車選びから保険や税金対策まで…選手にとってスカウトは「お父さん」 ドラフト以降も続く関係性

いくつもの物語が生まれるプロ野球ドラフト会議が10月24日に開催される。多くの野球人の人生が動くその瞬間。この日のために長い歳月を掛けて汗を流し続けるのがスカウトという役職だ。選手とスカウト、入団後の両者の関係性がどのように変化していくかはあまり知られてはいないだろう。

西武の十亀剣スカウト【写真:球団提供】
西武の十亀剣スカウト【写真:球団提供】

ドラフト以降も続く“固い絆”「道を照らす存在」

 いくつもの物語が生まれるプロ野球ドラフト会議が10月24日に開催される。多くの野球人の人生が動くその瞬間。この日のために長い歳月を掛けて汗を流し続けるのがスカウトという役職だ。選手とスカウト、入団後の両者の関係性がどのように変化していくかはあまり知られてはいないだろう。

 西武の十亀剣アマチュアスカウトは、11年間の現役生活を終えた後、セカンドキャリアとしてスカウトを選択した。JR東日本での2年間の社会人野球を経て、2011年のドラ1として西武に入団した。

 当時、十亀氏を担当したのが竹下潤スカウトだった。現在もスカウトの大先輩として、一緒に仕事をする間柄だ。「私にとっては、関東のお父さんみたいな感じです」とその関係性を表現する。

「私の地元は愛知県で、関東のことは全然分からなかったので、選手としてのみならず、人間性の面でもいろいろなことを教わってきました。私もそうやっていきたいと思っています」

 新人スカウトだった昨年と2年目に入った今年の大きな違いは担当選手の存在だ。十亀氏にとっての初めての“息子”はドラ1左腕・武内夏暉。1軍でローテーションを守りながら、新人王争いを演じる活躍を見せている。「やっぱり自分が取ってきた選手が活躍してくれるのはうれしいですね」。

 竹下氏が十亀氏にしてくれたように、十亀氏も武内に選手としてのみならず、1人の人間として、成長するための手助けも行っている。福岡出身の武内にとって、右も左も分からない埼玉での生活。入寮時のサポートはすべて十亀氏が行った。

「10何年ぶりに所沢市役所に行きました(笑)。転入出届けや住民票だったり、その辺りの手続きを行ったのですが、全く覚えてなかったです」

間近で人間としての成長を見届けられるスカウトという仕事「とてもやりがいがある」

 あまり表には出てこない選手とスカウトの入団後の関係性は言うなればまさに親子。1人暮らしのタイミングや引越し先のアドバイス、車選びから保険や税金対策まで、親身に相談に乗っている。

 十亀氏は「お節介です」と笑いながらも、「親御さんも福岡にいらっしゃるのでなかなか会いに来れません。その中で、この人だったら大丈夫と安心してもらえるような存在になりたいです」と、自分自身が竹下氏に助けられたことをそのまま行動に移している。

 もちろんプレー面でのアドバイスをすることもある。「我々はピッチングコーチではないので、助言ぐらいにはしています」と前置きしつつ、「ここが違うんじゃない?」といった問いを投げかけることはあるようだ。

 また、トレーナーにコンディション面、トレーニングコーチに練習メニューを確認したりと現状の把握もつねに行っている。時には、コーチ陣から課題点について「十亀からも言ってくれよ」とお願いされることもあるという。

 9月16日に武内がプロ初完封を果たした際には、「いい修正ができていた。良かったね」とメッセージを送った。武内からは「ありがとうございます」とそっけない返事が届いたというが、「何かを求めてるわけじゃないので」と親心をのぞかせた。

 十亀氏にとって何もかもが初めての経験。武内とともに成長する部分も多い。「私自身、新しく彼から学ばせてもらってることも多い」と感謝も口にする。

 目指すは、大先輩でもあり、担当スカウトでもあった竹下氏の背中だ。「前が見えない中でしっかりと道を照らしてくれた存在です」。

 今後、次男に三男、四男とたくさんの子どもたちの成長を見届けることになるだろう。「やんちゃな男の子たちばっかりですけどね」と照れ笑いしながらも、「人の成長を見届けられる、とてもやりがいのある仕事です」。十亀氏の“息子”たちは、今後どのような形で親孝行してくれるのだろうか。

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