スポーツ少女が芸能界入りして10年…桜井日奈子、母親に「帰りたい」と泣きながら電話した過去
今年デビュー10周年を迎えた俳優の桜井日奈子が11月23日に東京・本多劇場で開幕する舞台『138億年未満』(福原充則演出)でヒロインを演じる。故郷・岡山県を舞台にした物語で、今回初めて岡山弁を披露するという。節目の年に岡山ゆかりの作品に出演できるうれしさや、「俳優・桜井日奈子」を作ってくれた大切な経験と出会いについて語った。
岡山が舞台の青春活劇『138億年未満』でヒロイン
今年デビュー10周年を迎えた俳優の桜井日奈子が11月23日に東京・本多劇場で開幕する舞台『138億年未満』(福原充則演出)でヒロインを演じる。故郷・岡山県を舞台にした物語で、今回初めて岡山弁を披露するという。節目の年に岡山ゆかりの作品に出演できるうれしさや、「俳優・桜井日奈子」を作ってくれた大切な経験と出会いについて語った(取材・文=大宮高史)。
『138億年未満』は、映画作りにかける高校生の小渕勲(作間龍斗)、同級生でダンス部のスターの韮沢カスミ(桜井)ら、夢いっぱいの高校生が卒業、進学を経て変わっていく人生模様を描いている。作・演出は日本テレビ系ドラマ『あなたの番です』などを手がけた福原氏。地元・岡山を舞台にした作品だけに、桜井は稽古でも自然と気持ちが入っているようだ。
「こんなにスピーディーな会話劇も、岡山弁で役を演じるのも初めてです。岡山での高校時代と、韮沢が卒業して大阪に出てからの時代を行き来して舞台が進んでいきます。とにかく楽しみたいです」
青春群像劇だが、人生のほろ苦さも描かれる。
「夢を抱く高校生たちが、期待とは違う未来に直面して人生に折り合いをつけていく物語になっています。甘酸っぱいを通り越して酸っぱい物語だなと思いますが、若者らしい希望も感じとってもらいたいです。楽しくも、酸っぱい舞台を作りたいなと思っています」
演じる韮沢は岡山で暮らす高校生という、かつての桜井自身のようなキャラクターだ。自身とは似ているところも正反対なところもあると明かす。
「韮沢って学校中の憧れの的で、しかもそれを誇らしげに思っている子です。だから大阪でダンサーとして、一花咲かせようと野心に燃えているんです。私も高校2年でデビューさせていただいて、周りの見る目がガラッっと変わったので彼女の環境にはちょっと共感できます。でも、私はそれまでバスケ一筋で、なんとなくキラキラしたお仕事に憧れているだけでした」
バスケットボールは5歳から始め、実の父からも鍛えられたという。
「父が今でもミニバス(小学生を対象にしたバスケットボール競技)のコーチをしていて、兄も弟もバスケ経験者で、バスケ一家でした。だから周りの女の子がメイクやファッションに目覚めるのを横目で汗まみれになっていましたし、プリクラなど流行っていた遊びに馴染むのも遅かったですね。あからさまに男子に好かれようとする女子も苦手だったので(笑)、あえて引かれるような突飛なことをしてみたり。色恋に興味もなくて見栄を張っていました」
コンテストで芸能界入り「荷が重すぎた」初めての舞台
高校2年生の2014年に「岡山美少女・美人コンテスト」でグランプリを獲得し芸能界デビュー。“岡山の奇跡”というキャッチコピーで時の人になった。
「元々芸能界を特に目指していたわけではなくて、なんとなくCA(キャビンアテンダント)やアナウンサーのような華やかな仕事に憧れていた程度でした。だからうわついた感覚で、芸能界でやっていく確固たる決意もないままお仕事をいただいて……。『生半可な気持ちで芸能人になってしまった』と思っていたので、憧れられて期待される存在になったことと、未熟な自分自身をすり合わせるのに時間がかかりました」
そんな桜井を精神的に大きく成長させてくれた存在が2つあったという。初めて挑んだ舞台『それいゆ』(16年)と、デビュー当初からついてくれたマネージャーだ。『それいゆ』は画家でデザイナーの中原淳一さんの人生を描いた物語。
「『それいゆ』は戦中戦後のお話で、私は中原淳一さんに憧れた女学生役で時代に翻弄されてストリッパーになるという設定でした。この世界って、私もそうですが学校で専門的に学ばなくてもデビューしてしまえば俳優という肩書きを持てる環境ですよね。本当に荷が重すぎる役でしたが、演出の木村淳さんに鍛えられました。熱い方だったので、お芝居が初めてということもあり指導で毎日泣いて、役に入り込むあまり感情が高ぶって鼻血が出てしまったこともありました。初めての舞台でハードな経験をしたおかげで、強くなれたと思います。千秋楽には『やりきった』という思いになれました」
そして、マネージャーについては「デビューしてから5~6年、一からしつけていただきました」と振り返る。基礎を叩き込んでくれたことを明かしつつ、当時の心境も吐露した。
「『少女漫画が原作のヒロイン役をいただけることが多くて、今でもその頃のイメージを持っている方が多いかもしれません。その『桜井日奈子像』を守るために、(マネージャーからは)例えばバラエティーでも『これは言わない方が良かった』『もっとこうしなさい』とよくお説教をされました。『なんでこんなに厳しくされなきゃいけないんだろう』と内心反発もしていて……。俳優を続けていく覚悟もあまりなかったので、岡山にいる母に何度も『帰りたい』と電話していました」
桜井自身、芸能活動と並行して大学にも通い、ハードに自分を律する日々を送ったが、厳しくも愛情をもって接してくれるマネ-ジャーは心強い存在だった。
「上京して、もちろん一人暮らしも初めてで押しつぶされそうになっていて……そんなことある訳ないのに、街ゆく人が私の悪口を言っているかもと疑心暗鬼になるほどでした。そんな時に、厳しかったけれども愛情をもって育ててくれるマネージャーさんがいてくれたのは本当に幸運でした。今は(事務所を)辞められましたが、今でも私のことをきっと見てくれていると思います。その方の気持ちに応えるために、役者を辞めるわけにはいかないと、いなくなられてから決意がつきました」
“恩人”のためにも、役者として前進し続ける。そして今回の『138億年未満』では、故郷の魅力を改めて実感している。
「岡山に帰ると、やはり肩の力を抜くことができます。私は帰省すると父のバスケのチームに顔を出すこともあって、父も教え子の様子を語ったりLINEで送ってきたりで、本当に楽しそうで。ずっとボランティアなのに30年もコーチを続けていて、無償の精神がないとできないことだと思います。家では一人娘としてかわいがってもらいましたが、バスケではスポーツマンらしく礼儀も厳しく教えてもらいました。年々、父への尊敬の念は大きくなっています」
幼少の頃からバスケで培った体力に自信はあるが、本作の稽古ではダンスも鍛えてきた。「習ってきたことはないんですが」と笑うが、ハードルが上がっても臆さない。
「振り入れ(曲に合わせ振り付けをつけていく)の覚えが早かったので、『もっとハードにしても大丈夫?』と聞かれました。体力にも自信はあるので『OKです』と答えてしまって(笑)。(千秋楽まで)やり抜きたいです」
岡山のスポーツ少女が芸能界入りして10年。苦楽を味わいながら舞台に映像、CMと印象を残してきた。とりわけ芸能活動の芯となっている、役者への思いは強い。
「舞台は今でも本番直前に『出たくない!』って思うほど緊張しますが、毎日違う劇場の空気感に触れたり、稽古から千秋楽まで『こうなのか!』と発見に終わりがないところが好きです。気力がみなぎってきます。もちろん、この業界、甘くはないです。私が憧れていた、ただ楽しくて華やかでっていう世界ではありません。でも、10年も20年も俳優でいることが私の目標です。たくさんの方に鍛えられてきましたし、負けず嫌いで一つのことをやりぬく根性だけはあります」
愛らしいルックスの奥で、厳しくされるほど精神面は鍛えられ、熱くなっていく。
□桜井日奈子(さくらい・ひなこ)1997年4月2日、岡山県生まれ。2014年「岡山美少女・美人コンテスト」で「美少女グランプリ」を獲得し芸能界デビュー。15年「いい部屋ネット」CMなどで全国的な知名度を獲得。16年に『それいゆ』で初の舞台出演を経験し、『そして、誰もいなくなった』(日本テレビ)で連続テレビドラマ初出演、2018年には映画『ママレード・ボーイ』で初主演を飾る。ドラマ・映画・舞台と活躍の場を広げ、近年の主な出演舞台は『17 AGEIN』(21)、『富美男と夕莉子』(22)、『ハロルドとモード』(23)など。160センチ。ニッポン放送開局70周年記念公演『138億年未満』の東京公演は本多劇場で12月8日まで、大阪公演はサンケイホールブリーゼで12月12日~12月16日。
ヘアメイク:Hitomi(Chrysanthemum)
スタイリング:阿井真理
トップス 11万円(税込)
ボトムス 9万9000円(税込)
SHIROMA