「人権派」のはずが…羽賀研二容疑者と共に逮捕 日本司法書士会連合会・副会長の報酬は月15万円

タレントの羽賀研二(本名・當眞美喜男)容疑者が25日、強制執行を免れる目的で不動産の虚偽登記をしたなどとして、強制執行妨害などの疑いで愛知県警に逮捕された。共謀したとして暴力団組長・松山猛容疑者ら6人も逮捕されたが、その内の1人、野崎史生容疑者は日本司法書士会連合会の副会長だった。同会は急きょ、遺憾の意と謝罪を示す会長談話を発表。大きな波紋が広がっている。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士がその背景を分析した。

西脇亨輔弁護士
西脇亨輔弁護士

元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が事件を分析

 タレントの羽賀研二(本名・當眞美喜男)容疑者が25日、強制執行を免れる目的で不動産の虚偽登記をしたなどとして、強制執行妨害などの疑いで愛知県警に逮捕された。共謀したとして暴力団組長・松山猛容疑者ら6人も逮捕されたが、その内の1人、野崎史生容疑者は日本司法書士会連合会の副会長だった。同会は急きょ、遺憾の意と謝罪を示す会長談話を発表。大きな波紋が広がっている。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士がその背景を分析した。

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「将来の会長候補」。誰もがそう思うような経歴の持ち主だった。それなのに、なぜ。

 ウソの不動産登記をしたなどとして羽賀容疑者とともに現役の司法書士、それも日本司法書士会連合会(日司連)の副会長が逮捕された。

 司法書士というと登記の専門家というイメージがあるが、近年では高齢者の判断能力をサポートする成年後見人や簡易裁判所の訴訟代理人など活躍の場を広げている。そうした司法書士業務を行うために法律で加入を義務付けられているのが日司連だ。公的団体で幹部の社会的地位は高く、会長経験者は旭日中綬章などの叙勲を受けることが多い。

 野崎容疑者も、この会長の座に着々と近付いていたはずだった。同容疑者はさまざまな社会問題に取り組む「全国青年司法書士協議会」の会長や日司連の常任理事を歴任し、副会長に上り詰めた。現在の日司連会長も同じ経歴から会長になっているので、後を継ぐ日も近かったのではないだろうか。岸田文雄内閣による「ギャンブル等依存症対策推進関係者会議」の現役メンバーでもあり、LGBTの権利を訴えるイベントや多重債務問題の懇談会に出席するなど、公益活動に熱心に取り組む姿もうかがえた。

 それなのに、なぜこんなことになったのか。事件があったのは2023年6月、ちょうど野崎容疑者が副会長に選出された時期だった。

 事件の詳細は明らかになっておらず、可能性の指摘しかできないが、一般的には、公益活動への熱心さと経済的収入は比例しないことが多い。日司連の幹部となると会議や公的行事などに多くの時間を割くことになるだろうが、その報酬は会の規程で、会長で「月65万円」、野崎容疑者のような副会長だと「月15万円」とされている。既に一定の経済基盤を築いていない限り、この金額だけで事務所経営をしていくことは難しそうだが、そんな中で何らかの働きかけがあったのか。

 ただ、司法書士が結果として不正な登記の手続きを行ったとしても、不正と知らずにやったのならば罪になることはない。羽賀容疑者は20年にも、強制執行を逃れるために当時の妻と偽装離婚をして自分の不動産を元妻に移すウソの登記をしたなどとして、実刑判決を受けた。だが、その判決文には、事情を知らない司法書士にウソの登記申請を「させた」と書かれていて、登記手続きをさせられた司法書士は何の罪にも問われていない。とすると、今回逮捕された野崎容疑者は、司法書士として「言われた通りに登記申請をした」だけではない関与をした疑いを持たれたと考えられる。

思い出す先輩の教え「仕事を断る勇気を持つように」

 実は前回の強制執行逃れ事件では、羽賀容疑者は地元の弁護士に繰り返しアドバイスを求めていた。判決によると、羽賀容疑者は弁護士らに当時の妻と離婚して不動産を移すというやり方の問題点について質問。弁護士らからは「止めた方が良い」と言われたが、それでも再び離婚関係書類の作成を依頼し、最終的には弁護士らが「書類の効力を保証するものではなく、責任を負わない」という契約を羽賀容疑者と結んだ上で、離婚関係書類を提供したとされている。今回はさらに踏み込んだ相談を羽賀容疑者が野崎容疑者にしたということなのだろうか。暴力団関係者も逮捕されているこの事件に司法書士としてどのように関わったのかは、今後の捜査の焦点となるだろう。

 ただ、この事件のニュースを聞いてふと思い出したのは、約10か月前に私が会社を辞め個人営業の弁護士を始める時に、先輩から受けた次のような教えだった。

「仕事を断る勇気を持つように」

 個人事業主を始めてみると、最後は徹底的に孤独だと実感することが、会社にいた時よりも多い。仕事に対する一つひとつの判断を自分独りで行う中で容疑者は何かを踏み外してしまったのか。同じ法律の世界に身を置く1人としても、この事件の真相を追っていきたいと思う。

※野崎史生容疑者の「崎」の正式表記はたつさき

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

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