「奴隷みたいな仕事は辞めさせろ」 SNSに届く海外からの誹謗中傷…人力車社長が明かす需要爆増の“功罪”
とどまることを知らないインバウンド(訪日客)の観光需要で、日本の有名スポットはどこも大盛況だ。和の雰囲気漂う東京・浅草は特に外国人客に人気で、浅草寺・雷門や仲見世通りは平日もごった返している。円安の背景もあり“爆買い”の恩恵が注目される一方で、外国人客によるマナー違反が物議を醸すこともある。浅草を中心に、人力車による観光サービス業「東京力車」を展開する株式会社ライズアップの西尾竜太社長に、“インバウンドの功罪”、広がる可能性について聞いた。
インバウンドは顧客の約半分 「人力車のハード面も、人手も足りていない」
とどまることを知らないインバウンド(訪日客)の観光需要で、日本の有名スポットはどこも大盛況だ。和の雰囲気漂う東京・浅草は特に外国人客に人気で、浅草寺・雷門や仲見世通りは平日もごった返している。円安の背景もあり“爆買い”の恩恵が注目される一方で、外国人客によるマナー違反が物議を醸すこともある。浅草を中心に、人力車による観光サービス業「東京力車」を展開する株式会社ライズアップの西尾竜太社長に、“インバウンドの功罪”、広がる可能性について聞いた。(取材・文=吉原知也)
日本政府観光局(JNTO)の統計発表によると、今年9月の訪日外客数は287万2200人で、9月時点(累計2688万200人)で前年の年間累計を上回った。「観光立国」の勢いは加速する一方だ。
同社は、学生時代からの借金苦から脱却し、一流の俥夫として活躍した西尾社長が2019年12月に立ち上げた、「観光コンシェルジュ型」を掲げる人力車の観光サービス。100人を超える従業員スタッフは、1人5か国以上は外国語であいさつ・自己紹介ができるように鍛えられ、「頑張りを還元する報酬制度」によって、最高月収130万円超をたたき出す。「最高のお客様特化型」が売りだ。
コロナ禍明けで爆増するインバウンド需要。顧客の約半分を占めており、「国内需要だけで充分なところに、海外のお客様が増えに増えて、人力車のハード面も、人手も足りていない。すごくありがたいことですが、これが現状です」とうれしい悲鳴を上げる。
欧米からの観光客の人気は根強いが、近年の海外富裕層の変化を感じているといい、「ここのところは東南アジアの方々の富裕層が目立ってきました」と語る。
一方で、困っていることもある。同社が発信するSNSには外国人からこんな書き込みが寄せられるという。「『こんな奴隷みたいな仕事は辞めさせろ』といった内容です」。
人力車を引いて観光案内する従業員の約3割は女性だ。確かに力仕事ではあるが、「海外の方からの『女性を馬のように働かせて非人道的だ』といったコメントもあります。スタッフが街頭でお客様にお声がけする際や、ただ立っているところに、海外の方から『君たちは貧しいんだな』と言われることもあります。国・地域や文化の違いがあることは分かっています。ただ、人力車はきちんとした職業で、従業員が充実感を持って働いていることを、理解していただけていない側面があるのかもしれません。誹謗(ひぼう)中傷めいたことをわざわざ僕らに一方的に言わなくてもいいのではないか、と思います。日本の方からも『どうせ暴利をむさぼっているのだろう』と悪口を書き込まれることもあります。99.9%以上の方々には人力車を理解いただいて楽しんでいただいているので、どこの国の人であっても、世界にもそういう人はいるんだなという受け止めでいます」。複雑な心境を明かす。
人種や職業への差別があってはならない。西尾社長は「人力車の仕事は、観光・歴史・文化に精通し、洗練された案内やトークでお客様に楽しんでもらうエンターテイナーだと思っています。旅を満喫するコンテンツでもあります。日本の皆さんにも海外の皆さんにも楽しんでいただけるよう、全力でさらに取り組んでいきたいと考えています」と言葉を紡ぐ。
求められる発信力の強化 「もっともっとみんなで浅草の町全体の発信力を高めていかなければ」
従業員にとって、海外客への接客はプラスの面ばかりだ。同社は海外研修などを整備しているが、「やっぱり生の英会話から学ぶことは多いです。従業員が一生懸命英語で説明していると、『これはこういう言い回しだよ』といろいろ教えてくれるんです。従業員によっては他の語学を習って、成果につなげています。それに、海外の方は、とにかく知りたがります。『ここにこの寺や神社がある歴史的背景はなんなのか』『なぜこの場所にこのシンボルがあるのか』。深いところをどんどん質問してきます。そうなると、こちらはたくさん勉強しないといけないですよね」。スキルアップに結び付いているという。
同社が重きを置いているのが、口コミだ。「いわゆるGoogleレビュー。これは大きいです。例えば、海外客様が2ショットを希望して一緒に撮ります。その方が満足していただければGoogleに感想、そして、俥夫の名前を書き込んでくれるんです。それが回りに回って、『君に会いに来たよ』と別の海外客様からご指名をいただくんです。過去に何人もその事例があります。だからスタッフには『自分のファンを世界中に作るんだぞ。そうすれば、もし人力車を辞めた後も必ず応援してくれるから』と、人脈を大事にするよう伝えています」。
外国人客は、情報収集に積極的にSNSも活用しており、浅草には外国人だけが行列をなしているもんじゃ、とんかつ、そばといった飲食店がいくつもあるという。こんなところがあったんだ、と日本人が驚くような場所がインバウンド客の人気スポットになっている現象が起きている。
課題の多い観光施策。西尾社長は、浅草全体の訴求力のさらなる強化を訴える。「そういった店やスポットは、うまくSNS戦略をやっていると思います。最近思うことがあるのですが、浅草寺・雷門・仲見世通り、この定番コースだけで浅草観光が終わってしまうケースを多々見受けます。本当にもったいないですよ。浅草を訪れる全体の観光客の滞在時間が『4時間から2.5時間に減った』とする統計があります。浅草では着物レンタルサービスが大人気で、海外の方がよく利用されていますが、その着物レンタルを含めて、お土産店などはほとんど午後6時でシャッターを下ろします。夜の暗い浅草の街をうろうろする外国人旅行客をしょっちゅう見かけます。皆さんはお土産がめちゃくちゃ充実した、夜も光り輝くドン・キホーテにお買い物に行っています。浅草のブランド力は絶大ですが、そこにあぐらをかくことなく、もっともっとみんなで浅草の町全体の発信力を高めていかなければならないと思います」と力を込めた。