ロバート山本、ボクシングで「人生観が変わった」 井上尚弥戦のリングに“登場”したワケ
お笑いトリオ・ロバートの山本博(46)がショートドラマ配信アプリ「BUMP」で配信中の『インスタントループ』で物語のキーポイントとなる役を好演している。お笑い芸人としての顔のみならず、役者での活躍も増えてきた中で、現在も月に10日近く、ボクシングの会場に立っているという。その真意について山本に話を聞いた。
ボクシング仕事は現在も「月に10日近く」
お笑いトリオ・ロバートの山本博(46)がショートドラマ配信アプリ「BUMP」で配信中の『インスタントループ』で物語のキーポイントとなる役を好演している。お笑い芸人としての顔のみならず、役者での活躍も増えてきた中で、現在も月に10日近く、ボクシングの会場に立っているという。その真意について山本に話を聞いた。(取材・文=中村彰洋)
――今作では「最後の晩餐」管理局の男という聞きなじみのない役で出演されていますが、いかがでしたか。
「ファンタジーで肝になるキャラクターだったので、ありがたかったです。コントだとどんな役でも“山本博”でいればよかったのですが、お芝居だとそういうわけにはいきません。性格から作り直すという意味でも、新鮮ですごく面白いです」
――ここ数年、役者やボクシングなど活動が多岐にわたっていますね。
「選手としてボクシングを始めるまでは、『芸人がこんなことやるなんて』と思っていたんです。昔はドラマに出ていることすらも、『芸人がドラマなんか出てどうすんだよ』みたいな風潮がありました。それが今は、才能が生かせる仕事があるのであれば、挑戦したほうがいい時代になっていますよね。お笑い1本で満足できていればいいですけど、結果的にそういったことが、お笑いにも自分にも生きてくるかなと思います。
お笑いしか知らない人のトークだとみんな似てきて、難しいですよね。面白いことだけをやっているつもりが、世間や別世界を知らない人になってしまう。だって秋山(竜次)の大河ドラマの話とか聞きたいじゃないですか(笑)。いろんな経験をして、興味を持ってもらった方がお得だなと思います」
――実際に山本さんもボクシングなどを始められて、変化がありましたか。
「ボクシングをやっていた時は、いろんな先輩に声をかけてもらいました。普段接することのなかった方々とも会話ができるようになって、芸人としても全く無駄じゃないんだなと感じました。僕の場合はボクシングを本当に好きになり、仕事に生きなくても構わないと思って続けていましたが、結果的にそれが味になってくるし、強靭な精神力がついていくのを実感しました。
元々僕は凝り性な部分があるので、好きなことをとことん突き詰めたくなるんです。ゲームや本、歴史も好きだったので、それらに時間を費やしすぎてしまう。だから、芸人で頑張ると決めた時、ゲームもやめましたし、趣味に時間をかけることもなくなりました。
『お笑いを勉強しないと』と思って、思いつくことをやってみても、真横でどんどんアイデアを出す秋山がいると、自分のレベルがコンプレックスになっていきました。仕事も未熟で思うようにできず、メンバーにも申し訳なくてつらかったですね。ただ、そのうちゲームや歴史の仕事もいただけるようになったりして、芸人仕事はもちろん一生懸命やるけども、余った時間は好きなものからも学んだ方が有効なんじゃないかなって思うようになりました。ただ悩んでいるだけではすぐに限界がくるだろうと、歴史や本などからもいろいろ学んでいきました」
――そこに気付かれたのはいつごろだったのでしょうか。
「ボクシングを始めた2004年ぐらいでしたね。面白いことを考えるのが得意な人であれば、100%お笑いでいいと思いますが、僕が100%やったところで、ネタを考えているのは秋山ですからね(笑)。特に手応えもない自分自身に行き詰まって、肩こり、腰痛もひどくなる。何か運動しなきゃと、吸い寄せられるように始めたのがボクシングでした。ボクシングを始めて、精神が安定したんです。
ボクシングは自分の弱さと、とことん向き合わなければならないスポーツです。自分に打ち勝った者同士が、さらにリングの上で勝敗をつける。悩みや言い訳をせず、今ある自分から強み弱みを探し出し、必死に鍛錬をして勝利をつかみ取る。そんなボクサーの生活を間近に見て、感動したんです。自分は、このレベルで日々生きていたかと考えさせられました。そこからは、自分の中でブレがなくなりましたね。それこそ秋山にも『何でボクシングやってるんだ?』とも言われました。
僕は好きで始めたのですが、結果的に企画になったり、仕事にもつながっていきました。芸人以前に山本博なんですね。山本博でやれることを頑張る。ボクシングから入ってくれて、『ロバートのお笑い見たよ』と言ってもらうこともあります。自分が好きなことを真摯(しんし)にやっていると、誰かに伝わるんだなと実感しています」
今後もインスペクターは継続「ボクシング界を支えていければ」
――現在ではインスペクター(試合進行)として、かなりのハイペースでリングに立たれているとのことですね。
「選手時代は、インスペクターという仕事をあまり理解していませんでした。日本ボクシングコミッション(JBC)のボクサーライセンスも持っていたし、トレーナーライセンスも取りました。ある日、JBCの方に『こんなに後楽園ホールに観に来てるんだったら、手伝ってくれよ』と言われたんです。最初は断っていたのですが、『人が足りない』と何度も誘われたので、研修から始めて、インスペクターのライセンスを取得しました。実際、本当に人が足りないんです。やっていることは相当ハードで能力も必要なのに、報酬は少なく、ボランティアに近い形になってしまうので、続かない人が多いんです。
レフェリーの勉強もしていましたが、『インスペクターが1番仕事が多い』と感じました。会場や控室、医務室のスタンバイ、選手の計量やバンテージチェック、試合中はリング上やセコンドのチェック、試合後は、選手の身の安全を確保します。ボクシングは危険なスポーツなので、安全を最優先しないといけません。誰よりも早く会場入りし、選手の無事を確認して、1番最後に鍵を閉めて出る。それを全部、当時のインスペクターの方にやっていただいていたのに、自分が選手時代はその存在を意識していなかったことを申し訳なく思います。
僕は、このスポーツを経験して人生観が変わりました。これからもボクシングというスポーツが続いて、同じように行き詰まった人を救ってほしい。そのためにも、とにかく選手の安全を確保して、しっかり管理すれば限りなく危険は減らせるんだと広めていきたい。そうやって未来に向けて考えた時、『インスペクターをやるべきだ』と感じて、今も月に10日近く会場に立たせてもらっています」
――5月6日に行われた、井上尚弥選手とルイス・ネリ選手の一戦で大きく注目されていましたね。
「もう公式戦100試合以上は担当していましたが、あれだけ注目された試合だったので、気付かれてしまいました。もう気付かれないものだと思ってやっていましたから(笑)。初めて観た人は“芸人・山本博”がリングに立っているなんて、『何やってんだよ!』となってしまうことは、重々承知していますが、それはJBC側で決められたことで、僕は真面目に仕事を全うしました。もちろん話題性を求めて、あの試合を希望なんかできるわけありませんし、僕もするつもりないですよ(笑)。JBCにこれまでの評価をいただいて、決定されたんでしょうね。僕はどの試合を担当しても、同じ思いでやります」
――強い使命感を持って会場に立っていることが伝わってきます。今後もインスペクターを続けていきたいとお考えですか。
「今はそう思っていますね。最近、インスペクターの存在も知られてきて、少しずつ後輩も増えてきました。僕と同じような気持ちで頑張っている仲間とボクシング界を支えていければと思います。でも、まだまだ根性ある人は募集してますので(笑)」