二宮和也と家族の七五三写真報道は「プライバシー侵害になり得る」 弁護士が見解「報道の大義名分はあるのか」

嵐の二宮和也ついて1日、一部週刊誌が家族で七五三の参拝に訪れた様子を写真とともに報道した。これに対して二宮は翌2日にXを更新し、「今回の事に関しては到底理解出来るものではありません」と抗議。「負の感情しか生まれてこない」として自身のX投稿を休止する発表した。この状況について、元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士は、「今回の報道はプライバシー侵害になり得る」と指摘した。

西脇亨輔氏
西脇亨輔氏

元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が指摘

 嵐の二宮和也ついて1日、一部週刊誌が家族で七五三の参拝に訪れた様子を写真とともに報道した。これに対して二宮は翌2日にXを更新し、「今回の事に関しては到底理解出来るものではありません」と抗議。「負の感情しか生まれてこない」として自身のX投稿を休止する発表した。この状況について、元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士は、「今回の報道はプライバシー侵害になり得る」と指摘した。

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「私生活をみだりに公開されない権利」。それがプライバシー権だ。

 今回、一部週刊誌が、二宮氏が仕事の合間を縫ってお子さんの七五三に訪れた様子を報じた。掲載された写真では、二宮氏を除く家族の顔にはボカしが施されている。だが、私はこの「七五三写真」はまさに「みだりに」私生活をさらすものだと考えた。

「名誉毀損」と違って、プライバシー権は法律には明確に書かれておらず、最高裁判所の判例などで確立されてきた。根拠は日本国憲法13条。その冒頭にはこう書かれている。

「すべて国民は、個人として尊重される」

 ただ、プライバシー権をあまりに広く認め過ぎると表現の自由とぶつかるので、認定にはハードルもある。今回、週刊誌側が二宮氏に反論してくるとしたら、次のような理由を挙げて「プライバシー侵害ではない」と主張するだろう。

(1)「七五三」は他人に隠すような行事ではないし、写真を撮った場所も神社という公共の場だ。

(2)二宮氏は自分で芸能人になったのだから、プライバシー権は一部放棄したはずだ。

 確かにプライバシー侵害が認められた裁判は、闘病中などの「見られたくない姿」をさらされたり、自宅の中までのぞき見られた事案が多いので、写真が公共の場で撮られたことは週刊誌側に有利な事情になるだろう。また、著名人相手の方がプライバシーを報道しても許されやすい。しかし、プライバシーを公表する報道が許されるには大前提がある。

 それは「報道の大義名分」があることだ。

 プライバシーに関する報道が許されるかは、私生活を公表される側の不利益よりも大きい意義が、報道にあるかどうかによる。最近ではある著名人が会食の場の写真を掲載されたなどとして週刊誌を訴えたが、週刊誌側が勝訴した。この写真には著名人とともにカジノ汚職疑惑を持たれていた国会議員などが写っていて、その関係を問うという「報道の大義名分」があったためだ。

「七五三写真」はどうだろう。それを撮影して公表する「報道の大義名分」はあるのだろうか。今回のように「特に隠すことでないが、勝手にさらされたくない」プライバシーが守られるかどうかについては2006年、東京高裁である判決が出されている。この裁判は問題となった雑誌名から「ブブカスペシャル7事件」と呼ばれている。

 この雑誌は「お宝コレクション」として多くの女性タレントの登下校の写真などを掲載。これに対して当時のモーニング娘。メンバーら16人が提訴した。判決は、写真は「興味本位の欲求に応えるものでしかない」としてプライバシー侵害を認めた上で、次のように述べた。

「芸能人である各個人が『一人にしておいてもらう権利』という内容をも含むプライバシー権を放棄したものと解することはできない」

 芸能人だからといって、時にはその立場から離れて一人の父親に戻る権利が奪われていいはずはない。今回の「七五三写真」が裁判になったとしても、二宮氏の「家族だけにしておいてもらう権利」が「放棄」されているという判断にはならず、プライバシー侵害が認められる可能性があるのではないか。

「踏み越えてはいけない一線を考える時期」

 ただし、ここでもう一つハードルがある。それは我が国では、慰謝料が認められても金額が不十分なことが多いという点だ。

「ブブカスペシャル7事件」でも判決が認めた慰謝料額は高くて220万円、低い人で17万円だった。この金額だと弁護士費用さえカバーできず、裁判に勝っても赤字になるおそれが大きい。日本の裁判は全体として慰謝料の金額が低く、このことが裁判を起こす側の障害になっている。一方で「ブブカスペシャル7」の発行部数は16万部以上。これでは慰謝料も雑誌の「必要経費」扱いで「やった者勝ち」になりかねない。

 しかし、人の心はそんなに安いものではないはずだ。人の尊厳にかかわるプライバシー権の重要性が浸透してきた今こそ、プライバシーを侵された人の救済について考え直すべきだと思う

 著名人であろうとなかろうと、誰でも「一人にしておいてもらう権利」はある。そろそろ社会全体で、踏み越えてはいけない一線を考える時期に来ているのではないだろうか。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ) 1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

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