未開の地を切り拓き続けたソロ20年 KREVAが立ち返った原点「将来のビジョンは全くない」
ヒップホップシーンを代表するアーティストのKREVAがソロデビュー20周年を迎えている。4日にはアニバーサリーイヤー第1弾となる新曲『Forever Student』を配信リリースした。4月には独立し“新人社長”となったKREVA。つねに挑戦者の姿勢を崩さずに歩んできた20年という時間を経てたどり着いた答えは「今を大切に生きる」ということだった。
心機一転の独立で「Back to Basic」…リスタートは「それすらも学び」
ヒップホップシーンを代表するアーティストのKREVAがソロデビュー20周年を迎えている。4日にはアニバーサリーイヤー第1弾となる新曲『Forever Student』を配信リリースした。4月には独立し“新人社長”となったKREVA。つねに挑戦者の姿勢を崩さずに歩んできた20年という時間を経てたどり着いた答えは「今を大切に生きる」ということだった。(取材・文=中村彰洋)
――最新曲『Forever Student』はリスタートの意味も込められた楽曲に感じました。ソロデビュー時の「新人クレバ」のフレーズも印象的でしたが、今回は「新人社長」という言葉を使われていますね。
「ずっと真面目なこと言っているのも疲れちゃうので、面白いかなと思って入れました。『新人社長』と『人参100本』って韻もそういう意味で入れています」
――まさに新人社長となったKREVAさんですが、なぜこのタイミングでの独立を決断されたのでしょうか。
「そんなに理由はなくて、なんかもういいかなとポンッと思って。20周年の前から考えていたので、それに合わせたわけでもないですね。最近は、月に何人が独立するんだってぐらい、芸能界もフリーになりましたって人が多いですよね。コロナ禍以降の世の流れなのかなと思います」
――独立されての変化はいかがですか。
「これまで自分専用の大きいスタジオや楽器もあったけど、自分のものではなくて会社のものでした。そのほとんどがなくなって、スタジオもすごく小さくなりました。でもそれが“Back to Basic”って感じで、すごくいいですね。『ここからまたデカいスタジオを手に入れるぜ』みたいな気持ちです。『Forever Student』を作っている時も、機材も全然そろっていなくて、どういう風にやったらいいか試行錯誤でした。でもそれすらも学びで、楽しいんです」
――ソロスタートした当時に思い描いていた20年後の未来と今を比べていかがですか。
「もっと早く、もっと偉くなれるものだと思っていました(笑)。音楽チャートで1位になったりもしましたが、それでも音楽業界のピラミッドでは中の下だなと感じました。上にいる人たちは、ずっと上にいる。年齢を重ねれば、そこに入っていけると思っていたけど全然そんなことなかったです」
――そこにはどういった要因があるとお考えですか。
「自分の実力じゃないですかね。本当にすごい方たちとご一緒する機会も増えてきましたが、圧倒的に歌がうまいとか、振る舞いが美しいとか、そういったスターのオーラなんですよ。シンプルに自分の頑張りが足りなかったのかなと痛感します」
――その現実に直面した時、どのようなお気持ちで前に進まれるのでしょうか。
「1番最初に強く思ったのは、スピッツの草野マサムネさんと一緒にステージに立った時でした。『うわ、本物の草野マサムネが横にいる』って思ったんですよ。『なんで俺ここにいるんだろう』って。マサムネさんみたいに透明な声も出ないし、安定した歌でもない。『あ、ラップしてるからここにいるんだ』と思ったんです。石川さゆりさんと一緒に歌ったときもそうでした。『ラップしてるから俺はここにいるんだな』って。
そういう時には必ず、自分で曲を作ってラップするという原点に立ち返ります。俺が急に歌がうまくなれるかと言ったら、それは無理です。でも明らかに、石川さゆりさんより俺の方がラップはうまいです(笑)。だからそこを伸ばしていこうと考えるようにしています」
楽曲制作ではAIを活用も…歌詞の仕上げは手書き「最終的には裏紙」
――KREVAさんはヒップホップを大衆化するということに貢献してきたかと思いますが、風当たりが強い時期もあったのではないでしょうか。
「ずーっとありました。それこそソロデビューした時、スピッツがフェスに呼んでくれましたが、1番前のスピッツファンは座ってましたからね。やっぱりその光景は忘れないです。腕組みして見ている人もいっぱいいました。でも、『あいつら分かってねえ』と思うのではなくて、どうやってその腕をほどくかっていうのをずっと工夫してきました。今でもそうですね。そこはちゃんと技術で見せてやるって考え方でしたね」
――今年は「KREVA CLASS」として、教える立場にも立たれましたが、後進の育成などを考えることはあるのでしょうか。
「コロナ禍の前後は、もっといろんなビートメーカーが出てきたらいいな、そこに貢献できるようなことをしたいなとも思っていましたが、今は自分が生きていくことに必死です。でもチャンスがあれば、曲を作ることやAIがどれほどに音楽に影響をもたらしているのかなど、教えたいなとは思っています。KREVA CLASSも大変だったけどまたやりたいですね」
――KREVAさんもAIを活用されているんですね。
「めちゃくちゃ使っていますよ。特に音楽は生成AIではなく、いらないものを取ってくれるという面がものすごく進化しているんです。耳には聞こえないけど、ボリュームを割いているような、細かい設定をしないと取り除けなかった音だったりを削ってくれるソフトだったりがあって、かなり便利です。こういう風に調整するといいですよ、と教えてくれるものとか、写真のフィルターに近いかもしれないです。昔の自分の素材がまたフレッシュに聞こえたり、本当に楽しいです」
――来年初頭には直筆歌詞の展示や販売を行う「原書展」を開催されますね。
「ずっとやりたかったんです。歌詞を裏紙に油性ペンで書いて、最後に書きあげたら清書をするというスタイルでずっとやってきました。ある時期から保管していて、それを見せて販売するのは、1つのアートとして面白いんじゃないかと考えていました。誰に見せるためでもなく書いていたものがゆえの熱みたいなものがこもっていると思います。人に見せるためではないので、字にすらもなっていないようなところもあって、それも含めて面白いかなと思っています」
――今もずっと歌詞を手書きされているのですか?
「もちろんメモとかデジタルですることもありますが、最終的にまとめるところは裏紙なんですよね。ノートだと連なっちゃっているので、広げられないんです。だから1枚1枚書いてくっていうスタイルがいいんだと思います。裏紙なんで、紙としては第2の使い道なのでSDGsですよね(笑)。それはたまたまですが、気兼ねなく書けるのもいいところです」
ぼんやりと想像する50周年…「どんな“ラップじじい”だよ!」
――これまで、未開の地を切り拓いていったイメージが強くありますが、今後もそういった点は意識されていますか。
「面白いと思えればやりたいですかね。ただ、“音楽をやっている俺だから”っていうのが根底にはあると思うんです。例えば、俺がいい社長になるために税金の勉強をして、『今年は何十万円浮いたぞ』みたいなことを言い出したら、『つまんな!』って思っちゃいますよね(笑)。だったら、ずっと音楽をやっている方が今は大事です。だから、新しいことに挑戦するために手を伸ばすのではなくて、音楽をやっている俺を面白いと思ってくれる人がいて、そこから広がって、自分がやりたいなと思えることは、どんどんやっていきたいです」
――同じフィールドだけで成長し続けることはとても大変なことですね。
「今回、この曲をここまでに作ると決めたリミットがあって、苦戦していました。そんなときに、AKLOやZORNと話す時間があって、そこですごく救われたんです。同じソロのラッパーで、アルバムも出していて、それぞれスタイルは違えど、同じ悩みを同じように感じてくれる2人でした。向こうから俺に聞いてくることもあるし、それに答えているうちに自分の中の答えが出てきたんですよね」
――下の世代から刺激を受けることもあるんですね。
「たくさんありますよ。いいものを作っている人たちは、やっぱり頑張ってるんです。負けてらんないぞって気持ちになるし、『俺らしさとはなんだ』と改めて考えさせられます」
――20周年イヤーについてはどのように捉えていますか。
「せっかくだから乗っかっていきたいですね。5周年は『まだ祝うの早いでしょ』とか思ってましたが、10年、15年、20年とありがたいなと思います」
――今後のビジョンなどはお持ちですか。
「どうやったら石川さゆりさんの50周年に到達できるんだろうとかは思いますよね。俺が50周年となったらもう78歳。『どんな“ラップじじい”だよ!』って全然イメージ沸かないです(笑)。年を取っても第一線でやっているラッパーの先人がいないんですよね。アメリカでも、成功したラッパーは実業家になっちゃうんです。そこを自分が作っていくのかと考えると難しさは感じますよね」
――なんとなくのイメージはお持ちなんですね。
「でも全然ですよ。本当に来週とかそのぐらいの前しか見てないです。将来のビジョンも全くないんです。毎日1つずつやっていく気持ちでいないとすぐにダメになりそうと感じるんです。いつ死ぬかも分からないですし、あまり先のことを考えないようにしています。
コロナ禍が明けて、年齢も上がってきたことでそういう思いが強くなってきましたね。先のビジョンばかりだと、何もやらないままそこに行っちゃいそうです。すぐいなくなっちゃうぞ、ぐらいの気持ちで曲作りに挑んでいかないと、どんどんダメになっていきそうなので、今は必死に頑張っています」
スタイリスト:藤本大輔(tas)
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