行定勲監督、韓国ドラマ初挑戦で感じた日本との違い 意見する俳優陣に撮影スタッフの力技「とても優秀」
『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』のユン・セア(46)とキム・ビョンチョル(50)が再共演した韓国ドラマ『完璧な家族』(全12話)がドコモの映像配信サービス「Lemino」で独占配信中だ。演出を手掛けたのは『GO』『世界の中心で、愛をさけぶ』『リボルバー・リリー』で知られる映画監督の行定勲氏(56)。ベテラン映画監督が初めて体験した韓国ドラマの現場とは?
ドラマ『完璧な家族』が「Lemino」で配信中
『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』のユン・セア(46)とキム・ビョンチョル(50)が再共演した韓国ドラマ『完璧な家族』(全12話)がドコモの映像配信サービス「Lemino」で独占配信中だ。演出を手掛けたのは『GO』『世界の中心で、愛をさけぶ』『リボルバー・リリー』で知られる映画監督の行定勲氏(56)。ベテラン映画監督が初めて体験した韓国ドラマの現場とは?(取材・文=平辻哲也)
中国ロケした三浦春馬主演の映画『真夜中の五分前』(2014年)を始め、中国、台湾、マレーシア、韓国での撮影経験もある行定氏だが、演出家として単身で海外に乗り込むのは初めて。「これからは全世界配信が主流になる中、どこで撮るかは関係ないと思いました」。連続ドラマの演出も本作が初めてとなる。
『完璧な家族』は、娘ソニが引き起こした殺人事件をきっかけに、幸せに見えた家族の闇が次第に明かされるというミステリー。原作は韓国発の縦読みコミック「ウェブトゥーン」の同名人気作。『SKYキャッスル』のキム・ビョンチョルとユン・セアがそれぞれ優秀な弁護士の父、美しく優しい母を演じている。
「俳優たちとは、Zoomミーティングを持ちました。早い段階で決まったのはユン・セアさん。それから、キム・ビョンチョルさんが決まり、両親役が『SKYキャッスル』の2人だという話にもなりました。気になってドラマも見ましたが、全然違う役ではあったので、『SKYキャッスル』再び、というのもインパクトがあるんじゃないか、という話になったんです」
娘ソニ役は『禁婚令ー朝鮮婚姻禁止令ー』『時速493キロの恋』、Netflixドラマ『人間レッスン』のパク・ジュヒョン。ほかにも『ペントハウス』や『禁婚令ー朝鮮婚姻禁止令ー』でブレーク中のキム・ヨンデ、チェ・イェビンら売れっ子若手が集まっている。
「パク・ジュヒョンは韓国芸術総合学校出身です。韓国では演技学校出身というのがすごく重要視されていると感じました。彼らの演技を見ているだけで面白いし、すごく力がある。演技の質も高くメソッドをちゃんと学んでいます。どっちがいい悪い、ということはないですが、日本の場合はメソッドを排除して、ナチュラルな自分らしさを出しています。そこに違いを感じました」
クランクインは昨年10月下旬。当初は言葉の壁、システムの違いに戸惑うこともあったが、4日目から慣れてきたという。
「俳優たちがよく使っていたのが『チェ・センガゲヌン』(私の考えを申しますと)という言葉です。これは、カメラマン、美術監督たちスタッフもよく言っていました。韓国では、まず意見を言うのが流儀なんです。だからと言って、その通りにやらせてほしい、ということでもない。こちらの考えを伝えると、『できます』『考えてみます』と返ってきます。俳優たちは的確な演技を見せてくれる人だったので、そこから意見をぶつけてみればよく、俳優たちに助けられたことも多かったです。彼らは自分の役(キャラクター)を守りたい、という立場で意見を言ってくるのです」
“海外あるある”に戸惑いも
一方、製作体制には戸惑いもあったという。当初は配信のみ全8話のドラマだったが、途中からKBS(韓国の三大ネットワーク局)のドラマ枠で放送されることも決まり、放送フォーマットである12話に増やすことになった。そのため、スケジュールが思いのほか短くなってしまい、普段のように粘る演出はできなかったという。
「事情が変わるのは、“海外あるある”ですが、事情を聞いても仕方ないし、自分はやるべきことをやるだけだと思いました。9話以降は自分で脚本を書き直しました。そこには注目してほしいです」
現場での厳格な労働時間ルールにも違いを感じたという。
「日本ではグロス(全体)で考えるのが慣習ですが、韓国では撮影日数ごとの契約で、現場スタッフの労働時間は週52時間以内と決まっています。実働は週4日間しかありませんでした。実働日数で製作費も変わっていくので、時間とのせめぎあいもありました。スタッフは、このことも理解した上で現場に入っています。移動時間がもったいないので、急きょ近場でロケすることも度々ありました。カメラマンはロケハンもしていない場所でも、あたかもプランがあったように撮り始めるので、とても優秀だと感じました。日本人は良くも悪くも慎重で、準備を怠って撮影することができない。韓国は変更を受け入れ、その不完全な環境の中でも力技で成立させる。そこは日本とは違う部分かもしれないと感じました」
連続ドラマの演出は、流れ作業的な面も多く、最終編集権も持てなかった。だが、編集マンは行定監督のオフビートな演出を理解してくれた人物で、意図も汲み取ってくれたという。
「韓国ドラマをやってみて、なぜウェブトゥーンが韓国ではやっているのか、よく分かりました。ウェブトゥーンは縦型のスクロールで見るコミックですが、これが韓国の映画作り、ドラマ作りと直結しているんです。基本的には縦ノリのビートでノリをよく、悲しい時はバラードといった感じで単純化されている。それでいて、ある程度のクオリティーを作り上げています。そこには現場の底力を感じました」
世界の映像業界の主流は、映画から配信にシフトしつつある。「韓国ドラマの製作現場を経験したことで、配信、地上波、映画の世界が変わっていくんだと実感しました。もう1回韓国ドラマをやるかは分かりませんが、韓国映画界で撮ってみたいという気持ちはあります」と行定氏。制約の多い中で、韓国人スタッフ、キャストと一つの作品を作り上げた手応えを感じつつ、時流の変化も肌で感じ取ったようだ。
□行定勲(ゆきさだ・いさお)1968年8月3日、熊本県出身。2002年『GO』(01)で、第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ数々の映画賞を総なめにし、脚光を浴びる。2004年『世界の中心で、愛をさけぶ』が、興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象に。2018年『リバーズ・エッジ』が、第68回ベルリン国際映画祭にて国際批評家連盟賞を受賞。その他にも、『北の零年』(05)、『今度は愛妻家』(09)、『真夜中の五分前』(14)、『ナラタージュ』(17)、『窮鼠はチーズの夢を見る』(20)、『リボルバー・リリー』(23)などを手掛ける。
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