「下手だけど華はあるね」33歳・和田雅成が支えにした言葉 「上達したい」培った負けん気

舞台を中心に活動している俳優・和田雅成の主演舞台『月農』(東京・シアターサンモール)が10月9日に開幕する。10代からキャリアを重ねてきた33歳が、培った俳優としての負けん気、今年出演した作品での苦闘などを明かした。

インタビューに応じた和田雅成【写真:北野翔也】
インタビューに応じた和田雅成【写真:北野翔也】

『月農』主演・和田雅成が明かす舞台への思い

 舞台を中心に活動している俳優・和田雅成の主演舞台『月農』(東京・シアターサンモール)が10月9日に開幕する。10代からキャリアを重ねてきた33歳が、培った俳優としての負けん気、今年出演した作品での苦闘などを明かした。(取材・文=大宮高史)

『月農』のキービジュアル。薄汚れた衣装をまとった和田が、光差す山並みをバックに畑の上でひとりたたずんでいる。同作は、和田が演じる過去を隠して田舎で暮らす男・津久井を軸とした群像劇で、津久井が田舎町での交流から人生を見つめなおしていく。作品の印象を和田はこう例えた。

「自分も含めた人間の嫌なところを揺さぶられて表にさらけ出す。そんな劇です。人生って泥くさいし、うまくいかないことだらけですが、お客さまにとって1本の光が差すような作品になればと思っています。淡々と進んでいく芝居ですが、舞台上での会話の余韻も楽しみながら演じられそうです」

 気鋭の劇作家・私オム氏と俳優・演劇プロデューサーの宮下貴浩氏が、毎年タッグを組んでプロデュースしてきた公演の最新作でもある。

「私オムくんの作品って、オレンジ色のイメージがあります。温かみがあって、メッセージを客席に押し付けるわけでもなく、解釈を委ねてくれる感じがしていて。人生のどんなタイミングで見ても、プラスの気持ちになれる作品たちです」

 和田自身は「役作りをガチガチにせずに、会話のキャッチボールを楽しんでいくスタイル」を大切にしているという。だからこそ、稽古場、本番で生まれる臨機応変な掛け合いに敏感だ。

「ほとんどの現場で、みんなが初対面のところから芝居を作っていきます。初対面だからこそ生まれる空気感、会話のキャッチボールから、それぞれの役作りにつながっていくのだと思っています。日替わりで役者同士から生まれるやりとりがアイデアのきっかけになるので、初めての出会いはいつでも楽しみです」

 その感度は、客席に向けても発揮されていく。

「私オムくんからは『客席と舞台の橋渡しがうまい』と言われます。僕自身、幕が上がるごとに場の空気に応じて芝居をどんどん変えていく役者です。例えばコメディーで『お客さんがノリについてきていないな』と思えば、芝居のペースを速めて、流れに乗って笑ってもらおうとします。逆に客席がノッていれば、余韻も味わってもらうべく芝居のテンポを遅くしたりします。演劇って客席と舞台が一緒になって1つの空間を作り上げています。だから、お客さまにも芝居の中の非日常をできるだけリアル感をもって体験してほしいんです」

SNS時代でも「雑音に動じなくなりました」

 アドリブ力にも長けている和田だが、今年2月に出演した舞台『エウリディケ』では大いに悩んだという。

「白井晃さんが演出の舞台でした。先輩から『白井さんと稽古すると訳が分からなくなるよ』と聞いていていましたが、本当にその通りでした。日によってダメ出しが正反対だったりするんですね。『子どもっぽくやって』と言われた次の日に『大人っぽくして』となったり……。だから1度、どうセリフをしゃべったらいいのかも分からなくって、初日直前でもほとんど手応えをつかめずにいました」

 そんな中、和田は「演技の正答」にこだわらないように思考を切り替えていった。

「白井さんに限らず、演出家って稽古場でも僕らの芝居を楽しんでいるんです。頭の中に演技の正解があるのではなくて、その場に応じて、舞台が最も盛り上がるものを追求しているんだと気づきました。答のない芝居を毎回試していると思えば緊張がほぐれ、共演者もみんな苦戦していて、『このまま終わりたくない』と思って初日へ向かいました」

 負けず嫌いなところは、俳優を続けていけるモチベーションにもなっていた。

「いろんな作品を経験して、めちゃくちゃ詰められたこともありますし、『下手だ』と言われてきました。実際、不器用でダンスも芝居も何もかも劣っていました。だからこそ、上達したい気持ちは強かったです。それに、若手時代からずっとお世話になっている人から、『あんた、下手だけど華はあるね』と言ってもらえたことがよりどころです。下手だからこその負けん気。それと、舞台の上でなら誰にも負けない自信で続けて来られました」

 評判通りの“華”を発揮して20代から主演作も多く経験してきた。だが、あえて個性を出そうとはしていない。

「結局、舞台の上では俳優の色が自然に出るんです。むしろ、演出家の意図を理解して、染まっていきたいと思う方です。ただ一方で、原作がある作品で『自分の色を消してくれ』と言われることもあって、それには違和感があります。個性を消してキャラクターになりきるのなら、モノマネになってしまうので。書き手と演者の個性がぶつかり合った時の爆発力に期待して、演じています」

 酸いも甘いも経験し、世間の風評にも一喜一憂しなくなった。

「演技が下手だと言われる分には構いません。でも、SNSの時代でもあり、僕が一緒にいた俳優さんに、強いノリでツッコんでいくところを切り取られてSNSでたたかれたこともありました。以前はそういった舞台外の雑音も気にしてしまいましたが、今は動じなくなりました」

 あらためて、『月農』に期待してほしいことを問うと、和田は言った。

「僕らが作品から『こんなメッセージを受け取ってほしい』と思うのって、上から目線で自分勝手だと思うんです。人生のタイミング、見る時の感情によってお客さまの感じ方もさまざまだと思います。ただ、演劇ってあくまでエンタメなので、演技でもストーリーでも、見てくれた方それぞれが、生きる希望になるものを何か感じ取ってもらえることが使命です。媚び過ぎないで、お客さまのためになる舞台を突き詰めていくだけです」

 その受け答えはクール。そして、真摯だった。

□和田雅成(わだ・まさなり) 1991年9月5日、大阪府生まれ。『刀剣乱舞』や『呪術廻戦』など数々の人気舞台作に出演。23年にはミュージカル『ヴィンチェンツォ』で主演を務めた。映像作品の出演も多く、今年10月期のBS日テレ系連続ドラマ『神様のサイコロ』で主演。25年は舞台『花郎~ファラン~』『きたやじ オン・ザ・ロード~いざ、出立!!篇~』などへの出演を控える。

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