青木真也、東京で感じる孤独感「自分を理解できない人の方が多い」 明かした苦悩「しんどさある」【青木が斬る】

2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(41)。複数の書籍も出版し、文筆家としての顔も持つ。また自ら「note」でも発信をし続け、青木の“考え方”へのファンも多い。ENCOUNTでは青木が格闘技の枠に捉われず、さまざまなトピックスについて持論を語る連載「青木が斬る」を5月に始動した。連載6回目のテーマは「休暇」。地方を巡った8日間に何を考えたのか。

8日間の地方休暇で感じた東京の異常さ【写真:山口比佐夫】
8日間の地方休暇で感じた東京の異常さ【写真:山口比佐夫】

連載「青木が斬る」vol.6

 2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(41)。複数の書籍も出版し、文筆家としての顔も持つ。また自ら「note」でも発信をし続け、青木の“考え方”へのファンも多い。ENCOUNTでは青木が格闘技の枠に捉われず、さまざまなトピックスについて持論を語る連載「青木が斬る」を5月に始動した。連載6回目のテーマは「休暇」。地方を巡った8日間に何を考えたのか。(取材・文=島田将斗)

◇ ◇ ◇

 新型コロナウイルスの流行や働き方の変化、政府の地方創生事業などにより地方移住がトレンドになっている。リフレッシュ休暇、サバティカル休暇などで国内旅行をするケースもあり、地方が注目されている。プロレス巡業で地方への出張も多い青木は10月、和歌山、鹿児島、山口を巡る8日間の休暇を取った。

 この連載取材も6回目。普段はジムに併設された窓際のデスクに座り話を聞いているがこの日はソファーに腰かけ、コーヒーを片手にリラックスしながら始まった。「俺が8日間丸々空けることなんてないんです」と体が沈むほどふかふかのソファーから身を乗り出した。

「人生にとってのサバティカルタイムって言って本当は1か月くらい取るんだろうけど、その8日間がすごくいい時間でした。気付きが多かったんです」

 特に心に残っているのは和歌山県有田川町。国の重要文化的景観に選ばれた棚田(あらぎ島)が有名な自然豊かな地域だ。滞在中、記者にも写真が送られてきた。山は深い緑、田んぼは明るい緑でグラデーションのよう。川は文字通り透き通っていて冷たそうだった。

「ここで何もしないんですよ。これが俺の中で印象に残りましたね。一日もゆっくりだし自分自身との会話もあるし、一緒に行った人間と話すことも『俺たちってこういう状況だよね』みたいなこと。自分たちの向かう方向は正しいのか、ぶつけ合う時間はすごく大事でしたよね」

 地方を訪れると感じる「非日常」。これを青木の表現で言うと「成熟」だ。

「競争がなくて成熟してる。俺は競争・成長の対義語として成熟って言ってるんだけど、(地方は)すごく豊かで成長を求めていないのんびりした空間が非日常なわけなんだよね。歩いてるときにこっち(東京)が非日常なんじゃないの? って思ったんだよ。竹浦(正起)と一緒に行ったんだけど、あいつは和歌山の田舎でもずっと連絡を返してる。それって取りつかれてると思って『これはダメだ』って思ったんです」

 朝の電車は常に満員。脱毛、転職、新築マンション、お金の増やし方……さまざまな車内広告であふれている。通勤の電車ひとつとっても東京は忙しい街だ。

「東京って子どものころから競争と成長をずっと求められるんですよ。前年比いくらだとか。成長と競争、資本主義が日常でそれが正しいってなかで生きていくわけなんですよね」

 果たしてそれは豊かなのか。地方の休暇で浮き彫りになったのが東京というシステムだった。

「港区に行けばいくらの寿司、車、時計……というところに基礎がある。俺は『え?』って思う。俺は練習後に米と魚を食べる生活で十分なんです。でも世間からすれば俺みたいな人って変わってると思われるでしょ? 東京を非日常にしなきゃいけないんです。東京を日常だと思ってたらいつか壊れる。だからみんな壊れてるんでしょ。休暇期間は田舎から東京を眺める感じでしたね」

 例えば「港区女子」という現象。ハイブランドを身に付けた若者が富裕層が住む港区で華々しい生活を送るというものだ。

「格闘技選手の男もそうだよ。ブランド物を身に付けたりしてる。あれが分かってねぇなって思っちゃう。あれこそ偶像じゃん。人が作ったまやかしに踊らされちゃうのはバカだなぁと思っちゃう。モノを見る目がない。格闘技選手はみんな青木真也を怖いって思ってる。それはなぜかって言うと偽物だってバレちゃうから。俺は俺のスタイルで俺がいいと思ったものがある。この作られた社会でいつまでやってんだって思いますよ。目を覚ませって」

青木スタイルに“東京”は「耐えられない」

 地方へ行くと孤独を感じるといった話はよく耳にする。知り合いがいない場で地元のコミュニティーになじめない不安からくる言葉だ。青木は逆で東京に常に違和感があった。

「東京に俺とコアで話せるやつがいるのかって言ったら微妙だからね。竹浦とよくしゃべるけど、彼が俺のことを分かっているのかと言えば、それは分からない。正直自分のことを理解できない人の方が多いと思いますね」

 これまで連載取材終わりにはよく「このあと会食がある」と口にしていた。思い切って会食でも「異物感」があるのかとぶつけてみると「思いますよ」とにやりと笑った。

「会食もしてて『あ~』とは思うときもありますよ。俺はさ、米炊いて買ってきた魚と一緒に食べて、それでいいんですよ。鮨食ってても隣にいる人を見て『同伴か~』『2人とも金のかかってる顔してんな~』とか。くだらねぇなと思う。そういう世界観に見てきて触ってきたうえでバカにしてしまうのでしんどさはありますよね」

 短パンでリュックを背負い自転車で移動する――。これが青木のスタイルだ。

「この世界観に付き合える男も女もいないと思いますよ。青木真也と一緒に大阪に泊まったとして、朝に『モーニングカルチャーだ』ってお気に入りの喫茶店の400円のモーニング食べて『いいなぁ』って言ってるおじさんに耐えられないでしょ? 競争と成長に生きている多くの人はこれに耐えられない」

 青木にはこの新しいものが発売され続ける世の中で、15年間直して履き続けているシューズがある。「一緒にいろんなところを歩いてきたって歴史ですから」と東京を語る顔とは変わって穏やかな表情になった。

「カッコイイは機能とかデザインで差別化するのは難しいです。例えばペットボトルのゴミをつぶして環境に対して良いアクションを起こしているスニーカーがある。これが普通のスニーカーよりも値段が高くて5~6万円する。これを買う人って『この人は環境問題への意識がある人です』っていうおしゃれになるわけよ。できるだけ全てのものが無駄がないように過ごしていきたいよね」

 さらに「競争・成長で出来る限り無駄を作ってとにかく消費していくものがいいわけじゃないですか。儲からないかもしれないけどロスがない社会にしていけたらもっと豊かになるんじゃないかなって思います」と続けた。

 地方への休暇で競争社会への解像度がより上がった。一方で「もっと人受けすることをやれば仕事は取れる」の考えが抜けない自分もいる。

「競争・成長の価値観に浸かって20年。しみついた宗派を抜けるのに、いま苦しんでいるのでもっと早くこのサイクルから抜ければよかったです。『こうすれば儲かる』『こう売り上げが欲しい』って気持ちが正直あるんですよ。その考えを捨てきれない自分がいる。そこは染み付いているなと」

「東京に住所を置いちゃダメだよ。引きで見れねぇからよ」。東京で商売をしながら小笠原村に住所を置く、青木の人生の先輩の言葉だ。あのころは分からなかったが、今、心にしみている。

◇ ◇ ◇

 一発数字を出すことをゴールにしていると“点”では盛り上がりを作れるが、それは“線”でつながっていかない。数字はあくまで手段のひとつとして、広がりを作ったあとに何をするか。中心から一歩離れて成熟することも考えたい。

□青木真也(あおき・しんや)1983年5月9日、静岡県生まれ。第8代修斗世界ミドル級王者、第2代DREAMライト級王者、第2代、6代ONEライト級王者。小学生時に柔道を始め、2002年には全日本ジュニア強化指定選手に。早稲田大在学中に総合格闘家に転向し03年にはDEEPでプロデビューした。その後は修斗、PRIDE、DREAMで活躍し、12年から現在までONEチャンピオンシップを主戦場にしている。これまでのMMA戦績は59戦48勝11敗。14年にはプロレスラーデビューもしている。文筆家としても活動しており『人間白帯 青木真也が嫌われる理由』(幻冬舎)、『空気を読んではいけない』(幻冬舎)など多数出版。メディアプラットフォーム「note」も好評で約5万人のフォロワーを抱えている。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください