小川直也が「根性論」と「詰め込み教育」を全否定しないワケ「良いか悪いか“やった人”が言うべき」

“暴走王”小川直也が自身のYouTubeチャンネル「暴走王チャンネル」を更新した。同チャンネルでは「1・2の三四郎」「柔道部物語」の原作者、漫画家の小林まこと氏との対談動画を公開中だが、話はいつしか昨今の合理的な練習を推進する声に“異”を唱えるものに。今回はこれを取り上げる。

暴走王と小林氏(左)による“ハッスルポーズ”
暴走王と小林氏(左)による“ハッスルポーズ”

練習嫌い? 4年半で世界王者になる練習とはどんな練習なのか

“暴走王”小川直也が自身のYouTubeチャンネル「暴走王チャンネル」を更新した。同チャンネルでは「1・2の三四郎」「柔道部物語」の原作者、漫画家の小林まこと氏との対談動画を公開中だが、話はいつしか昨今の合理的な練習を推進する声に“異”を唱えるものに。今回はこれを取り上げる。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

 今回公開された動画のテーマは「逃げる」。内容的には小林氏が過去に経験した、原稿の〆切と編集者からいかに逃亡してきたのか。その逃げ方を面白おかしく語っていると、話はそこから小川に「柔道から逃げたかったことは?」との方向に。すると小川は「しょっちゅうあったよ」と即答した。

「(柔道を始めてから)4年半で世界チャンピオンになる練習ってどんな練習なのかって。当時は『練習嫌い』とか言われたけど、日本一とか世界一になる練習を知らないから普通に言うわけよ。だって俺と同じような練習をするヤツはみんな逃げてたもん」

 一般的に「練習嫌い」聞くとなまけ者を連想させるが、小川は「練習嫌いって言われても、いやー、みんな嫌いになると思うよって思うじゃん、俺なんか」と話した。

 小川いわく、「だって当時、現役の警察チャンピオンが、泣いて『行きたくない』って言ってたって。『あいつに殺されるから』って泣いて。向こうは警察だから半分仕事で柔道をやっている人でしょ。当時、俺の先輩が監督をやっていたんだけど、『今日(その警察チャンピオンは)来ないんですか?』って聞いたら『実はさ、泣いてな』って。大の大人が泣いて行きたくないって、それ仕事放棄じゃないかと思ったけど」と当時を振り返る。

 さらに小林氏が「日本代表は逃げられないもんね?」と問うと、小川は「(日本代表からは)あまり逃げようって気はなく。今、これがやらなきゃいけないことなのかなとしか思っていなかったですけどね、当時は」と話し、「あまり深くは考えなかった」「しかも4年半って柔道歴が浅いじゃないですか。だから考え方も新鮮だったし、なんでみんなこんなにやらないの? って逆に思ったくらい」と明かした。

 とはいえ、小川は「一番キツかったな、大学時代(の練習)は。毎日、収容所に働きに行くようなイメージだったよ。重労働をさせられる。強制労働みたいな」「やらなきゃやられるしっていう世界だから」と話したが、「当時はまだ、水を飲むな時代だからさ。トイレの手を洗うとこの水はみんな飲んでたし、俺もやってたよ。水を飲まないとさすがにマズいなと思うくらい。夏なんか柔道着の汗が垂れてくるくらいにやったからさ。エアコンもねえんだからさ」と、いかに過酷な状況で練習をしていたのかを口にする。

動画には、小林氏の代表作のひとつ「ホワッツマイケル」の表紙に使われた原画を小川直也が譲り受ける場面も【写真:(C)小林まこと/講談社】
動画には、小林氏の代表作のひとつ「ホワッツマイケル」の表紙に使われた原画を小川直也が譲り受ける場面も【写真:(C)小林まこと/講談社】

「根性論がいいか悪いかって“やった人”が言うべき」

 それでも小川は、「それをやって結果が出ちゃうから、あ、これをやらなきゃいけないのかなって思っちゃうんだよね。人間て、結果が出ちゃうと、これが正しいんだって思っちゃう」と話し、過酷な練習のおかげで世界のトップレベルに自身がたどり着けたことを認めながら、「気持ちでは負けたことがない」理由も、やはり練習量の違いから来たものだったと告白している。

 これには小林氏も、「長時間練習は意味がないとか、合理的な練習にしないといけないとか、昔からよく出てくるけど、結局、根性論が最後には勝つっていうか」と、世間に存在するそういった流れに懐疑的な思いを持っていることを明かすと、小川もこれに呼応する。

「根性論がいいか悪いかって、(合理的ではない練習を)やった人が言うべきだと思うんですよ。じゃないと分からないじゃないですか。長時間練習をしてもいないのに、『効果が……』って言われても。よく、やってもいないヤツが相対的評価でデータを出して、これは意味がないって結果に結びつけるんですけど、実際に長く練習したヤツがいないからデータがないんですよ」

 ちなみに、なぜ小川が「根性論」を全否定しないのかといえば、そこには裏付けがある。

「明治大学の練習がキツいって言われてた時代は、僕を筆頭に一つ下に吉田(秀彦)がいて……」と小川以外にも4人の世界チャンピオンを輩出した実績があるというのだ(※動画には出ていないが、タイトルには女子も1人世界チャンピオンになった旨の記載がある)。

 小川によれば、「各学年7人くらいしか(柔道部員が)いない数少ない中で」それだけの成果を出したにもかかわらず、「それぐらい裏付けされているんだけど、そういうデータが出てこない」と証言し、「(ジャンルに関わらず)みんな上に来ている方々って詰め込み教育されてるけどな。どの分野もみんな死ぬくらいやったって」と話した。

 なお、小林氏が現在連載中の『JJM女子柔道部物語』(講談社)を手がけることになった理由も、「(モデルになった物語の舞台は)普通の公立高校の柔道部なんですけど、それがなんでこんな強くなったんだろうって疑問だったわけ。取材をしたら長時間練習をしてるわけ。6時間とかね。かえって新鮮でしたね結局ここだよなと思って」と明かす。

「やるかやらないかは本人に任せればいいのにと思って。それが続くか続かないのは別次元の話だから」(小川)

「根性論」と「詰め込み教育」に背を向け、ゆとり教育を推進してきた結果、この国はどうなったのか。政府や教育関係者は今一度、何が必要で何が不要なのか。改めて再考すべきタイミングが来ていることは間違いない。

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