堂本剛27年ぶり単独映画主演作 荻上直子監督が2年前からラブコール「堂本さんありきの企画」

KinKi Kidsの堂本剛(45)が27年ぶりに映画単独主演を果たした『まる』(10月18日公開)のメガホンを取ったのが、『かもめ食堂』『波紋』で知られる荻上直子監督(52)。本作は堂本ありきで企画し、荻上監督と企画プロデューサーの2年前からのラブコールで実現した。荻上監督が見た堂本剛は……。

堂本剛の魅力について語った荻上直子監督【写真:ENCOUNT編集部】
堂本剛の魅力について語った荻上直子監督【写真:ENCOUNT編集部】

劇中の一筆書きの「○」は「堂本さんのセンスです」

 KinKi Kidsの堂本剛(45)が27年ぶりに映画単独主演を果たした『まる』(10月18日公開)のメガホンを取ったのが、『かもめ食堂』『波紋』で知られる荻上直子監督(52)。本作は堂本ありきで企画し、荻上監督と企画プロデューサーの2年前からのラブコールで実現した。荻上監督が見た堂本剛は……。(取材・文=平辻哲也)

『まる』は言語化が少々難しくもユニークな作品だ。主人公は、美大卒だがアートで生計を立てられず、人気現代美術家のアシスタントに甘んじている男・沢田。ある日、事故でけがをしたことから、仕事を失ってしまう。しかし、部屋にいたアリに導かれるように「○」を描いたところ、知らぬ間に現代アートとして認められて、人生が一変。正体不明のアーティスト「さわだ」として人気に。世界も、沢田自身も「○」にとりつかれていく……。

「私は今まで当て書きをしてこなかったんですけど、『まる』は堂本さんありきの映画です。以前のインタビューにあった『若い頃に自分を見失ったことがあったが、音楽と巡り合うことで楽になった』といった発言を読んで、自分が分からなくなってしまった男性を書きたいと思いました」

 堂本にとっては『金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』(1997年)以来27年ぶりの単独主演映画となる。その魅力とは何か。

「20年ほど前にテレビで堂本さんを見たとき、自分よりもつらそうな人がいる、と思い気になり始めました。テレビに出る方は、9割方出たくて出ていらっしゃるし、有名になるためにがむしゃらに頑張っているわけですけど、その真逆にいるから目に留まってしまったんです」

 ほとんどの監督作は脚本を作ってからキャスティングしてきたが、本作では企画段階から堂本サイドが興味を示してくれたことから、おおまかなプロット作りをしてから、堂本自身と長く話し合って脚本に落とし込んでいったのだという。

「堂本さんには、アーティストでいて欲しかった。音楽をやってらっしゃるので、(映画では)音楽でない別のジャンルのアーティストをやって欲しいと思っていました。思った以上にとても繊細で真面目ですし、すごく純粋な方。毎日、撮影の前にはすごい時間をとって話し合いをして、慎重に擦り合わせをしてから撮影する。だから、堂本さんはどんどん主人公のキャラクターに近づいていきました」

 劇中、主人公・沢田は迷いなく、一筆書きで「○」を書く。それが思いがけず、アート作品として評価され、正体不明のアーティストとしての評価が高まっていくが、その「○」の形には不思議な味わいとアートとしての説得力もある。

「そこは堂本さんのセンスです。一発目からすごい上手い○を書いてくれました。事前に練習してきたわけではなく、突発的に書くものだから、すごいんでしょうね。才能だと思います。映画では実際に堂本さんが書いたものを使わせてもらいました」

吉岡里帆のコメントに感心「いいこと言うなぁと」

 主人公を取り巻く人物も荻上監督作品らしく個性的。アパートの薄い壁を隔てた隣人・横山役は綾野剛。アパートの壁に穴を開け、くすぶっている自分にいら立っている。富裕層の搾取に対して、声を上げる元アシスタント役には吉岡里帆、ミャンマー出身のコンビニ店員役は実際にミャンマー出身の森崎ウィンが演じた。

「堂本さんと綾野さんは、とても仲良くなっていました。私はあまりリハーサルはやらず、現場で人物の気持ちの部分を話し合っていくことが多かったです。テイク数も多くはありません」

 荻上監督作品は『バーバー吉野』(2003年)、『かもめ食堂』(06年)、『めがね』(07年)などオフビートなテンポにおかしみをにじませた独自の作風が魅力。近作『川っぺりムコリッタ』(22年)では下層の人々の営み、『波紋』(23年)では女性の自立と宗教問題など社会的なテーマにも挑戦してきた。作家性の変遷には何があったのか。

「外国の方からは『どんどん暗くなっていく』と言われましたが、確かにそうかもしれないと思ったりしています(笑)。『彼らが本気で編むときは、』(17年)を撮るまでの何年間が苦しかったんです。すごく撮りたいし、休んでいるつもりもないし、ずっと脚本も書き続けるんですけど、撮れなくて、悔しくて、悶々とした時期があったんです。最近でも、『川っぺりムコリッタ』は1度、流れたこともあって、原作があれば、映画を撮れるのかと思い、(原作となる)小説を書いたこともありました」

 本作は、壁にぶつかっている人、悩みを持っている人が生きるヒントが詰まっている。

「堂本さんも『自分でいられるヒントがあるんじゃないか』とおっしゃっていました。堂本さんのラジオ番組には、リスナーからの悩みの投稿がたくさんあるのですが、私には、彼がみなさんの悩みを吸収してあげているように見えるんです。吉岡里帆さんは、『タイトルと裏腹にまるく収まろう、まるく関わり合おう、まるく落ち着こう、そういった事とは正反対の“まる”からの脱却、逸脱、と良い意味の裏切りを秘めた作品です』とコメントしてくださったんですが、いいこと言うなぁと思いました」。映画は二重丸の出来栄え。今後の荻上監督作にも期待したい。

□荻上直子(おぎがみ・なおこ)1972年2月15日、千葉県出身。94年に渡米し、南カリフォルニア大学大学院映画学科で映画製作を学び、2000年に帰国。04年に劇場デビュー作『バーバー吉野』でベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞受賞。06年『かもめ食堂』が単館規模の公開ながら大ヒットし拡大公開。北欧ブームの火付け役となった。以後ヒット作を飛ばし、17年に『彼らが本気で編むときは、』で日本初のベルリン国際映画祭テディ審査員特別賞他、受賞多数。近年の監督作には『川っぺりムコリッタ』(22)、第33回日本映画批評家大賞・監督賞を受賞した『波紋』(23)などがある。

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