“あの人は今”状態だった名ボクサーに「それダサいよ」 名物女性マネは『極悪女王』でも強烈インパクト
女子プロレスラー・ダンプ松本の半生を描いた話題のドラマ『極悪女王』(Netflix)で、モンスター・リッパー役を演じるANNAは、異色の経歴を持つ俳優だ。カナダから来日し、役者として経験を積む一方、ボクシングの元WBF世界クルーザー級王者の西島洋介のマネジャーというもう一つの顔を持つ。西島の影響を受けて始めたボクシング歴は12年。今や西島にとっても欠かせない存在のANNAに、出会いからここまでの道のりを聞いた。
『極悪女王』で圧巻の演技 「本物みたいに凄かった」の声
女子プロレスラー・ダンプ松本の半生を描いた話題のドラマ『極悪女王』(Netflix)で、モンスター・リッパー役を演じるANNAは、異色の経歴を持つ俳優だ。カナダから来日し、役者として経験を積む一方、ボクシングの元WBF世界クルーザー級王者の西島洋介のマネジャーというもう一つの顔を持つ。西島の影響を受けて始めたボクシング歴は12年。今や西島にとっても欠かせない存在のANNAに、出会いからここまでの道のりを聞いた。(取材・文=水沼一夫)
『極悪女王』でダンプに扮するゆりやんレトリィバァをリングで豪快に担ぎ上げる外国人レスラー。本家さながらのド迫力ファイトには、SNS上で「モンスター・リッパーが素晴らしい」「再現度高い」「イメージ通りで本物みたいに凄かった」「迫力満点の表情は、あの頃のモンスター・リッパーさんを思い出しました」などの声が上がっている。
ANNAはカナダ・バンクーバー生まれのカナダ人。日本で俳優として豊富なキャリアを持つ一方で、元プロボクサー・西島のマネジャーも務めている。西島は1997年に西島洋介山のリングネームでWBF世界クルーザー級王座を獲得。その後は格闘家に転向し、K-1やPRIDEのリングで活躍した。
2人は共通の知人を通じて知り合い、食事会で顔を合わせる友人同士だった。
関係が大きく変わったのは2012年。東京・水道橋での出来事がきっかけだった。
「共通の知人の社長さんに食事に招待されて、2人で行ったんですよ。そしたら帰りに後楽園ホールの近くで洋介がすごい声をかけられて、サイン攻めに遭ったんです。『うわ、西島洋介山ですよね。もう大ファンです』とか『日本人の誇りです』とか自分の財布から十何年前の洋介の写真を出してきて、『いつか会えたらと思っていました。サインしてください』と興奮する人もいました」
水道橋は格闘技の聖地。当時西島は連敗が続いてセミリタイア状態だったが、ファンはボクシング時代の勇姿を鮮明に記憶していた。
ANNAは面食らった。元ボクサーとは知っていたが、過去にテレビで何度も試合が放送され、これほどまで影響力のある人間だとは知らなかった。
同時にこみ上げたのは、くすぶる西島への怒りに似た感情だった。帰りの電車内で思わず西島に詰め寄った。
「もうあなた何やってんの。これだけ涙流すファンがいるのに、なんでダサい感じで下がってるんだよ」
1人の友人としてのストレートな言葉だった。つい先ほど食事した店でも熱烈な歓迎を受けていた。マスターが泣きながら、「料理長が洋介山さんの大ファンでした。洋介山さんが俺の店に来るなんて……」と話していた。
“あの人は今”状態だった名ボクサーをよみがえらせた
ボクシングでは27戦24勝2敗1分。パワーのある外国人相手に日本人離れした強打を誇ったが、格闘技転向後は思うような結果が出ず、黒星を積み重ねた。西島は進退を明らかにしないままリングから遠ざかり、丸3年を迎えようとしていた。
「ネットで検索しても“あの人は今”みたいな記事しか出てこない状態」
表舞台からなぜ消えたのか。その理由を聞くと、再びANNAは語気を強めた。
「最後6連敗かなんかでちょっと気持ちが落ちて引きこもりみたいになっちゃって下がったんだよねって言うから、いやそれダサいよって。もったいないよ、あなたの洋介山って名前はグッチとかのブランドと一緒なんだから! これだけファンがいるんだからそんな引き下がり方じゃなくて、1回試合してかっこよく下がりなよって」
友人からの猛ゲキに、西島が絞り出した答えは「じゃあマネジメントやってよ」だった。ANNAは「全然いいよ。やってあげるよ」と即答。こうして異色の越境コンビが結成された。
西島は2つのマネジメント事務所に所属していたが、ANNAはきれいに整理することを条件にした。誓約書を書かせて籍を抜くと、西島にけじめのリングを用意するべく動き出す。1年後、西島はボブ・サップとの引退試合に臨み、KO勝利。西島の強い要請もあり、ANNAはリングガール姿を披露することになったが、歓喜の輪の中、10カウントゴングを鳴らすことができた。
リングから離れた時期、西島はボディガードの仕事をして食つないでいた。それが、現在は、多くの現役格闘家のコーチとして往年の技術を教えている。仕事は順調で、表情も明るくなった。「全然変わりましたよ。引きこもりから表にパーって出るようになったんで」
スタートが友人同士ということもあり、ANNAとは公私関係なく、マネジメント以上の絆で結ばれている。オフの日に西島がANNAの自宅で犬の世話を引き受けることもある。
「友達になってマネジャーになって、今度親友になって16年17年たって今はもうきょうだいですよね。フフフ。手のかかる弟です」とANNAは笑顔を見せる。
『極悪女王』の肉体改造に西島の献身的なサポート
西島のトレーニングや指導を間近で見ているうちに、自身も触発され、ボクシングを始めた。キャリアは12年になり、2020年にはキックボクサーとしてプロデビューも果たしている。
「マネジャーとして洋介の裏をバックアップしただけじゃなくて、ちょっと表にも出てみたい、選手の気持ちも知りたい、リングにも上がりたいっていう思いが芽生えたとき、たまたまタイミングよくオファーをいただいた」
デビュー戦の舞台は聖地・後楽園ホール。不思議な運命を、ANNA自身も驚きを持って受け止めている。
『極悪女王』でANNAは、体重を40キロ増やしたゆりやんを持ち上げるため、自身も肉体改造に励んだ。その時、サポートしてくれたのが西島だった。
「食べるだけ食べて筋トレも一緒にやりながら、あとは家で洋介にプロレス技かけてましたよ。お前耐えろって。『俺関係ないじゃん』って言うから、『いいからマネジャーのために頑張れ。いい作品になるから』と言って」
『極悪女王』出演に際し、ANNAのもとには、「やっぱり西島さんが絡んでるからANNAさんこれ出れたんですか?」と冗談めかした声が相次いだ。オーディションを自力で突破しているANNAは、「いや、洋介は一切関係ないよ! 実力で取ってるんですから」と苦笑。俳優業は安定しており、最近ではNissyや浦上想起のミュージックビデオに登場したほか、目黒蓮主演の劇場版『トリリオンゲーム』(来年2月14日公開)にも出演を予定している。
今後の目標はバイリンガルな格闘家女優として活動の幅を広げていくことでANNAはさらなる飛躍を誓っていた。