KREVA、シーンのトップを走り続けた責任感 過去の自分を超える難しさ「ハードルが上がっている」
日本を代表するヒップホップアーティストのKREVAが20周年のアニバーサリーイヤーを駆け抜けている。4日には今年初の新曲『Forever Student』を配信リリースした。つねにシーンのトップを走り続け、ベテランの領域に入ってもなお、学びの姿勢を崩さずに真摯に音楽と向き合っている。ハングリーに成長を続けるKREVAの音楽との向き合い方とは――。
ソロ20年間で芽生えた思い「昔はもっとノリで書けていた」
日本を代表するヒップホップアーティストのKREVAが20周年のアニバーサリーイヤーを駆け抜けている。4日には今年初の新曲『Forever Student』を配信リリースした。つねにシーンのトップを走り続け、ベテランの領域に入ってもなお、学びの姿勢を崩さずに真摯に音楽と向き合っている。ハングリーに成長を続けるKREVAの音楽との向き合い方とは――。(取材・文=中村彰洋)
――周年イヤースタートから約5か月が経過したタイミングでの新曲リリースとなりました。なぜこのタイミングとなったのでしょうか。
「特に意図があったわけではないです。楽曲の原型は2年前ぐらいに思い浮かんでいました。最初は『Forever Student』ってアルバムにしようと思っていたんです。学びに関する言葉とか韻をスマホに書き溜めていたものを1曲に凝縮させました」
――アルバム予定だったものが1曲になったと考えると、かなり密度が濃い楽曲に仕上がっていそうですね。
「そうですね。学びをテーマにいろいろな角度で攻められると思っていたので、アルバムを想定していましたが、1曲にしちゃいましたね。普段だったらメモしていた一言から広げて1曲にするような楽曲制作をすることが多いですが、それをいくつも持ち寄って1曲にしたのは初めてのことでした」
――なぜそういった形に挑戦したのでしょうか。
「そのくらいじゃないと完成度に満足できなかったんです。今回はこの1曲を作るために情報を集めた期間が約2年とすごく長いので、完成した時は今までに感じたことのない気持ちになりましたね」
――『Forever Student』にはどのような思いが込められていますか。
「『Forever Young』という言葉はよく耳にしますが、あまりピンときていなかったんです。心の話をしているのかもしれないけど、年を取れば誰しも老けますからね。でも『Forever Student』に関しては、真偽で言ったら真の言葉だと思うんです。例えば、90歳だろうが、町の書道教室に入ったらその瞬間からStudentになりますよね。学ぶ姿勢を持って、何か習い始めれば、その瞬間から生徒になれるんです。
普通に生きていく中でも、何かを学び取ろうとする姿勢には意味があると思うし、それは楽曲を通して訴えたかった部分です。もしかすると現役の学生には『一生続いたら嫌だよ』ってあまり響かないかもしれないですね(笑)。でも追いかける気持ちさえ、なくさなければ学ぶことは常にある。そしてそれがあると楽しいんですよね」
――2年前に思いついた『Forever Student』という言葉ですが、何がきっかけでしたか。
「機材のプラグインの使い方をYouTubeで見ていた時に、『そんな使い方あるんだ!』と発見があったんです。そこで『これって一生学べるな』と思ったのがきっかけでした。誰もが知っている英単語ですが、この2つの単語が並んでいるのもあまり見たことがないという点もいいですよね」
――中学生でも分かる2つの単語ですね。
「そうなんですよ。どっちも知られていて、意味もちゃんとあるんです」
――巧みなリリックを書かれる印象がありますが、どこからインスピレーションを受けていることが多いですか。
「まちまちですね。誰かの曲を聞いていて、言葉が思いつくこともあります。自分からアイデアを求めて、本を買いに行ったり、出掛けることもあります。意識的に行かないと家とスタジオの往復ばかりになっちゃうんです。でも今回は、とにかくスタジオに行って『うーん』と毎回うなりながら制作していました」
――普段から楽曲を作る時は缶詰状態になることが多いのでしょうか。
「そうですね。トラックを作るのは楽しいんですけど、歌詞を書くのは『やるぞ!』と思わないとダメなんですよね。昔はもっとノリで書けていたけど、どんどん責任感が増していって、言葉選びも慎重になってしまって難しいですね」
――責任感というのは?
「例えば、『娘にねいろって名前をつけました』というファンの方と会ったこともありますし、そういう言葉をもらうたびに『しっかりしなきゃな』と思います。フェスに行っても気が付いたら最年長とか、独立したこともそうですが、どんどん責任感は増していますね」
――それを窮屈に感じたりすることはありますか。
「よく例えで言うのですが、大ケガしたことのない子どもって、びっくりするぐらいのスピードでプールサイドを走れたりするじゃないですか。あれはもうできないですよね(笑)。慎重になっちゃいますし、それは確かに窮屈だとは思います」
独立、ソロ20周年…今が人生で1番頑張っている
――歌詞を書くことに苦労されているというのが意外でした。
「どんどんハードルが上がっているんですよね。今までの人生で1番頑張ったのが大学の受験勉強だと思っていました。1日8時間ぐらい毎日勉強していたけど、最近の方がその時よりも頑張っていると思います。あの頃は、学費も払ってもらって、塾にも通わせてもらって、ひたすら勉強していればよかっただけ。今は会社の経営などいろいろなことをやりながら、楽曲作りもしなくてはいけないですからね。
もちろん、これが幸せな悩みだということは分かっています。でも俺のラップを信じてついてきてくれて、それを楽しみに待っている人の元に届けなければならない。俺がここでラップを書かなければ、それは届かないわけじゃないですか。そういったプレッシャーはあります。
曲作り、アレンジ、レコーディング、編集まで基本的に1人でやっています。もちろんやりたいからやっているんですけどね。今は1曲にかけるパワーや時間が増えました。ひたすら自分が作った曲を聞いて、どれが今の気分や世の中に合っているかを見極めていく。全く答えがないので、つらさを感じることもあります。楽しい3、苦しい7って感じですかね(笑)。トラックだけ作って生きていけるんだったらそれでもいいかなっていうぐらいです。でも、やっぱり俺がトラックの上で何を言うかが大事なんだろうなって」
――どの時代の楽曲を切り取ってもKREVAさんの楽曲は誰が聞いても「KREVA!」と感じます。そこは意識していますか。
「いや、していないんです。でも、『Forever Student』のイントロを一緒に舞台をやっていた小林賢太郎さんに聞かせたら、イントロが流れた瞬間に『KREVAー!』って言ってました。すげぇうれしかったですよ(笑)。俺の好きなコード感や音色なんですかね。いろんな曲を作るけど、結局自分の好きなものが自信を持って出せるものなので、そうなっているのかもしれないです」
――楽曲の反響などを気にすることはありますか。
「熱を持って感想をくれることが増えました。去年『Expert』という曲を出しましたが、単純な『良かったです』ではなくて、『歌詞のここがこういう風に染みました』と具体的な言葉をもらうことが多かったです。そういうのを聞くたび、『ちゃんと届けなきゃいけないな』って気持ちになりますね」
――濃い感想が増えたのも、楽曲のハードルを上げているからこそですね。
「そうですね。それに、アルバム3~4枚目までの頃は、まだクラブミュージックやダンスミュージックでありたいという気持ちがあったから、意味よりも響きを重視していたこともあったと思います。でも最近は、より言葉や歌詞を、曲を曲として伝えたいという気持ちが強くなっています」
――確かにKREVAさんの楽曲は歌詞がスッと入ってきやすい印象があります。
「その言葉はよく言ってもらえますね。だから、フリースタイルでも勝てたんだと思います。圧倒的に他の人よりも何を言っているかが分かる。だから届いていくんでしょうね。でも、洋楽で全く意味は分からないけど、聞いていると心地いいみたいなのもいいなと思うんです。そこに達するには圧倒的に韻を踏み続けるとか、もっとスキルを多めに出すとか、そういうのが必要なのかなとも思っていますね」
――根底にあるモチベーションはどのようなものでしょうか。
「曲作りはマジでずっと楽しいです。ずっとゲーム好きな人って、ハードが進化して、映像や操作体験も向上していって、抜けられなくなっていると思うんですけど、トラック作りも同じなんですよ。どんどん機材が進歩して、しかもそれを使って自分で作るので、より根は深いかもしれないですね(笑)。曲作りはとにかく楽しい。今後もやめられないです」
スタイリスト:藤本大輔(tas)
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