ諦めどきなのかな』と、ただ落ち込んでいました」と当時の葛藤を口にした。
「この作品の本読みの後に渋川清彦さんと渡辺真起子さんに誘っていただいて、プロデューサーの森重晃さんとキム監督の5人でお食事に行きました。頭のてっぺんからつま先まで映画の血が流れているような、憧れの人たちに囲まれて『何が起こるか分からないな。今ちゃんと映画の世界に自分がいられている』と思えました」
藤原の映画への熱い思いの源流は幼少期までさかのぼる。「小さい頃はアクション映画が特に好きでした。『マトリックス』とかジャッキー・チェンさんの作品とか、1日に何回も狂ったように見ていました。邦画だと時代劇が好きで、それがきっかけで剣道を始めるくらいです。『ラスト サムライ』の渡辺謙さんの台詞や真田広之さんの殺陣とかも全部覚えていました」と笑う。
台詞の言い回しのクセで苦戦
本作では、秘密を抱える小説家・牧雄一郎を演じた。
「感情を削って棒読みの状態にしていくという方法で何度も本読みをやりました。それは監督の意向だったのですが、僕も役の感情は現場で出てくるものだと思っています。ひたすら感情を削り続ける作業をしたことで、より現場で生まれてくる演技を立体的にすることができたので、ありがたかったです」
一方で、映画の世界を離れて修行していたことによる苦労もあったようだ。「どうしても台詞の言い回しが舞台寄りになって、“か行”や“さ行”などの子音を立てて話すクセがついていました。それだと映画においてはハキハキと聞こえすぎてしまうので、監督と話し合いながら台詞を“日常会話”に戻せるように意識しました」。
さらに、牧というキャラクターを作り上げるのに欠かせないものとなった“あるもの”が事前に監督から配られていたという。
「作品に登場する11人の、ホテルに閉じ込められる前日譚を短編小説にして配ってくれました。牧くんがどんな仕事や恋愛をしていて、どんな思いを抱えて生きていたのかが書いてあるんです。それは肌身離さず持っていました。自分の役の分しか読めないという決まりだったのですが、僕だけには最後のシーンの撮影の直前に『全員分を読んでもいいよ』と言ってくださって、読んでから撮影に挑みました。それぞれの人物を背負って対峙(たいじ)するシーンだったのでより覚悟を持って演じることができました」
そうして作り上げられた牧が主人公となる本作。ホテルから出られなくなった12人の人間たちが「非暴力、不干渉、相互扶助」の三原則のもとで平和に暮らす中、1人の人物が遺体となって発見されたことで、12人のユートピアが揺れ動いていく。
「人間生きていると取り返しのつかない失敗とか過去を悔やむことがあって、心のどこかで『隕石降ってこないかな』みたいな、まっさらな世界になってほしいという願望を実は持っていると思っています。そんな願望を実現させてしまったのがこの映画なんです。過去も未来もこれまで築いてきた人間関係も存在しない無秩序な世界で、彼らが何を選択して何を感じて、どんな自分になって生きていくのかを考えるということが見どころになっています。自分がこの中にいたらどう生きるのかということを考えるのはすごくいいんじゃないかなと思います」
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